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第33話 疑い

この日はなぜか、朝から厚い雲が覆っており、薄暗かった。

学院へ続く道はいつもと変わらないはずの光景。

だが、本能なのか、なんだかいつもと違う空気の流れから嫌な感覚を持っていた。

それでも―


「おはよう、アシェル」


もう偶然を装わなくても、彼女は毎朝この場所で待ってくれている。

マーガレットはいつもどおりの笑顔だった。

そんな彼女の姿を見ると、なんだか先ほどの警戒心はすっかり薄れ、少しほっとした自分がいた。


「昨日は眠れた?」

「うん」


この時間は束の間の安らぎであったが、気づくと学院の門が見えてきた。

だが、遠目からも分かるが、学院の様子はいつもと違う。

物々しい。

見慣れない人間が学院に出入りしており、何かが起こったことは一目瞭然であった。


「何なのかしら?」

「わからないね。とにかく、中に入って状況を聞いてみよう」


マーガレットも流石にこの雰囲気に少し不安を感じている様子だ。


そのまま二人で教室に向かうと、教室の中は既にざわついていた。

だが、誰一人、この学院で何が起きているか事情を知る者はいなかった。


いつもの講義開始の時間になり、担任のラフィーナが教室に姿を表す。

しかし、そのラフィーナはというと、クールに済ましているいつもの姿とは異なり、これまでに見たことのない表情だ。

ことの重大さを感じさせるように。


「講義を中止にする。お前らは教室で自習をしていてくれ」


そして、そんなラフィーナがこのように一言だけ述べると、何の説明もなく、そのまま教室から去ってしまった。


「一体何があったんやろ」

「全然わからないね」


リサリィとマーガレットが小声でヒソヒソと話している。

さすがにこの状況には教室中が困惑していた。


自習しろと言われても、これではとても集中できそうもない。

時折周りの学生とひそひそ話。

ただ待機しているというのが実情だった。


それでも2時間ほど経ち、ラフィーナが再び姿を現した。

ようやく何が起きているのかが分かる。

そんな期待が教室内で広がっていたが、思いも寄らない展開が待っていた。


「アシェル、ちょっと来てくれ」

「は、はい?」


ラフィーナは唐突に、俺を名指し、呼びつけたのだ。

教室中から俺に対する視線が集まる。

誰もが不思議そうであるが、もちろん、自分自身にも心当たりはない。


ラフィーナからは何の説明もなく、ただ、ついてこいと言わんばかりに廊下を先導され、建物の外に連れてこられる格好。

ラフィーナは俺に目を合わせもしなかった。


状況をよく飲み込めないまま、建物を出ようとすると、建物の入口には見慣れない騎士風の男が4人待っていた。


「お前がアシェルだな?」

「は、はい」

「ウィル・ハーモス、シューリスト・フォーク殺害の疑いで拘束する」


まさかの展開だった。

騎士風の男の一人がこう言うと、いきなり魔導具で俺のことを縛り上げてくる。

問答無用とはこのことだ。


俺は何を言われているのか分からず、呆然となり、なされるままに縛り上げられると、そのまま学院の敷地外に連れ出され、車に乗せられてしまった。

 ―これはいったい?


強制的に乗せられた車の中は窓もなく、外の様子も全く分からなかった。

すぐに車は動き出し、どこに向かっているのかも見当がつかない。


車の中では4人の大男に囲まれ、沈黙が続く。

カオスであったが、耐える他ない状況であった。


そして、1時間ほど車に乗っていただろうか。

急に車の動きが止まったことを感じた。


「出ろ」

一言だけそう言われて、見たこともない建物の中に連行された。


建物内は薄暗く、犯罪者を収容するような場所であることはすぐに理解できた。

そして、建物内の奥、見るからに牢獄と思われる部屋にぶち込まれた。


本当に何がなんだか分からない。

頭はうまく働かず、さすがに冷静にはいられなかった。


しばらくこの場所に監禁された後、取り調べのためなのか、やってきた男に連れられ、他の部屋に移動させられた。

部屋に入ると、先ほどの車に残りこんでいた男2名が待っていた。


「国王近衛隊のルーシア・フォルディオだ」

「同じくチュース・イエメンだ」


ここでようやく、王都で警察権をもつ国王近衛隊による捜査であることがはっきり分かった。


「お前がウィル・ハーモス、シューリスト・フォーク両名を襲ったことに間違いないな?」

「いいえ、全く身に覚えがありません」

「しらを切るというのか」


ゴクリ

典型的な尋問であったが、圧が強かった。


この男たちの表情を見ると、これからどんな恐ろしい取り調べが待っているのか。

本当に不安しかなかった。

だが、間違いなく言えるのは冤罪だ。

言うべきことをはっきりと主張する。そうしなければ身を守ることはできない。

自分なりに覚悟のようなものを持った瞬間であった。


「逆に、僕が犯人のように扱われているのはなぜですか」


俺が一番知りたかった点を尋ねてみる。


「お前には動機がある。ウィル・ハーモスを恨んでいたな」

「恨んでは・・・。多少嫌いという感情はありましたが」


否定はできないが、とても肯定できない。

剣術演習の件、幼少の頃の公証場の件と、振り返ればウィルとは浅からぬ因縁があったのは事実。

それでも殺害に至るにはあまりにも短絡的な動機だろう。


「それにもう一つ。お前は隠れ魔力持ちという話だ。

  2人が魔法で殺害されていたのは間違いない」


まさかこんな状況証拠があるというだけで連行されたということなのか?

一瞬そんな疑問が脳裏に浮かぶ。


「魔力に目覚めたのは事実です。ですが、魔法を使いこなすレベルにはありません。

 それに魔法を使えるのはプリビレッジの学生も同じではないですか?」


そこで、俺は強く反論した。

だが、男たちはさらに続けた。


「お前が犯人であると密告があった。

  ウィル・ハーモスと親しかったラード・ダカリという学生だ」


ラード?

聞き覚えのない名前であったが、ウィルの取り巻きのもう1人の方とすぐ察した。


「ですが、それは何を根拠に?僕はまだ子供です。

  人なんて殺したりしませんよ。外部の犯行では?」

「学院内は部外者が侵入できないからそれは考えられない」


この学院はプリビレッジの子息の養成の場所であり、身分のある者が集まるため、昔から魔力による結果がはられていると聞いていた。

そうすると、内部の犯行というわけか。


ここで殺害に関する情報は一切知らされていないため、ふと疑問が浮かんでくる。


「犯行はいつ起きたのでしょうか」

「昨日の夕方以降だ」


昨日の夕方?

その時間はマーガレットとリサリィと⋯。

俺には確かなアリバイがある!


「アリバイがあります。きちんと調べてください」


一瞬、男たちは互いに顔を見合わせたが、すぐに険しい表情に戻る。


「ずいぶん都合のよいアリバイだな。魔法で細工もできる。

  平民同士なら口裏合わせも容易い」


これだけ言っても俺の言い分を聞こうとはしない。

それからもしばらくこのような押し問答が続いていた。

結局、この日の取り調べが終わったのは2時間が経ったころだった。


監獄に戻されると、俺は廊下の光だけが差し込む部屋で1人思考を巡らせていた。

この薄暗い牢獄の中で、不安な夜を迎えたのであった。


【魔法世界メモ33】

国王近衛隊とは?

国王近衛隊は、国王の警護と王都の警察権をもち、治安を維持する武装組織である。

王国騎士団が王都外を管轄をするため、両者は明確に区別される。



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