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第28話 焚き火の前で

ウルワーニという魔物を討伐のあと、数時間その場で待機した。

個体調査のため、魔物がどれほどの魔力を持っているかを測るのだという。

王国騎士が魔導具を使い、計測をしている様子を眺めていた。


だが、少しひらかれているとは言え、ここはジャングルの中である。

先ほどの討伐を見ているため、学生たちはいきなり魔物が襲ってこないか一応に不安そうだ。

それでもようやく出発ということになり、さらに次の魔物を目指す。


ジャングルの奥地に王国騎士が先導し、学生たちは離れてその後を追う。

再出発から一時間ほど経った頃だった。

どうやらウルワーニとは別の魔物に遭遇したらしい。


離れたところから目を凝らすと、魔物らしき影がはっきり見えた。

アライグマのような見た目で、ウルワーニに比べるとかなり小さい。

十五匹ほどがまとまっている。


「あれはトゲールだ。気をつけろ」

護衛のユーロス・ジュリアスが学生に向けてこう告げる。


「遠方から五センチほどの硬いトゲを打ち込んでくる。

  深く刺さると血が止まらなくなるぞ」


俺たちのいる三十メートル離れた地点までそれが届くのだろうか?

学生たちの間に、ざわりとした不安が走る。


王国騎士の部隊は、ウルワーニのときと同じように盾を構え、同時に魔法で防御壁を張っていた。

周囲の学生の様子を見る限り、防御壁そのものが見えていないようだ。

魔力感度がなければ見えないのかもしれない。

だが、俺には、かすかに揺らぐ面が見えている。


部隊は一歩ずつ、ゆっくりとトゲールへ迫っていく。

トゲールまで十メートル付近まで接近した、そのとき。


トゲール群れが騎士の存在に気づき、一斉に硬いトゲを撃ち込んできた。

バ、バ、バ、バ―


鈍い音が連続し、放たれた無数のトゲは防御壁を貫けずに落ちていく。

騎士たちは構わずにさらに距離を詰めた。


次の瞬間、盾で一気に体当たりし、トゲールをなぎ倒す。

剣を持った騎士たちが、倒れた個体へ次々と突きを入れていった。


五分も経たなかったと思う。

トゲールの群れは、すべて地に伏していた。討伐完了だ。

ウルワーニと異なり、個体のサイズが小さいため、あっけなく討伐されたという印象であった。

そのため、学生たちは討伐が終わったことにあまり実感をもてないようであった。


結局、初日はウルワーニとトゲール、二つの群れの討伐で終了した。

その夜、コテージでヒルメスとパリシオンがひそひそと感想を述べ合っていた。


「魔物って、間近で見るとやっぱり怖いよね」

「怖くて見てられなかったよ」


書物で見た魔物と、目の前の魔物。

魔力という存在が獣のスケールを想像以上に大きくする。

印象が違うのは当然だった。


翌日以降も場所を変え、魔物を探索する。

同じ要領で学生たちは王国騎士から離れて動向をうかがう。

だが、このあたりで出てきた魔物は、結局初日に見たウルワーニとトゲールの二種類のみだった。


王国騎士たちはしっかり練られた戦術で討伐を繰り返す。

百戦錬磨というだけあって、一人軽傷を負った騎士はいたが、目立った被害はでなかった。


こうして、予定されていた五日間の討伐日程はあっという間に終えた。

その夜、野営地で隊長ハーベズル・フラックから学生へ簡単な説明があった。


「この付近の魔物は討伐した。魔力探知でも反応はない。

  もう安全だ。……のんびり夜を楽しんでくれ」


ハーベズルの言葉を聞いた瞬間、緊張の糸が切れたのだろう。

学生たちは一気に騒がしくなる。

王国騎士たちも今晩は盛大に宴をやるそうだ。


その夜、いつものメンバーでコテージから少し離れたひらかれた場所で焚き火を囲んだ。

まるでキャンプファイヤーみたいだった。

みんなで遠征のことを語り合う。

魔物という未知の存在が話を盛り上げる。

しばらく他愛もない話が続いた。


だが、リサリィが急に真面目な声を出した。


「うち、今まで学院を卒業したら、どっか適当な国家機関で働いて、プリビレッジに媚び売って、無難にやってこうと思ってた。でも⋯最近、そう思えんくなってきてな」


お調子者のリサリィが見せたことのない表情で、少し理解が追いつかない。


「俺もだ。プリビレッジに何をされても笑っていよう、強いものに巻かれて生きていこうと思ってたけど……今は違う」


いつもリサリィとふざけ合っているガリンソンも、真剣な眼差しだった。


「アシェル、お前がプリビレッジを打ってくれて正直嬉しかった。

  お前のおかげで吹っ切れたんだ」


フューゲルまで、真っ直ぐに感情を吐露する。


「実は、代弁者になろうかなと思ってる。アシェルとこの国を変えていきたい」


一番親しいパリシオンが爆弾発言をする。

だが、俺以外はこれにも誰も驚く様子がない。


「自分の不甲斐なさに気づいた。でも、魔物と戦うのは絶対に諦めない」


ラリオンも決意を表明した。


「国王近衛隊に入るつもりだ。そこでも、きっと何か変えられるはずだ」


普段あまり自分を語らないフリーラまで続く。

焚き火の光が、彼女の横顔だけを静かに照らしていた。


「魔法省に入って、平民の生活が少しでも良くなるように頑張りたい」


ヒルメスも言う。


 ―平民でも、プリビレッジに立ち向かうことができる


俺とあのウィル・ハーモスとの一戦が、みんなの心を変えたかもしれない。

気の合う仲間が同じ志を持ってくれている。

本当に嬉しい気持ちになった。


だが、ただ一人、沈黙を守っている者がいた。


マーガレットだ。

彼女は浮かない顔のまま、何も言わず視線をそらしている。

ここにいる全員が、その様子に気づいたはずだ。

けれど、優しさだろう。

このときばかりは、彼女に話を振る者はいなかった。


そろそろ、俺も何かを言うべき流れだ。


「みんな、びっくりしたよ。でも、嬉しい。

  ……なんだか本当の仲間ができた気がする」


照れながら、そう返す。


「今までは仲間じゃなかったのかよ!」


ガリンソンの鋭いツッコミが飛び、その場が笑いに包まれた。


真剣な話を全部まとめてしまった気もするが、今夜はこれくらいでちょうどいい。

この夜は、俺にとってなんだか忘れられないほど感慨深いものになった。



【魔法世界メモ28】

魔物と獣の関係は?

魔物と獣は別の存在であると考えられている。

そして、魔物は魔力攻撃ができるため、獣では太刀打ちできない。

そのため、魔物が群れていた場所では獣もおらず、ジャングル内でも安全である。


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