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第27話 獣程度、という言葉

剣術演習で魔力覚醒してから、二週間ほどが経った。

俺はずっと、魔力のことばかり考えている。

思うままに発動させるため、色々と試してみた。体内に不思議な力の気配がある。

だが、まだ意識して引き出せるレベルではない。


今日からは、予告のあった魔物討伐遠征だ。

期間は十五日ほどで西に位置する王都からリコーラ大陸中央まで移動すると聞いている。

こんなに長く家を空けるのは初めてで、どうしても不安が拭えない。


この日、学院に到着すると、空気が物々しかった。

移動用の車が五台ほど待機しており、その周囲には見慣れない屈強な男たちが立っている。

平民学生が全員揃うと、いよいよ始まった。


「学生集まれ。部隊を指揮する王国騎士、ハーベズル・フラックだ。

  長い遠征になる。気を引き締めていけ」

 ―出発!


鎧を着た大男が、逞しい声で学生に告げる。

さすがは隊長として任される男。

号令ひとつで、場の温度が上がった。


車は学生で二班に分かれて乗り込む。

引率の王国騎士が、それぞれ一人ずつ配置されていた。


「ユーロス・ジュリアスだ。遠征は危険も伴う。指示に従ってもらう」


俺の乗った車では、王国騎士にしては少し細身で優しそうな人相の騎士が挨拶をした。

班の振り分けは自由だったため、仲のいいメンバーが同乗している。


車が動き出してしばらくした頃、ユーロスが急に俺たちを呼んだ。

「ラリオン、アシェル。前へ」


二人で前に出ると、彼は短く説明した。


「魔物は魔力に引き寄せられる。平民のお前たちに近づいてくることは基本ない。

  だが、危険な獣もいる。万一のときのため、剣を渡しておく」


そう言って、俺たちに中程度の長さの剣を渡してくる。

いざ、真剣を手にすると、身が引き締まる。

だが、屈強な男であるラリオンはともかく、なぜ俺まで?

当然の疑問が湧いたが、ユーロスはさらりと言った。


「ウーデル・ホースの人選だ」

なるほど。一週間の剣術訓練の評価というわけか。


「この二人なら安心だね」

「うんうん」


マーガレットとフリーラが頷き、周囲も納得したような空気になる。

……褒められているはずなのに、なぜか落ち着かない。


それからは、ひたすら移動だった。

魔導具のおかげで車の重量を落としているらしく、車を引く馬に似た動物も、思った以上に軽快に走る。


代わり映えのしない景色が続く。王都を離れるほど、自然ばかりが目に付いた。


結局、八時間ほど走ったところで野営となった。

車を降りると、王国騎士たちが慌ただしく作業をしている。

何かの魔導具を使っているようだ。


「あれは何をやっているんだろう?」

「魔力で風圧を送り、頑丈なコテージを作っている。獣程度であれば心配ない」


俺の独り言に、ユーロスが親切にも答える。

 ―獣程度か

なぜか、その言い方が少し引っかかった。


完成したのは立派なコテージだった。

コンクリートのような壁に覆われ、雨風どころか外敵からも安心して寝られそうだ。

魔法の力は本当に便利だと実感する。


その後、学生たちは食事の準備をした。

ここまでは、キャンプに来ている感覚とあまり変わらない。

メニューは野菜と獣肉を濃い味付けにしたスープ、それにパン。

まさに「キャンプメシ」。

だが、肉がある分、平民の食事より多少豪華に思えた。


日が暮れると危険なため、コテージの中でみんなで談笑する。

入口付近では王国騎士が交代で見張りをしていた。

そんな夜を過ごし、翌朝を迎える。


だが、それからの四日間も、同じことの繰り返しだった。

代わり映えのしない景色に退屈を覚える。疲労が少しずつ蓄積し、気づけば誰も口を開かなくなっていた。

五日目、日が暮れる頃。

ようやく目的地に到着した。


ここを本拠地にして野営を設置し、明日から魔物討伐が始まるそうだ。


「いよいよ魔物とご対面か」

「ちょっと緊張してきたよ」

「僕たちは遠くから見ているだけだから大丈夫」


パリシオンとヒルメスと三人で、ひそひそと魔物の話をする。

授業で習った魔物との対面に好奇心もあるが、王国騎士がいるものの、不安も確かにあった。


そして、魔物討伐初日の朝を迎える。

隊長ハーベズルの号令で、討伐が始まった。


フォーメーションは、王国騎士六名が前へ出る。

その後方、三十メートル付近に学生が二グループに分かれて討伐の様子を見学し、それぞれに護衛の騎士が一名ずつ付く。


前方の部隊が周囲を警戒しながら進む。

この辺りには人家が一切ないため、ジャングルをただ進んでいる状況だった。

しばらくすると茂みが深くなり、視界が徐々に悪くなっていった。


二時間ほど探索した頃だった。


「ウルワーニ、十匹前後。前方約百」

前方の騎士が魔導具の通信で伝えてくる。学生の間に緊張が走った。


ウルワーニとはどんな魔物だろう?

魔物図鑑で見たような、いなかったような。


記憶が曖昧な中、目を細め、遠くの様子をうかがう。

すると、肉眼でもそれらしき存在を確認できた。

爬虫類のような体つきで、形はワニに似ている。

大きさは一メートルから一・五メートルほど。凶暴そうなのが一目でわかる。

体色が鮮やかで、水色、黄色、紫など明るい色が多い。

遠くからでも居場所を視認しやすい。


部隊は攻撃準備に入っていた。

杖を持つ騎士が一名。大盾の騎士が三名。

その後ろで剣を構える騎士が二名。


1人の隊長が手で合図を送る。

その瞬間、討伐が始まった。

ボン、ボン、と低い音が鳴り、ウルワーニの付近で地面が不規則に揺れる。

地面が動いて多数の穴ができ、逆に土が盛り上がる箇所も生まれた。


群れも外敵の存在に気づいたのだろう。

一匹、また一匹と王国騎士へ突進してくる。速度が桁違いだ。

まるで時速80キロの自動車が突っ込んでくるようなものだった。


ズドン、と鈍い音。

大盾にウルワーニが衝突する音だった。

だが、衝突のはずみでひっくり返ったウルワーニに対し、後ろで待ち構えていた騎士が剣を振る。

硬そうな体が、真っ二つになった。

これは普通の剣の威力ではない。魔法で強化されているのがわかる一撃だった。


その後もウルワーニの突進は続く。

だが、盾にぶつかって動きが鈍ったところを、剣で確実に仕留めていく。

一匹ずつ盾に突っ込んでくるなら、王国騎士の敵ではない。


……だが、一気に攻めてきたらどうなる?

疑問が浮かんだ、そのとき。


「最初に地形を変えて、一匹ずつ来るよう誘導したんだ」


まるで心の声が届いたように、護衛のユーロスが答えた。

魔物狩りは戦術が大事―

そう痛感する。


ここまでくれば勝負ありだ。

時計を見る余裕はなかったが、気づけば戦闘は終わっていた。

ウルワーニの群れは全滅していた。


戦闘中、学生たちは息を潜めていた。

だが、全滅を確認した瞬間、歓声が上がる。

その中で、一人だけ浮かない表情をしている者に気づいた。


「魔物って……こんなにやばかったのか……」

ラリオンだ。青ざめた顔で呟く。


無理もない。突進の速さと、衝突時のパワー。

あれは、魔法がなければ到底太刀打ちできない。

そしてラリオンは平民だ。

彼の目指す王国騎士の道が険しいことを、誰より自分で理解してしまったのだろう。


もし、俺のようにラリオンが魔力覚醒できるのなら?

 ―彼の夢も、現実なものとして見えてくるのだが



【魔法世界メモ27】

魔物被害は?

王都付近では魔物討伐が頻繁に行われてきたため、人的被害はでていない。

だが、リコーラ大陸の中央を過ぎると、魔物の個体が多くなるため、王国騎士が駐在していても、人的被害はたまにでている。


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