第26話 第二王子
品のある佇まいの男を前にすると、緊張する。
少し重苦しい状況となったが、男は開口一番、本題を切り出してきた。
「僕はね、魔力感知が得意なんだ。あのとき、君は魔法を使ったね?」
男の発言に一瞬、間が空いてしまった。
「た、たぶん」
そして、直感的に嘘を取り繕っても無駄であると感じ、正直に答えた。
「あの時が初めて?」
「平民の僕が魔力をもっているのはまずいですか?」
率直に一番懸念していたことを男にぶつけた。
「平民の中にも、隠れ魔力持ちもいるよ」
しかし、予想とは異なり、意外な言葉が返ってくる。
俺の驚きに反して、男は淡々と話を続ける。
「君の話は聞いていたんだ。優秀な学生がいるって。ラフィーナ先生からね」
「…どういうことですか?」
さらに男は話を続ける。
「ラフィーナ先生は専属の家庭教師だったんだ」
この男は一体何者なのだ?
王国で有数の頭脳と称されるあの先生を家庭教師につけられるって・・・。
「僕の名前はニコル。ニコル・アーステルド。よろしく」
『アーステルド』というワードを聞いて一瞬で事態を把握した。
この人、王族じゃないか!
—まずい
言葉を一つ間違えたら、人生が終わる。
「大変失礼いたしました。非礼をお許しください」
「普通でいいよ。同い年だし。友達になりたいって思ってるから」
俺の態度の豹変に、ニコルは少し困惑した様子であった。
だが、この言葉を真に受けてよいのだろうか。
—不敬罪で打ち首とかないよな?
「僕も王族だけど、現状に疑問を持っている立場でね」
ニコルからの予想外の発言に、驚きを通り越してどうすればよいのかもわからなくなった。
「平民の中で高い頭脳をもつ人材を探していた。君は魔力まで持っている」
もはや賭けに乗る他ないだろう。
この言葉に嘘はないと信じる。
「はい。仰せのままに」
「その言い方、堅いから」
突然の出会いだった。
まさかこんなところで王族と知り合いになるなんて。
それにこのニコルという男には世の中を俯瞰して見れる不思議な魅力を感じる。
このプリビレッジ至上主義の世界の中で器の大きさを伝えてくる。
その後は、これまでの人生などについて軽く談笑をし、徐々に自分の中にあった硬さも消えていった。
ニコルは、人口の少ないプリビレッジが好き放題し、ただ魔法に頼るだけでは王国が経済や文化などの面で発展することができないと考えているそうだ。
そして、今後は定期的に情報交換をしていこうという話になり、部屋を後にした。
ニコル第二王子。
これは凄いコネが出来てしまったのかもしれない。
先ほどまでプリビレッジからの報復を恐れていたことが馬鹿らしい。
心境は180度変わっていた。
俺が教室に戻ろうと学院の敷地を歩いていると、ものすごい形相でマーガレットが目の前に現れた。
「どこにほっつき歩いていたの!ずっと戻ってこないから心配したのよ!」
ほっぺを膨らませ、眉間にシワをよせまくっている。
これはなだめたほうが良さそうだ。
「心配かけてごめん。お詫びに、今日帰りにご飯食べにいかない?」
なぜか勢いのまま、立腹するマーガレットをデートに誘う形になってしまった。
ニコルとの出会いもあり、気持ちが高揚していたのだろう。
「え?いきなり!?」
マーガレットは斜め上をいく俺からの提案に、さきほどまでの立腹した表情から戸惑いの表情に変わっていた。
「んー、まぁ、付き合ってあげてもいいわ。心配させたんだし!」
だが、意外にも二つ返事で、今夜マーガレットと食事にいく約束を無事に取り付けることができた。
初デート⋯。とくると、あの場所以外に考えられない。
その夜、俺はマーガレットとレストランに向かった。
向かうのはレストランフリーだ。
道中、マーガレットに行先を伝えた。
「あの有名なレストランに行くの!?是非、行きたい」
レストランフリーが王都内でも有数のレストランとして成功していることに改めて気づくことになった。
マーガレットが目を輝かせるほどに。
「さあ、到着だね」
俺はレストランフリーの扉を開けた。
店の中は、たくさんの客で賑わっている。
俺が姿を見せると、慌てた様子でニーミアがやってきた。
「アシェルちゃん、よく来たわね」
「凄い数のお客さんですね」
レストランフリーの大盛況もあって、オーナー夫人のニーミアも今まで以上に丁寧に接してくれている。
「さあ、アシェルちゃんの席はこっち」
ニーミアは満面の笑みで俺達を先導し、席に案内する。
マーガレットは物珍しいレストランだったからか、キョロキョロと興味深そうに辺りを観察している。
席に座って少し経った頃、ものすごいスピードで動く人影が迫ってきた。
「ちょっと、アシェルどういうこと?」
「カナディ、きちゃった。」
カナディであった。
いつもと違い、明らかに不機嫌そうな様子だ。
「それでその娘、誰?」
「あの、学院の校友というか・・・」
「フンっ」という挙動も全く隠してもいない。
カナディのマーガレットに対する視線はとても冷たかった。
「あの人はどなた?」
「僕の姉です。姉」
カナディが席を離れると、マーガレットは不安そうな表情で小声で尋ねる。
俺は申し訳ない気持ちで、小さくカナディのことを紹介した。
「気にしないで。姉はちょっとブラコン、いや、兄弟愛が強くてさ」
「う、うん?」
マーガレットによくわからないフォローを続ける。
それにしても女子は難しい生き物だ・・・。
気を取り直して、他の給仕に料理を注文し、ワクワクしながら待っていた。
すると、料理が運ばれてくる。
注文したのは、名物のトンカツと野菜の天ぷら、それにパン。
マーガレットは見たことのない料理に目を輝かせ、匂いを嗅いでみたり、しばし観察していた。
「さぁ、食べてみて」
俺がそう促すと、マーガレットが料理を口に運ぶ。
「おいしい!食べたことがない食感」
口に合ってくれているようだ。
どんどん料理に手が進む。
「このお野菜もこんなに美味しくなるんだ」
さらにびっくりした様子で感想を述べる。
「じゃあさ、パンにこの油をつけてみて。
マーガレットはパンに詳しいから、試してほしい」
俺はマーガレットにオリーブオイルを手渡した。
マーガレットは、手に持ったパンにたっぷり油をつける。
「うん!味のないパンでも濃厚になる!」
料理の話で、会話が自然と盛り上がる。
ただ、カナディは二度とテーブルに戻ってこなかったが。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまう。
夜もだいぶふけてきたため、フリーを出ることにした。
「今日はありがとう。知らない世界を知った感覚だった」
「こちらこそ!」
このような挨拶を交わして、マーガレットと別れた。
マーガレットとの初デートは上々。
今日は本当に良い日になった。
終
【魔法世界メモ26】
ニコル・アーステルド 14歳
アーステルド14世の直系子息。
兄が1人、妹が1人。




