第25話 魔力の代償
ウィル・ハーモスとの一件から一夜明けていた。
あのときの倦怠感がまだ体に残っている。
平民学生のみんながプリビレッジ学生から何か言われていないか気ががかりであった。
幸いにも今日は休息日であったため、頭を整理する時間を与えられた。
今まで感じたことのないあの感覚。
―あれは一体なんだったのか?
ウィルが吹っ飛んだ様子から考えると、あんな芸当は自分が魔力を発動したとしか考えられない。
実際にあのとき体感でも、『気』のようなものを感じた。
あれが魔力の感触だとすると、腑に落ちる。
だが、問題の本質はそこではない。
なぜ平民の俺にそんな力があったのかということだ。
これは王国の通説を真っ向から否定してしまう話である。
平民に魔力があるとすれば、プリビレッジの特権の根拠を失う話にもつながる。
自分が特異な存在なのか?
それともプリビレッジと関係のある隠された出自の可能性か?
ただ、今後も魔力を自由に使えるのか不明であるし、自分に何が起きたのか分析していく必要がありそうだ。
だが、それを考える前に、喫緊の課題がある。
プリビレッジからの報復だ。
プリビレッジ、しかも、4大派閥の1つであるハーモスの子息をコテンパンにやっつけてしまった事実は重い。
向こうから仕向けてきたものであるが、プライドを傷つけてしまったことに変わりがない。
仰向けに家の天井を眺めていたが、不安で頭が痛かった。
自分の身もさながら、特に仲間を危険にしている可能性があることだ。
実力行使、権限の濫用・・・プリビレッジの取りうる手段はいくらでもある。
結局、この日は1日中、このような思考を繰り返していた。
そして、迎えたくない日はすぐにやってくる。
不登校になりたい気持ちを抑えつつ、家を出た。
道中、いつもと異なり、警戒心をもちながら歩いていた。
「アシェル!」
そんな中、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
この声はマーガレット⋯。
振り返り、マーガレットの姿を目視する。
「マーガレット、休息日はゆっくり出来たかな?」
できるだけ、平静を装うように決めていた。
「もう何言っているの!私、心配で心配で気が休まらなかったんだから!」
やはり、あの日のインパクトは避けては通れなさそうだ。
「体は何ともなかったの?」
「平気だよ。プリビレッジの学生が仕返しにきそうで少し怖い」
ついつい弱音を吐いてしまった。
「気にしなくていいのよ!みんなで団結してアシェルを守るって決めているから!」
マーガレットは身を乗り出し、力強い表情で言う。
女子にこんな事を言ってもらえる日がくるとは思わなかった。
プリビレッジの報復に怯えていた自分が恥ずかしくなる。
そのままマーガレットと歩き、学院に到着する。
教室に入ると、予想通りざわついた。
「この前はお疲れ様!」
「アシェル、生きていたか?」
仲間から掛けられる声は様々だったが、予想外にポジティブな声であった。
みんな、あの事件のことをどう考えているのだろうか?
「フューゲルは?」
「しばらく怪我の治療のためお休み」
俺が気になったのはフューゲルの容態であったが、フリーラからはやはり重症であることが告げられた。
いつもとは違う雰囲気の中、ラフィーナは特に気にも止めず、いつもどおり授業を始めた。
講義の内容は待ちに待った「代弁者の役割」であったが、全く授業の内容が頭に入ってこない。
「代弁者は平民の立場を守る代表であるが、平民からその役割に疑問を持たれていることも事実だ」
ラフィーナから語られた厳しい現実だけが耳に残った。
結局、最後までラフィーナの講義に集中できなかった。
このままでは、学ぶべきことを吸収できない。
少し外の空気にあたって気分転換をしようと、学院内をふらふら歩いていた。
本当に頭がうまく働かない。
ひたすら学院の中をぼーっと歩いていた。
建物と建物の間のひっそりとした通り道を歩いていたときであった。
「アシェル君だね?」
急に後ろから聞き慣れない声で、俺の名前が呼ばれた。
このとき、自分の迂闊さにハッとした。
さっきまであんなにプリビレッジからの報復を警戒していたいのに、自ら進んで人気のない場所を歩いているなんて。
だが、この状況では避けることができない。
俺は勇気を振り絞って声のする方向に体を向けた。
すると、目に映ったのは金髪のスラリとした高身長の男。
予想通り、明らかにプリビレッジの学生だ。
「何かご用でしょうか」
「話がある。ついてきてくれないかな?」
ここではやれないことをするために、場所を変えるのだろう。
自分の置かれている状況を想像すれば容易に答えが見える。
だが、やすやすとついていくわけには行かない。
「すみません、どういうご用件でしょうか」
引きつった顔でささやかな抵抗をしてみる。
俺の表情を見て、その男は少し困った様子を見せた。
「君の中にある魔力について話を聞きたい。
ただ、それだけだから。警戒しなくてもいいよ」
しかし、男からの言葉を聞いて考えを改めさせられた。
一番気になっていた『魔力』というワード。
「分かりました」
決心してこう答えると、そのまま近くの建物に誘導され、とある部屋に連れてこられた。
部屋の中はきれいに整頓されており、高価そうな家具。
建物自体が何か特別という雰囲気であった。
この人が高貴な人物であることは容易に想像がついてくる。
「座って」
男の言われるままに、高級そうな黒のソファーに腰を掛けた。
「早速だけど」
このとき、先程までのにこやかな表情が変わり、男の表情は真剣なものに変わった。
これから何が語られるのか、俺にはこのとき、皆目見当がつかなかった。
終
【魔法世界メモ25】
ハーモス家とは?
プリビレッジ4大派閥の1つであり、ハーモス派閥を仕切っている。
ハーモス派閥もズレッタ派閥と同様に、商業プリビレッジとして王国の経済を牛耳る。
ウィル・ハーモスは、その家の次男である。




