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異端の調律者は天秤を持たない  作者: うつおぎ
第一章 調律者との邂逅
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1-15


 国王と王妹が連れ立って歩いているのは実に珍しく、すれ違う者たちは道を譲りながらも興味深げな視線を向けてくる。先ほどまで王妹の帰還を囁いていた城内に、今度は国王自らが動いているという緊張が走っていた。

 だが、一行はそれを気にした様子はない。普段から笑顔を見せないレナトスはより一層険しい表情をしているし、アルシェラもどこか不安げな様子をしている。アンソニーはいつも通り穏やかな顔をしているものの、その眼鏡の奥には鋭い光が宿っていた。

 そんな中で唯一、純白のローブを纏った女性だけはご機嫌な様子で周囲を見回し、目が合った人にひらひらと手を振っていた。王城の者たちは戸惑いながらも会釈を返し、そのたびにセレンティナは満足げに笑う。


 魔術師団の詰所は騎士団とは鍛錬場を挟んで反対側にある。王城の敷地内にあるものの独立した建物にしてあるのは、魔術遮断の対象から除外するためだ。

 仕方ない措置とはいえ、どうしても疎外されている印象が拭いきれない。石造りの建物は堅牢で手入れも行き届いている。だが王城本棟から離れたその場所には、城を守る一員でありながら城の中心から遠ざけられているような空気があった。


「わたくしが参ります」


 レオノーラが石造りの建物へ駆け寄っていく。扉をノックするとややあってから開かれ、濃紺のローブを羽織った男が姿を現した。


「へ、陛下!?」

「突然すまない。ファウラー団長はいるか」

「はいっ! あっ、どうぞこちらへ!!」


 突然の国王と王妹の訪問に動揺しているのか、男の声はひっくり返っていた。ぎこちない動きで一行を建物の中へ通そうとしたところで、ふと視線がセレンティナに留まる。

 純白のローブと宙に淡く揺れる銀紫の髪。人形めいた美貌と、見る角度によって色を変える瞳。そのどれもが男の思考を一瞬止めたらしい。彼は口を半ば開いたまま固まり、慌てて我に返ると耳まで赤くして視線を逸らした。


「ねぇねぇ、魔術師団って何人いるの?」

「団長含めて所属は二十名です」

「それだけ!? すっくなーい!!」


 セレンティナが問うと、アンソニーが即答する。

 大袈裟な反応ではあるが、国の騎士団に所属する一組織としてはあまりにも小さいのは事実だった。王城内で魔術を使えない国において、魔術師団が冷遇されてきたことは人数にも表れている。

 言われ慣れているのかレナトスは無表情を貫き、アルシェラとアンソニーは苦笑いしていた。ちなみにレオノーラだけは「余計なことを言うな」とでも言いたげにセレンティナを睨みつけている。


「陛下……どうなさいましたか?」


 グランヴィレア王国魔術師団長、サマリンダ・ファウラーは一階の奥にある団長の執務室で一行を出迎えた。

 室内には紙と薬草と、微かに魔力結晶の匂いが混じっている。壁際には古い魔道具や書物が整然と並び、机の上には使い込まれた羽根ペンと書類の束が置かれていた。華美ではないが、ここが魔術師たちの領域であることは一目でわかる。

 サマリンダは戸惑った様子だったが、王妹の姿を見てどこかほっとしたような表情を浮かべた。それから手を振るセレンティナに気付き、微かな笑みを向けてくる。


「……お前たちに管理を任せている装置の件で来た」


 なんの前置きもなく単刀直入に、だが直接的な名称を避けてレナトスが切り出した。

 次の瞬間、サマリンダが動きを止める。空気が薄く張りつめた。彼女の指先が机の縁にかすかに触れ、それから離れる。

 ややあってから、サマリンダはほぅ、と小さく息を吐き出した。そして困ったように微笑む。


「あの装置がどうなさいましたか?」

「なっ……!」


 どうやら白を切るつもりらしい。レオノーラが掴みかかろうとするのをアルシェラが制した。

 それでも気が済まないのか、ぎりっと歯ぎしりの音が響く。主君の身を守る立場としては当然の怒りだった。


「なるほど。ファウラー団長は装置の異変に気付いていなかったと、そういうことでしょうか」

「えぇ。申し訳ありません」


 アンソニーの挑発にぴくりと眉が動いたものの、サマリンダはまだ知らぬふりを続けている。

 たしかに、サマリンダが気付いていたという確固たる証拠はない。だが一方で、気付いていないのであれば職務怠慢として罰することが可能でもある。

 魔術遮断装置の摩耗による威力低下を放置していたことが故意だったのか、そうではないのか。それによって処罰は大きく変わる。サマリンダもそれを理解しているのだろう。微笑みは穏やかだが、その奥にある目はまったく揺れていない。

 お互いの出方を窺う膠着状態を破ったのは、緊迫した空気とはおおよそそぐわない朗らかな声だった。


「ふぅん。異変に気付いていなかったのに、エントランスの所だけはしっかり直っていたね」

「えっ……」

「サマリンダ、それはどうしてかなぁ」


 教えて? と小首を傾げて問うセレンティナの瞳は、相変わらず無邪気に輝いていた。

 だがその無邪気さが今は刃のように見える。サマリンダの表情からすうっと笑みが消えた。


ちょっと短めになってしまったので、今週中にもう一話上げます!

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