表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

第二十七話 復讐の終わり

投稿が遅くなって申し訳ございません。

 ここまで協力してくれたヒガンと蠍の爪の戦闘要員達は、クーデターの方が鎮圧されつつある事を知り、ロッキード子爵の屋敷から退去した。


 これで、手元に残った者は、呪薬で虜にしたロッキード子爵の屋敷で働く使用人達と一緒に連れてきた毒蛇の牙の数名の戦闘員と氷の魔術を使うシェスのみだ。


 ヒガンと蠍の爪の戦力が消えたのは、少々痛いが、復讐劇もすでに終盤。ほんの後少しで終わるのだから、残った手駒だけで十分だった。


私は、部下達に引っ張られたロッキード子爵と共に、屋敷の外にある庭園に移動する。ここに奴を連れてきた理由はただ一つ、屋敷全体が見渡せるからだ。


 庭園の中心部分にある噴水の手前に不自然に設置されたレバーの前にロッキード子爵を案内し、奴にレバーを引くように促した。



「さあ、ロッキード子爵、このレバーを引いてくれ」


「こ、このレバーはなんだ? 俺はこんなもの知らないぞ!」



 ロッキード子爵が疑問に思うのも無理はないが、それでも、自分の屋敷が勝手に改造されている事に気が付くべきだった。とは言え、屋敷の改装を任せた業者が、毒蛇の牙の傀儡組織だったことに事前に気がついていれば、今回の騒動はこうも上手く事が運ばなかっただろうが。


 私は、この屋敷の改修工事を行った業者に、表向きは、盛大なパーティを行うに見合う立派な屋敷に改修することを命じていたが、その裏で密かにある仕掛けを施すことを命じていた。その仕掛けをついに披露する時が来た。



「ここまで来て引かないという選択肢が貴様にあるのか?」



 私の問いにロッキード子爵は口を閉ざす。


 己の保身と身の安全のために、家族も部下も家宝も捨てる道を選んだのだ。かつての私のように何もかも全てを失ったロッキード子爵には、もはや私の要求に従う以外の選択肢はなかった。



「分かった……」



 少しだけ考えていたようだが、もうこれ以上失うものがないと判断し、自暴自棄になったのか、迷うことなくロッキード子爵は、庭園にある明らかに不自然なレバーを引く。そして、ロッキード子爵も気が付かなった屋敷に仕込んでいた仕掛けが作動した。


 レバーを引いたことで、屋敷を支えるいくつもの柱が崩れる。やがて、支えを失ったロッキード子爵の屋敷が、雪崩のような音を立てて、崩壊していく。



「ああ、ああああ、あああああああ!!!!」



 この日のために私財の大半を注ぎ込んで改修・建築した屋敷が瓦礫の山と化したのだ。それも、自らの手で。まだ失う物があったのかというロッキード子爵の悲痛の叫び声が轟いた。


 だが、しばらくすると、泣きわめくの止め、何処か諦めたかのような口調で、瓦礫の山を見ながら呟く。



「……分かった。もう分かった。俺が悪かった。もう余計な事は考えない。俺に残っているものなど、もうないと思うが、それでも貴殿が望むものもあれば差し上げよう。そう、俺の命でさえも……」



 ロッキード子爵は、もう降参すると諦め両手を上げるが、それと引き換えに、涙ぐみながら、私の方を見つめ、最後の懇願をする。



「頼む。いや、お願いします。どうか、あなたが身に着けているその仮面を外して、俺に素顔を見せて欲しい。お願いします」


「その要求に、私が答える義理はあるのか? そもそも、私の正体を知ることに何の意味がある?」



 私の返答に、ロッキード子爵は力なく、しかし、今までに見た事がないくらいに、これだけは譲れないという強い瞳で答える。



「意味はない……。でも、これだけ入念な仕掛けや準備をしたんだ。俺には、あなたが、他人の不幸を喜ぶ、ただの快楽殺人者には思えない。きっと、俺のせいで、過去に酷い目にあった犠牲者の誰かなのでしょう?

今更、謝罪しても手遅れだということは重々承知しているが、せめて最後にあなたの正体を教えて下さい」



 好奇心か、それとも心の底から反省しているのか、ロッキード子爵は、全面降伏と引き換えに、私に仮面を外し、素顔を晒すように要求する。


 その姿を見て、私は奴にチャンスを与えることにした。



「では、過去の自分の行いを反省するのであれば、私の正体を当てて見ろ」



 私のチャンスを聞き、ロッキード子爵は、藁にも縋る勢いで、次々と口から多くの人名を告げる。十、二十、五十。数えるのも面倒になってきたが、それでも、皇帝代理として振舞ってきた自分の蛮行によって、自分が虐げてきたと思う人物の名を語った。



「い、以上です。これ以上は思い出せません。全てを失った今なら分かる。俺、いや、私は身をわきまえず、皇帝陛下の代理として蛮行を働き、余りにも多くの被害者を出しました。正直に言って、その全ての名前は覚えていません」


「そうか……」



 こちらとしても、奴自身が恨まれても仕方がないと思う人間が、これほどいるとは思わなかったが、それでも、驚くことなのか、それとも悲しむべき事なのか、奴の口からフライ・アズバーン及びその関係者の名前は一度も上がって来なかった。


 ふん、やはり、私という存在は、ここまでロッキード子爵を追い詰めても、思い出すこともできないほど、記憶に残らないほど、ちっぽけな存在だったようだ。


 別の見方をすれば、奴にとってアズバーン領に行った仕打ちよりも遥かに残虐な仕打ちを他で行っていたと言えるが、そうなると、奴によって被害を受けた被害者の中で、私の受けた被害は軽い部類に入るかもしれない。


 ならばこそ、私は、それ相応の対応をするべきだろう。



「ロッキード子爵、残念だ。やはり、貴様は、どこの誰かの手によるかも分からずに、憎悪すべき対象の分からないまま、永遠に地獄を彷徨うがいい」



 最後の願いも聞き入れてもらえずに、絶望的な目をするロッキード子爵から、視線を移し、私は部下に命じ、これで本当に最後の復讐を始めた。



「お、お前達……一体どうしてここにいる?」



 私の指示に従い、部下達は、奴隷の焼き印を刻まれた者達をこの場に連れてきた。その者達を見て、ロッキード子爵が驚愕するのも無理はない。何故なら、そいつらは先刻ロッキード子爵が自らの手で、奴隷印を刻み付けて、奴隷商に売り払ってしまったはずの、奴の家族なのだから。


 失ったはずの家族の姿を見て、ロッキード子爵から少しだけ生気が戻るも、今にも殺そうと睨みつける家族の瞳と彼らが手に持つ、焼き印を刻む棒を見て、みるみるうちに顔がこわばっていく。



「おい、待て、止めろ、止めてくれ!!」



 私が何をするのか、予測できたみたいで、未だかつてないほどの叫び声を上げるロッキード子爵。それに対し、私は一切の躊躇も遠慮せずに、奴の家族に命じた。



「さあ、自分の命惜しさに、貴様達に、奴隷の証を刻みこみ売り払った。この憎き旦那であり父親に、裁きを下すがいい!!」


 

 私が告げると、奴の家族達は、憎悪に駆られた瞳をしながら、絶叫と共に、ロッキード子爵の全身に自らの体に刻まれた物と同じ焼き印を入れていく。


 妻も子供も関係ない。奴に捨てられた者達が奴に復讐せんと、ロッキード子爵の顔や胸など体中に焼き印を刻み、打ち付けられるたびに、ロッキード子爵は激しい痛みに耐えきれずに絶叫する。


 苦痛に苛まれるロッキード子爵を見て、私は己の復讐が完遂されるのを実感していった。


 その叫び声を心地よく聞きながら、私はシェスを始めとした連れてきた部下達に撤退を命じる。シェスは危険があるから、最後まで護衛すると言ってはいたが、不要だと拒否した。


 理由は、自分が捨てたはずの家族の手によって苦しみ奴が息絶えるまでの僅かな時間を、一人占めしたかったからだ。


 私の真意を知るとシェスは渋々屋敷を後にした。シェスの後ろ姿を見た後、視線を再びロッキード子爵に移す。


 焼き印の熱が冷めたため、奴の家族は、こちらが用意した刃物や武器をロッキード子爵の体に刺していく。


 その哀れな姿を、私は仮面の奥でこれ以上にないくらいに口元を歪ませながらたっぷりと堪能した。









 

 その後、自らの手で捨てた家族によってリンチにされ、そして、とうとう命尽きたロッキード子爵の亡骸を見て、私はついに復讐を成し遂げたと天に向かって吠えた。


 アズバーン領を失って、三年弱、とうとう宿願を果すことできたのだ。



「やったよ、カトリーナ。みんな! 君達の無念少しは晴らせたかな?」



 だが、歓喜に震える私の目の前で、どこからか飛んできた、いくつもの光の束がロッキード子爵の家族達の体を貫き、彼らの命を奪った。



「これは慈悲だ。あそこまで錯乱状態に陥ったのだ。もはや、まともな日常生活を送るのは不可能だろうよ」



 悲願の復讐を果たし興奮していたせいで、周囲の警戒が疎かになっていた。光が飛んできた方角を見るとそこに、一人の騎士が立っていた。


 年齢は二十代後半くらいだろうか? 中々の美男子であるが、私はその騎士から得体の知らない力を感じ取った。


 瞬時に、頭の中で、ヒガンから貰っていた情報と照合し、男の正体に気が付くも、すでに手遅れであった。


 かなりの距離があるというのに、男は俺の方に人刺し指を一本だけ向ける。


 すると、男の指先が眩い光を放ったその瞬間に、放たれた光の線が私の体を貫通し、すぐさま体に異変を感じた私は、自分の胸元を確認し口から血を吐いた。



「ガハッ!!」



 胸元を見ると、心臓があるはずの部分に大きな穴が空いていた。いや、空いていたというよりは、そこには何もなかったと言うべきか。まるで見えない槍が高速で貫通したかのように、胸の真ん中が空洞になっていたのだ。


 間違いない。こんな事ができる人間は帝国広しと言えど、ただ一人。その人物は、大陸の歴史上、片手で数えるほどしか確認されていない光属性の魔術の使い手にして、光の騎士という異名を持ち、あのヒガンでさえ、勝てないと言わしめるほどの絶対強者。


 帝国最強の戦闘集団と恐れられる七人のインペリアルナイツの頂点に立つ、インペリアル・ワン。


 その名はジークフリード・ロイアル。正真正銘、帝国最強の男である。



「心臓を貫いた。貴様もすぐに死ぬだろう」



 胸に空き、穴から大量の血が噴出し、俺はその場で崩れ去った。


 倒れながら、意識が霞んでいく中、俺はかつてヒガンが私に投げかけた言葉を思い出した。



 人を呪わば穴二つ。



 復讐を果たすために、私は、エドガーや門徒、それ以外にも罪のない多くの者達を犠牲にしてきた。故に、復讐を果たした今、その報いを受ける時が来たのだ。


 今までの出来事が走馬灯のように頭の中に蘇り、やがて全てが真っ白になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ