表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/31

第二十五話 帝都炎上

いつも応援ありがとうございます。

 ロッキード子爵を嵌めた、あの仮面の男とその一団の目的は一体何だったのだろうか?


 全員、皆殺しという最悪の事態を想定していただけに、あっけなく式場から解放されたフランシスコ宰相派の貴族たちは、心の中では少しだけ安堵するものの、自分達はまだロッキード子爵の屋敷内にいると気を引き締めながらも、胸の内では、襲撃者達の狙いを考察する。


 とは言え、敵集団の言っていたように、自分達の身を守る護衛も一人もいないため、一秒でも早く徒歩で、屋敷を出て親衛隊に合流せねばと、貴族達は、無言のまま、駆け足で無人の屋敷内の廊下を移動し、外に出て、自分達が乗ってきた馬車がある場所に向かう。


 だが、敵の動きが一枚上手だったのか、馬車を停めたはずの場所には、馬も人間も一人もいない。


 そのため、貴族としては屈辱的ではあったものの、フランシスコ宰相派の貴族達は、貴族区内にある最寄りの親衛隊の詰め所まで、護衛もなしに徒歩での移動を強いられた。


 そして、普段は馬車を使って移動しているため、体力のない貴族達は、皆、息を切らしながらも、彼らなりに全力で走り、数十分後、何とか無事に、貴族区内にいくつか存在する親衛隊の詰め所の一つにたどり着いた。


 やっとのことで、親衛隊に合流し、心の底から安堵した貴族達全員が、屋敷に残されたロッキード子爵の身はともかく、自分達に苦痛を味合わせた、あのイカした殺人集団をお灸を据えるためにも、すぐでも親衛隊への出動を命じようと意気込んでいた。


 だが、親衛隊の詰め所に着き、中にいる隊員達が慌ただしく動いている様を見て、様子がおかしい事に気が付き、全員を代表してフランシスコ宰相が、この詰め所内のトップである隊長に尋ねた。



「この慌ただしい状況は一体何かね?」



「こ、これは、これはフランシスコ宰相閣下。一体何故このような場所に? 今、閣下方は、インペリアルナイツの護衛の下、ロッキード子爵の屋敷でパーティをしておられる聞いておりましたが?」



 屋敷がテロリスト集団に占拠されたことも知らないのか?この無能共がと、フランシスコ宰相派の傍で話しを聞いていた貴族達が心の中で悪態をつく。


 そんな険悪な雰囲気の中、ロッキード子爵家の事件を知らないのにも関わらず、この詰め所内の慌てようは何だと疑問に持ったフランシスコ宰相は、隊長に今どのような状況であるのかを尋ねると驚きの回答がなされた。



「暴動です。現在、帝都の平民区で多数の民衆達が暴れております」



 隊長の口から暴動と言う一言を聞き貴族達の中に緊張が走るが、暴動が起きているのは、平民区のみと聞き、帝都の中心部にあり高い城壁と帝国軍の中でも最精鋭の親衛隊が守る、この貴族区までは来ないだろうと心のどこかで安心しきっていた。


 だが、平民区で今起きているその暴動も、平民区の治安を守る憲兵隊の手によってじきに鎮圧されると甘い考えをしていた貴族達は、隊長からの次の報告を聞き、後頭部を殴られれたような強い衝撃を受けた。



「それだけではありません。現在、この貴族区西側から帝城を挟んで、ちょうど反対側にある東側の城門が何者かの手よって内部から開けられ、暴徒化した多数の民衆が東側から貴族区に侵入し、付近の貴族の屋敷に、略奪と破壊の限りを尽くしているとの報告が入っております」


「「なんだと?!!」」



 フランシスコ宰相派の貴族も決して無能ではない。


 貴族としての性故止められないが、自分達の放蕩ぶりや圧政、平民達に課す重税のせいで、平民達が自分達に激しい憎悪を燃やしているのは知っていた。


 しかし、それでも己の行動を顧みなかったのは、自分達が住む貴族区には要塞並みの鉄壁の防御が施され、尚且つ帝国軍全軍を掌握しているためため、民衆がどれだけ暴れても、堅牢な守りであるこの貴族区内にいれば安泰であり、謀反人共は、憲兵隊や親衛隊を使って処理すればいいと楽観視していたからだ。


 それだけに、巨額の費用を投じた平民区と貴族区を隔てる鉄壁の城壁の門が、内側から開けられ、すでに貴族区の東側が暴徒と化した民衆共の手に落ちつつある状況に、苛立ちを募らせた一人の貴族が激しく隊長に問い詰める。



「貴族区に民衆共の侵入を許しただと?! 一体、貴様ら、親衛隊や憲兵隊は何をやっていたんだ?! 暴徒共は一人残さず殺せ、相手は武器も禄に握ったこともない平民共だろうが?!」



 こういう時のための貴様らだろう、さっさと民衆共を黙らせてこい。と多くの貴族が追随するが、現地の詳しい状況を知っている隊長は首を横に振るう。



「確かに、暴徒共の大半は武器を持っていますが、戦闘に関しては素人の一般人なので、本来であれば、簡単に制圧できます。ですが、厄介な事に、暴れている民衆達の中に多数の剣奴の姿が確認されております。正確な数は不明ですが、現在確認できた剣奴の数は、憲兵隊と正面からやり合えるほど確認されており、また統率者がいるのか剣奴共は、的確に帝都の重要拠点に攻撃をしております。それに加えて、武器を持った民衆の数は、その数十倍以上に達しており、暴動に加わる数は増加する一方です。正直言って、かなり劣勢に立たされています」


 

 剣奴、それは闘技場で命を懸けて戦う奴隷。それ故、下賤な輩ではあるが、日々殺し合いをしているため、その戦闘力は非常に高い。


 そんな連中が、指揮官の命令に従って、軍隊のように帝都の重要拠点を襲撃し、憲兵隊や親衛隊の相手をしている。流石の貴族達も、いよいよ自らが崖っぷちに立たされていることを痛感し始めた。


 そのような危機的状況下で、フランシスコ宰相を始めとする敏い一部の貴族は、ロッキード子爵の屋敷を襲撃した仮面の男達の一連の行動が陽動に過ぎない事に気が付いた。


 あの場で自分達を始末しなかったのは不可解ではあるが、帝国を牛耳るフランシスコ宰相派の貴族達を、パーティの開始から解放されるまでの数時間の間、ロッキード子爵の屋敷に釘付けにし、帝国側の指揮系統を麻痺させ初動の対応を遅らせる。


 その間に、本命である暴徒共を扇動していると思われる者達が、剣奴を率いて帝都の主要施設を強襲し、その機能をマヒさせながら、暴徒共を暴れさせているのだろう。


 間違いなく国家存亡の危機であるが、ここまで分かれば、敵の正体も浮き彫りになる。


 憲兵隊を脅かすほどの数の剣奴を秘密裏に帝都に集め、命令を下せる組織など、帝国に一つしかないのだから。反乱軍とは違い、自分達、貴族のお得意様でもある彼らが、帝国に牙を向けるなど一切考えなかっただけに、完全に一杯食わされた結果になったが、これだけの事をしでかしたのだ。後日、遠慮なく消す。


 だが、今は、黒幕を倒すよりも、暴徒の鎮圧の方が先だ。



「それで、現在誰が指揮を執っている? そもそも指揮系統は機能しているのか?」


「は、つい先ほど、帝国軍元帥にしてインペリアルツーでもあらせられますグエナ元帥閣下から、これより帝城にて直接指揮を執るとの命令が下りました。また、追加で発せられた元帥閣下の命に従い、これより我が隊も半数を、貴族区の東側に派遣する予定です」


「この混乱は、そのためか。分かった。悪いがその援軍は我々を帝城まで護衛させた後、戦地へ行ってくれ」


「了解しました。至急手配致します」



 ロッキード子爵の屋敷での一件は、帝国崩壊の始まりに過ぎなかった。


 その事を理解した貴族達は、今なお危機に瀕しているロッキード子爵のことなど完全に忘れて、親衛隊の護衛の下、帝城に赴くのであった。







 今現在、帝国の未来を左右するほどの激闘が繰り広げられているのにも関わらず、今回の暴動の首謀者である二人の裏社会の支配者達は、帝国の未来を左右する戦いを部下に任せ、本人達は、今だにロッキード子爵の屋敷で、取るに足らない小物貴族に対し復讐をしていた。





「どうした? 早くやりたまえ! 最後に残った部下の命が惜しくないのか?」


「も、もう、無理だ。 頼む、もう止めてくれ」


 貴族達に見捨てられ、己の家族までも奴隷として売り払ってしまい、俺の心は完全に打ち砕かれた。だが、心のどこかでは、もうこれ以上は、失う物はないとどこか安心仕切っていたのだが、それは間違いだった。



「ロッキード子爵、私の事はどうなっても構いません。ですから、それだけはお守りください」



 俺の前には、床に組み伏せられ、のど元に刃を突き付けられた唯一残った部下であるシャルルと、我がロッキード子爵家の家宝ともいえる貴重な財宝が粉々に砕かれた残骸が床に散らばっていた。


 仮面の男は、俺の家族をあの奴隷商人に売り払うと、今度は屋敷の宝物庫で大切に保管されていた我が家の家宝である宝石や美術品を持って来させ、俺にハンマーを渡すと「最後に残った部下の命が惜しければ、自らの手で家宝を破壊しろ」と迫ってきた。


 今回のパーティーを開くに当たって、多くの私財を売り払ったが、それでも、絶対に売却できないような貴重な品々は多少は残されていたのだが、仮面の男は、その貴重な品を俺自らの手で破壊させた。


 使用人どもは寝返り、バルツを失い、家族も奴隷にさせてしまった今の俺には、もうシャルルしか残っていなかった。だから、涙を流しながら、金銭的にも歴史的にも価値のある品々を、手渡されたハンマーで砕いた。


 俺は、我が家に残った家宝と呼べる貴重な品々を自らの手で破壊した。そして奴は最後の品だと言い、ついに黄金で作られた手のひらに乗るほどの小さなサイズの大鷲を模した像を持ってきた。



「な?! だ、ダメです! ロッキード子爵。それだけは、ダメです」


「うるさいぞ、黙っていろ!」



 シャルルの言う通り、奴が最後に持ってきたこの像だけは他の家宝とも一線を画すほど、価値が桁違いに異なる。


 何故なら、この像は、数百年ほど前に、初代ロッキード子爵が、貴族になった時に、その証として当時の皇帝から賜った、ロッキード子爵家の象徴ともいえる貴重な代物だったからだ。


 シャルルまで失いたくない一心で、今まで、先祖が大切に守ってきた家宝を破壊してきた俺でも、この像の破壊には躊躇してしまった。


 金銭的価値でも歴史的価値でもない。この像を破壊してしまえば、ロッキード子爵が本当に終わってしまうのではないかと感じたからだ。だが、俺の戸惑いの心を打ち消すように、奴は叫ぶ。



「どうした? 家族も全て捨てたんだ。今更そんな骨董品に価値があるのか? そんなガラクタのために、最後に残った部下を失ってもいいのか?」



 もう嫌だ。選択したくない。俺は! 俺は! 俺は!!!



「ちっ、もう心が折れてるな。止む負えんか、おい、やれ!!」


「や、止めろーー!!!」



 そして、俺の目の前で、仮面の男は、我が家で最も貴重な家宝を粉々に砕き、同時に奴の部下が、シャルルの首を刎ね飛ばした。



「うおおお、ちくしょう。俺が何をしたっていうんだよ。もうこんなの嫌だーー!!」


 数百年に及ぶ歴史と最後の部下を失い、俺はとうとう泣き崩れた。



 アハハ、もう終わった何もかも……


「アハハ、ハハハハッ!!!!」


 つい数時間前まで、俺は人生の絶頂期にいた。だが、たった数時間で、突如現れたこの快楽殺人主義者共のせいで、持っていたものを全てを失った。


 もう笑うしかないだろう?



 しかし、恐ろしい事に奴は、あの仮面の男は、俺からこれだけ多くのものを奪っておきながらも、まだ満足できていないようだった。



「まだだ! まだ足りない」



 そう言うと、奴の部下達が俺の体を引っ張り上げ、会場の外へと連れ出した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ