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第二十四話 家族選別ゲーム

いつも応援ありがとうございます。

 俺はフランシスコ宰相の後継者で、帝国の宝ともいえる貴族だったはずだ。


 しかしながら、生贄ゲームとやらのせいで、俺は知ってしまった。


 普段は、あれだけ耳障りの良いことを言っておきながら、いざ自分の命が助かったと知った途端、貴族の連中は、手のひらを返すように、俺の事を捨てやがったのだ。


 その上、フランシスコ宰相以外の貴族共は、俺のことをいくらでも代えの効く木っ端貴族と馬鹿にしやがった。


 絶対に許せん。


 次期宰相の座に就けるほど有望な俺の価値を認めないどころか、あっさりと生贄に捧げた貴族の連中にも、腸が煮えくりかえるような怒りを覚えるが、それよりも俺は諸悪の元凶でもある仮面の男の元に詰め寄った。



「貴様、こんなふざけた茶番をして、一体何が狙いだ?!! ゲームをやりたいなどと言って、結局は俺を嵌めるための出来レースではないか?!」



 シャルルの読み上げた正しき票の結果は、驚くべきことに、全体の三分一近くがフランシスコ宰相であり、本当であれば宰相が生贄となるはずだった。


 だと言うのに、この仮面の男はゲームの結果を完全に無視して改ざんして、一票も入らなかったこの俺を生贄にさせた。


 貴族共も、自分の命が助かるのであればいいと思ったのか、仮面の男の、もはや不正という言葉すら生ぬるい不正結果を黙殺した。


 いや違うな。ゲームもそうだが、そもそもこいつさえ現れなければ、今夜、俺様は次期宰相になれたのだ。それを生贄ゲームなんていう、あんなふざけたゲームのおかげで、全て消えてしまった。


 フランシスコ宰相派の貴族の大部分が俺を見捨て、俺のことを無能呼ばわりした。関係の改善には、長い時を要するであろう。


 だが、怒り心頭の俺に対し、仮面の男は何故か、心底呆れたかのような口調で言う。



「は~、怒りで我を忘れているせいか、言っている事が支離滅裂だな。とは言え、最高裁判を私物化した人間だけには言われたくない」



「はぁ? 最高裁判だと、いいか良く聞け!! 最高裁判は、病に倒れた皇帝陛下から全権を委任されたフランシスコ宰相様が、国家に仇なす不届き者を裁く場だ。国家の最終的な司法判断を下す気高き最高裁判を、こんなふざけたゲームと同列に語るな!!」



 俺の愛国心溢れる叫びを聞いて、仮面の男は何か思うところがあったのか一切喋れなくなった。


 どうやら、正論を言われて反論もできないのであろう。だがしばらくすると、仮面の男は、自分の手に持っていた奴隷の焼き印を入れる棒を俺の方に放り投げた。



「……これは何だ?」


「怒りのせいで今は、よく理解できないのだろう。まあ、ともかく正しいはずの自分の主張は捻じ曲げられ、信頼していた連中に助けを求めても無視されるどころか、見捨てられる苦痛を少しは味わっただろう?? だから、次のゲームを始めよう」



 仮面の男の発言を聞き、すぐに先程の生贄ゲームの結果を思い出し、言い足りないことが山ほどあったが、それよりも次のゲームという方が気になった。



「次のゲームだと?!」



「そうだ! さっき言ったじゃないか? 生贄ゲームで選ばれた生贄と遊び、他の連中は解放すると」



 仮面の男が指を鳴らし、何やら合図を送ると、再び氷が解除され扉が開き、奴の部下と思われる仮面を被った大男が、首輪を掛けられた鎖を引っ張り、小さな男の子を連れてきた。


 無理やり鎖で引っ張られ苦しそうに連れて来られるその少年を見て、俺は思わず叫んだ。



「アックス!!」


「ち、父上 助けてください!!!」



 涙ぐみながら俺に助けを求めた少年は、正妻以外に、三人いる俺の妾の一人が生んだ六男のアックスだった。



「六男とは言え、栄光ある子爵家の子に、このような奴隷のような姿させるとはなんという不届き者か!!」



 俺は、人間としての誇りはないのかと、仮面の男を罵倒し、すぐに解放するように迫った。すると、意外な事に仮面の男は「いいでしょう」と頷いた。



「ほ、本当か!」



 てっきり今度は、我が子を使っておかしなゲームをすると予想していただけに、少しだけ拍子抜けしてしまったが、それは間違いだった。仮面の男は、引き換えに条件があると言う。



「条件だと?」


「ええ、そうですよ。これからあなたには、第二のゲーム、家族選別ゲームをしてもらいます」



 仮面の男が、再び仰々しく両手を上げる。見ていて気味が悪いが、またゲームと言われ緊張が走った。



「ルールは簡単です!! 今あなたが手に持っているその棒を、そこにいる可哀想な少年の体に押し当てて下さい。すると……」



 タイミングを見計らってか、仮面の男の言葉と共に扉がまた開き、商人のような小太りな男が現れ勝手に、自己紹介を始めた。



「え、え、わっしの名前は、ゴンザスと申します。見ても分からないかもしれやせんが、蠍の爪っていう奴隷商店で奴隷の買い取りをしている者です」



 蠍の爪だと、帝国の裏社会を牛耳る奴隷商が一体なんのようだ? !? まさか!



「気がついたようだな。そう、今から貴様は、自分の家族に一人ずつ、自らの手で奴隷の焼き印を入れ、そこにいるゴンザスに売るのだ。没落寸前とは言え、仮にも貴族の家の者、みんな高く買い取ってくれることだろう。なあ、ゴンザス?」



「ええ、そうです旦那! ロッキード子爵と言えば、数百年は続く準名門貴族とも言える家柄。高く買いたいというお客様は大勢ございましょう。色をつけて買い取らせてもらいますぞ」



 片方は仮面で隠れて見えないがニタニタと笑うこいつらは悪魔だ!!



「ふざけるな!!」



 俺は、手渡された棒を、力任せに仮面の男の方に投げつけた。だが、先端が熱を帯びているはずの、棒を一切恐れることなく、仮面の男は片手を振り払って棒を弾いた。



「な?!」


「ふむ、そう来たか、なら制裁を下さないとな」



 仮面の男が呟くと、別の大男が入ってきて、今まで会場の隅の方で事態を見守っていたシャルルを取り押さえ、その口に猿轡を掛けた。



「本当は二人で、ゲームに挑んでもらいたかったのだが、これで、今の無礼はなかったことにしてやろう」



 シャルルは、動く事も声を出すこともできないまま、床に押し付けられる。



「く、よくもシャルルを」


「先に手を出したのは、そちらですよ? それよりも、何か勘違いをしていませんか? これは家族選別ゲームです。無条件にあなたの家族を奴隷落ちさせても何も面白くはない」



 そう言うと仮面の男は、俺が今投げた棒の代わりに、給仕達に新しい棒を俺の元に持って来させ、指を二本立てた。



「あなたが取れる選択肢は二つ。その一、その手にもっている焼き印で、自らの手で家族を奴隷落ちさせる。その二、もしくは、家族の代わりに自分の体に棒の先端を向け、焼き印を入れる。 つまり、家族の代わりに自分が奴隷になる、の二択ですね」



 そして、アックスが俺の目の前に連れて来られた。



「どちらでもお好きな方を選んでください。子供を守って、危険な鉱山? それとも命を奪い合う闘技場? それとも、特殊な性癖を持つ方々の慰め者? 何処に売られかは知りませんが、まあ、奴隷の末路については、私よりもあなたの方がお詳しいのではないのですか?」



 悔しいがその通りだ。


 確かに、俺は過去に、多くの者達を奴隷落ちにさせて奴隷商人に売り払った。しかし、そいつらは、みんな雑草の如き貴族か平民。もしくは皇帝代理である俺に恥をかかせた愚かな者達だ。


 だが、今回は違う。次期宰相になれる器を持つこの俺が奴隷落ちだと! 冗談にもほどがある。


 それに、今まで焼き印を入れられ絶叫を上げる者達を多く見てきた。それだけに激しい痛みを伴う焼き印を入れる事そのものに恐怖を感じていた。



「ち、父上……」



 クッ、アックスよ、そんな瞳で俺を見るな。助けを求めるな。


 思えばとある理由があって、アックスと二人きりで話した記憶はないが、それでも、我が息子の一人だ。今まで、眠っていた父性を呼び覚ますような真似をしないでくれ。


 貴族としてのプライドと今後の自分の人生。それと父親に助ける眼差しを向けるアックス。


 俺の中の天秤は、大きく揺れていた。



 そんな俺の心の中を見透かしてか、あの悪魔のような仮面の男は決め手となる一言を発した。



「そう言えば、そのアックス君。妾の子の癖に、本妻の子であるあなたの嫡男よりも優秀な成績を学校で出しているそうですね? それで、一部の使用人や分家の中には、嫡男よりもアックス君の方が当主に相応しいと言う声が上がっていて、正直うっとうしいと思っていたのではないのですか?」



「ち、父上?」



 じ、実に腹立たしいが、奴の言葉は的を得ている。妾の子の癖に嫡男であるユーリよりも有能であることを示していたアックスに当主の座を譲るべきという声が、多く煩わしいと常々感じていた。



「それじゃ、要らないんじゃないですか、アックス君?」



 悪魔のような奴の一言が最後の決め手となった。



「うわああああああああああ、すまんアックス!!!!!」



 俺は、棒を突き出し、奴隷の証をアックスに刻み付け、幼いアックスは声になれない悲鳴を上げて、力尽きた。


 その後、意識を失ったまま、アックスは鎖で引っ張られ、会場の外に運び出された。すると、ゴンザスという奴隷商人は、俺のすぐ隣のテーブルに袋を置き、嬉しそうに袋の中にある金貨を見せる。



「毎度、ありがとうございます。今回は、特別に成人前の子爵家の男子の相場の二倍の価格で買い取らせてもらいました」



 平民であれば、家が買えるほどの金額だ。アックスは身を犠牲にして財政難の我が家を救ったのだ。そう思うことで、俺は心を落ち着かせるしかなかったが、奴は、あの悪魔は、俺がどういう心境か分かるかのように、次の一手を打つ。



「じゃあ、次に参りましょう。次は今年、五歳になるサラサちゃんですね? さあ、果たして、ロッキード子爵は、こんな可憐な幼女も奴隷にして、汚いおじさん達の玩具にさせてしまうのでしょうか?」


「グヌヌ、貴様!! どういうことだ!!」


「どういう事も何もありませんよ? これは家族選択ゲーム。あなたの正妻と妾を含めた妻四人と、子供十五人、ああ、アックス君はもう売られてしまったので、十四人ですね。ともかく、後十八回あなたには、選択してもらいますよ。 大丈夫、十八回自分の体に焼き印を入れて、自分が売られれば、あなたの家族が奴隷になることはありませんよ」



 こ、こいつは……悪魔よりも遥かに悍ましい何かだ。俺は化け物を見るような目をしたが、仮面の男は、鎖で引っ張られ、怯えた顔をする幼いサラサをどこか幸せそうな目で見て呟いた。



「ふ、救われるかもしれないチャンスがあるだけ、君は幸せ者だな」



 奴のその言葉にどのような意味が込められているのかは分からないが、これだけは言える。この場を完全に掌握し、それなりに戦闘力があろうとも、俺はこれだけは自信を持ってはっきりと奴に向かって叫んだ。



「こ、この外道が!! 貴様など地獄に落ちてしまえ!!」



 だが、俺の全力の罵声を浴びて、何故か奴は、今まで、一度も見せなかった笑い声を出す。



「ククク、ハッハハハハハハハ!!!」


「な、何が、おかしい?!」


「ああ、失敬。実は、心の底で不安に思っていたんだ。果たして俺は奴のような外道に成りきれるかと、でも、他ならぬ、あなたにそれを保証された。これが嬉しくてたまらない!」



 罵声を浴びせたにも関わらず、笑い声を上げる。もはや、狂気だ。俺は奴をそう判断し、仮面の男は、俺を指差し早く決めろと催促をする。


「さあ、まだ十八人もいるんだ。早く決めろ!! 必要な分の家族をな。それとも自分を犠牲にするか?」



 こうして、俺は人生最大の決断をすることになった。








「ハハハハハハッ!! まあ、予想はしていたが、まさか本当に予想通りなるとはな」


「…クッ、俺は悪くない、俺は悪くない。悪いのは全部、こんなゲームを持ちかけたあいつのほうだ」


 あの後、我が家に連なる者が鎖に繋がれ、一人一人俺の前に連行されてきた。俺に、家族を奴隷落ちさせるか、自らが奴隷になるかの選択を迫るために。


 それが分かっていたから、予め俺は覚悟を固めていた。いくらでも代えの効く、アックスやサラサのような妾の子や、下級貴族の家から嫁いできた妾達は奴隷落ちにさせても、貴族の当主としてのプライドを守るために、伯爵家から嫁いできた本妻とその子だけは助け、ロッキード子爵家を守るために、自らが奴隷落ちすることを。


 でも、できなかった。


 いざ、本妻や嫡男であるユーリ達の番が来たものの、彼らの前に俺が自ら焼き印を入れて、激しい絶叫を上げる妾や、妾の子の苦しむ様を見て、ああなるのは嫌だと思い、残すと決めた者達まで、奴隷にさせてしまった。


「うおおおおおおおおおおおお……」


 己の不甲斐なさに涙を流す俺の側に仮面の男が近づいてくると、奴はテーブルの上に積まれた十八の金貨の袋を俺の方に投げてきた。



「結構な額になったじゃないか? これで少しは元を取り返せたんじゃないか?」


「こ、この外道が!!」


 こうなった全ての元凶である奴に憎悪の言葉を浴びせるが、その言葉には、もうそれほど力が込められていなかった。



 何故なら、ここに至ってようやく、己の無力さと自分が如何に小さな存在だったを知ったからだ。


 妻や子供は、貴族として他家に格を見せつけるために、重要な道具だ。その道具を全て失い、フランシスコ宰相派からも見捨てられて、遅れながらも俺はようやく理解した。


 家族を全て売るまでは、まだ心の何処で、自分はまだ宰相になれる選ばれた人間だと思い込んでいた。


 だか、奴らの言うように俺は、宰相の器を持つ人間ではなかった。貴族であれば、自分の家の誇りと格を保つことが何よりの義務だと言うのに、俺は我が身可愛さに保身に走ってしまったからだ。


 そうだ。俺は宰相になれる人間ではなかった。あいつらが言っていたように、いくらでも代えの効く、木っ端貴族だったんだ!!


 自分の愚かさと矮小さを理解し、失意に明け暮れた俺は、元凶である仮面の男に憎悪を燃やす気さえ起きなかった。



 すると、床に手をやり、絶望しきった俺の体を仮面の男は、無理やり引っ張って立たせると、残された俺の心を一つ残らず潰そうかのように、悪魔の如くささやいた。


「何を終わったかのような顔をしている? ゲームはまだまだ続くぞ?」


 もう、嫌だ。やめてくれ。俺の心もプライドも、もうズタズタなんだ。


 これ以上は、本当に止めてくれ! 完全に心が折れてしまう!


 だが、俺の心の叫びも空しく、悪魔のゲームはまだまだ続いた。

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