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第二十二話 生贄ゲーム

いつも応援ありがとうございます。

「ロッキード子爵よ、見事だ。これだけの財を持って、盛大にパーティーを取り行ったのだ。もはや帝国に住まう誰もが、我々を裁ける者はいないと考えるであろう。貴殿のお陰で、我々はついにこの国の頂点に立った。本当に感謝するぞ」



「うむ、そうだ。正直に言うと、子爵家が用意できるパーティなどたかが知れていると甘くみていたが、貴殿の用意した此度のパーティーを見て、私はロッキード子爵家に対する考えを改めなければならないと感じたよ」



「ああ、我ら帝国を支える者達に対して、私財を投げ打ってこれだけのパーティーを開いたのだ。もはや、貴殿の家で起きた些細な出来事など、誰も気にも止めないだろう」



 フランシスコ宰相を始め、国の中枢を担う大臣達が、俺が開いた今回のパーティについて褒め讃えるが当然の事だろう。


 屋敷を大幅に改築し、帝城の式場に勝るとも劣らない絢爛豪華なパーティ会場を作った。立食形式のパーティ会場には、所狭しといくつもテーブルが並べられ、その上には、帝国中から取り寄せた高級食材をふんだんに使って、帝都でも一流の料理人達が調理した料理が置かれている。


 社交界や、宴やら何やらで、味も目も肥えているはずの貴族達が、こうして大絶賛してくる所から分かるように、俺が開いたパーティは、すでに彼らの想定していた期待を大きく上回っている。


 だが、それだけでは、まだ足りない。


 俺は、パーティを取り仕切るシャルルに目で合図を送ると、パーティー会場に設置されたステージの上に、薄い生地で織られた帝国南方の民族衣装を着た若い女性の踊り子達が姿を見せ、帝都ではお目に掛かれない独特なダンスを披露する。


 彼女達は、俺が皇帝の代理として帝国南方の領地に赴いた際に、気にいっていた踊り子達だ。パーティの開催が決まってすぐに、シャルル経由で、彼女達の上司にあたる領主に命じて、急遽帝都まで来てもらったのだ。


「おお、いいぞ!」


「スゲーな!」


 誰もが美人と思えるような若い女達が、大事な部分が見えそうな危ない衣装を着て、尚かつ、激しいダンスを魅せるのだ。列席する貴族達は揃って興奮の声を上げる。


 ちなみに、今回のパーティの参加者に女性はいない。女性は貴族の当主にはなれない法があるからだ。


 なので、一部の貴族は、羽目を外して奥方に見せられない興奮しきった顔になる。


「ロッキード子爵。あの一番左の娘、今晩持ち帰っていいだろうか?」


「わ、私も!! あの中央の娘を!!」


 彼女達の色香に惑わされ、何人かの貴族は、私の元へと詰め寄って来た。残念ながら、彼女達の上司である領主貴族と俺の間に、踊り子達に夜の相手をさせるという契約は交わされてはいないが、フランシスコ宰相の言うように、この国の頂点に立つ我々を裁ける者など、もはや何処にも存在しない。


「ええ、いいですよ。むしろ、我々のような高貴な血を受け継ぐ支配者の相手をできることに、彼女達も大喜びすることでしょう」


 なので、彼女達の承諾もなしに、俺は貴族達の要求を快諾した。


 俺の言葉に感謝の顔を見せ「このお礼は後日必ず」と言う大物貴族達を見て、俺は自分が次期宰相の座に就くのは時間の問題だと心の底から思うのであった。





 その後、いくつかの催しを挟んだ後、ステージの上に凹凸のない白い仮面を被った男が上がった。


 見覚えのない人物の登場に、最初はシャルルが密かに用意した大道芸人かと思ったが、会場の奥の方で困惑な顔を見せているシャルルの姿を見て、何かが、おかしいと感じた。


 だが、何も知らない俺達以外の貴族が、また何か面白い物を見せてくれるのかと好奇な目をしていたので、ここは様子を見守ることにした。


 仮面の男は、場が静まり返るまで、ステージの上の佇むと、小馬鹿にするようなふざけた口調で声を発した。



「は~い! 皆様、こんばんわ!! パーティー楽しんでいますか?!!」



 帝国の重鎮であり、何よりも優先すべき尊き血を引き大貴族に対して大変無礼な発言であるが、こうした催しも悪くはないと大多数の貴族達は面白そうな目をしている。



「場も温まりましたね。じゃあ、ここいらで、一つ皆様とゲームを致しましょう?」



「ほーう。我々も催しに参加するのか」


「それはいい。正直見世物だけで、少々飽きてきたところだった」



 複数の貴族達から賛同の声を上がる。俺もシャルルからこのような話は聞いてはないが、贅の限りを尽くすのが貴族の重要な仕事だ。なので大きく頷いた。



「ではでは、皆様の賛成も得られたようですので、ゲームを始めましょう。その名も、生贄ゲーム!! ハイ、拍手!!」



 仮面の男は、パチパチと一人だけ手を叩き、場を盛り上げようとするが、生贄と言う不穏な単語を聞いて、先程まで浮かれていた俺を含め、全ての貴族が我に返った。


 何かが、おかしい。俺だけではなく、貴族達も同様に仮面の男に懐疑的な目を向ける中、ステージに一番近い距離にした壮年の伯爵が、皆を代表して仮面の男に問いかけた。



「生贄とは穏やかな言葉ではないな。それは一体どういうゲームかね?」



 伯爵の言葉に、仮面の男はたった一言で返答した。



「こういうことですよ。やれ……」



 すると、伯爵のすぐそばにいた給仕の一人が、懐からナイフを取り出し、伯爵の胸元に突き刺し殺害した。



「なッ?!」


「「「「うわあああああああああ!!!」」」」



 突如、伯爵が殺され会場中に悲鳴が響く。しかし、それもすぐに鎮静化した。今まで、健気に来客である貴族のお世話や料理を運んでいた給仕達が、それぞれ懐から刃物を取り出し、貴族達の動きを制止させたからだ。


 如何に絶大な権力を持っていても、貴族は争い事が苦手だ。こういった野蛮な行いは、部下に任せている。そのため、ナイフのような短い刃物とは言え、武器を持っている集団を相手に、我々は何もできなかった。



 そんな言葉を発することすら困難な重い空気が漂う状況下で、フランシスコ宰相が仮面の男に問う。



「ふむ、では死んでしまった伯爵の代わりに、私が改めて問う。これは一体どういうことだ? 仮面の大道芸人よ」


 

 フランシスコ宰相の問いに対し、仮面の男は少しだけ嬉しそうな声を出し答える。



「そうですね。ではまず自己紹介から行きましょうか?」



 すると、劇の演出かのように、仮面の男は仰々しく両手を上げる。



「とは言え、我々には組織名はありません。まあ、人が苦しんでいる様を見ることが大好きなイカれた連中だとでも思ってください。で、そんな我々が今回楽しもうと考えている餌があなた達なのですよ」



 貴族を餌と呼んだ、この仮面の男が何を言っているのか始めは理解できなかったが、ゆっくりと理解が追い付き、貴族達から怒号が飛び出した。



「貴族である我々が苦しんでいる様を見るのが大好きだと! ふざけるな!!」


「過去に我々に苦汁を舐めさせられた没落した貴族の生き残りや、国家の転覆を狙う反乱軍でもなく。大した理想も志も持たない快楽殺人者のような輩が、このような真似をしていると申すか!」



 彼らの意見に俺も同意する。



「そうだ! 我々はこの大帝国にほんの一握りしかいない選ばれし貴族だ! 更に、この場にいる者達は、その中でも頂点立つ者達だぞ! そんな尊き場所に立つ我々の苦しむ様を見て、楽しむと言うのか貴様らは!!」



 そう言った劣等者が無様に足掻く様を、愉快に見て楽しむ役割は本来は貴族の方にある。にも関わらず、この仮面の男は、無様に足掻く方の役を我々に行わせると言っているのだ。こんな理不尽なことがあってたまるか!!


 俺の言葉に、多くの貴族がそうだ!そうだ!と頷く。やがて、会場中に怒りの声が頂点に達したのをみてか、メックス大臣が我ら貴族側を大いに元気付ける事を告げた。



「仮面の男よ、貴様がどこの誰かは問わん。しかし、どちらにしろ貴様らはもうお終いだ。この屋敷には、現在、帝国最強の騎士の一人にして帝国最硬の男が、親衛隊の中でも選りすぐりの部隊を率いて警護しておる。お前達程度のふざけた賊など瞬殺だぞ!」



 屋敷の周囲をインペリアルナイツの一人が、貴族区を守る親衛隊の中でも精鋭部隊を率いて警護している。我々の目と鼻の先には刃物を構えた給仕達がいるが、壁の向こうには頼もしい護衛がいる。


 なので、強力な護衛の存在を改めて聞き、俺も含めて、周囲から安堵の声が漏れた。


 だが、そんな我々の心の支えを奪うかのように、会場の扉が開き、同じく仮面を被った黒髪の女性が入って来て、会場のど真ん中に何かを投げ入れた。



「そのインペリアルナイツって、こいつの事?」


「う、うわああああああああああああああああ!!!!」



 再び、会場中に悲鳴が響いた。無理もない。仮面の女が無造作に投げてきたのは、警備の指揮を取っていたはずの帝国で最も硬い騎士とされる鉄の魔術師、インペリアル・フォーのグランツ殿の首だったのだから。



「い、一体、どうやって……」



 あのフランシスコ宰相ですら、首だけにされたグランツ殿の哀れな姿を見て大いに驚いている。だが、仮面の女は何のことないと、当たり前の口調で告げた。



「動きを封じて、混乱している所を背後から剣で一刺しよ。魔術なんて使わせなかったわ。後、ついでに、屋敷の警護をしていた奴らも一人残らず始末しておいたわ」



 すると、仮面の女の背後から、これまた同じく仮面を被った武器を持った集団が現れ、会場内に次々と警備をしていたはずの親衛隊の首を投げてきた。


 その中には、長年仕えてくれたバルツの首もあり、俺もシャルルも、何が起きているのか分からず、頭の中が酷く混乱した。


 幼馴染であり、側近だった男の突然の死に、耳が遠くなるのを感じたが、それでも不気味な仮面の男の声は頭の中に入ってくる。



「さて、見ての通りだ。残念なことに君達に助けは来ない。まあ来たとしても」



 仮面の男が右手を上げると、一瞬にして会場中の壁一面が氷で覆われた。



「な! こ、これは…」


「間違いない魔術だ!」


「やはり、我々が把握していない魔術師がいたのか?!」



 これまで、どこか余裕な態度を残していた貴族達も、敵に魔術師がいたことで、事態の深刻さに気が付いたみたいだ。


 俺も同じだ。伯爵が目の前で殺されても、そこまで動揺しなかったのは、自分達には助けが来ると言う思い込みがあったからだ。


 だがしかし、屋敷を警備していたインペリアルナイツも親衛隊もあっけなく殺された。仮に助けが来たとしても敵方に魔術師がいるのであれば、混戦は必至。

しても敵方に魔術師がいるのであれば、混戦は必至。


 その事を理解し、俺も含め、皆、心のどこかにあった自分だけは死なないのではにないかという安心感が吹き飛んでしまった。



「い、嫌だ! 金か、いくらでも出す!! 私を助けてくれ!!」


「ず、ずるいぞ! 私は、こやつの倍を出す!! だから、見逃してくれ!!」


「金か? 女か? それとも地位か? 何でも言うがよい。我が公爵家は五百年以上続く、由緒正しき家、貴様の要求するものであれば、何でも用意するぞ」



 自分だけは助けてもらおうと、貴族達は口々に、望む物を何でも用意するから自分の命だけは、助けてくれと懇願する。


 そういった輩に後れを取るわけには行かない。俺も、大声を出して仮面の男に助命を請う。



「そうだ! 娘をやろう! 今年で十六になる。学校では美人だと評判が良いぞ!」



 今回のパーティーの費用で我が家にはもう碌に財産が残っていない。そのため、俺は、正妻から生まれた長女を出すと叫んだ。


 このパーティーさえ終われば、俺はフランシスコ宰相の後継者になれる。帝国有数の大貴族になるのだ。そのような可能性の塊のような大貴族の家と婚姻関係を結べるのだ。きっと仮面の男も大満足するだろう。



「チッ!」



 だが、俺が叫んだ後に、すぐに仮面の男が舌打ちをしたような気がした。いや、気のせいか。他の者には聞こえていないようだし、何よりこの俺の申し出を断る理由があるはずがない。


 しかし、分相応な事に、この仮面の男、俺の娘一人だけでは満足できないようだ。仕方がないので、次女も出そうと言う矢先に、仮面の男が言葉を発す。



「私は、あなた方から賄賂のように、何かを貰うつもりはございません。ただ、ゲームをやろうと、こちらの要求は、それだけでございます」



 口から出まかせの可能性が高いとは言え、もし、今貴族達が命と引き換えに渡すと言った代物を全て手にしたとしたら、フランシスコ宰相すら超える絶大な財と権力を蓄える事になるだろう。だが、あろうことか、仮面の男は、それらの対価を一蹴した。


 富や地位よりも、ゲームという余興を取る仮面の男の思考が俺には理解できなかったが、ゲームに乗る以外で、この仮面の男が納得しないと俺を含め、この場にいる貴族全員が悟ったのか、皆、口を閉じる。



「結構、では、ルールを説明しましょう」



 仮面の男が、何かしらの指示を下すと、給仕達が一斉に動き出す。そう言えば、あまりの事で気が動転していて、今まで気が付なかったが、給仕達は全員我が家で雇っている使用人のはずだ。沢山雇っているので、顔と名前までは覚えていないが、それがどうして仮面の男に従っているのだろうか?


 俺は、給仕達に尋ねてみようと思ったが、場の空気を読み止めた。


 給仕達は、我々貴族全員に一枚の紙とペンを渡すと会場の隅に移動する。貴族全員に紙とペンが行き渡ったことを確認すると、仮面の男は、これから始まるゲームの説明をする。



「では、これより生贄ゲームの説明をします。ルールは至ってシンプル。皆様の手元には、今一枚の紙があります。その紙に、この場に出席している貴族の名前を書いて下さい。それで、一番多く書かれた貴族の方には、このまま別のゲームをして頂き、そうでない方には、即、お帰り頂きます」


「「「は?」」」



 会場中から疑問の声が上がった。ルールは分かるが、何が目的なのか理解できないからだ。それに対し、仮面の男は、上手く伝えられていないと思ったのか、もう一度説明をした。



「このパーティに出席している貴族家の当主は全部で、四十五人、いや、先程伯爵がお亡くなりになられたので、四十四人ですか……ともかく、こちらも四十四人もの人間が一斉に苦しむ様を見るのは面倒なのです。なので、数を減らします。皆様、それぞれに渡された紙に、今回のパーティーに参加している貴族の名前を書いてください。我々は、皆様が選んだ者の中から、一番多く書かれた者が苦しむ様を見て楽しむとします」



 仮面の男が、二度目の説明を終えた段階で、念を押すかのように、フランシスコ宰相が真剣な顔をする。



「すまないが、確認させてもらうぞ。我々、四十四人の中から、一人だけ生贄を捧げれば、他の者達は解放するということでいいのかな?」



「ええ、その通りです。まあ、同数の場合は、二人以上残ってもらいますがね。皆さん、よく考えてください。この場で生贄に捧げられる方がどうなるかは、私が口で説明するまでないでしょう。つまり、逆によ~く考えてくださいよ。最低でも、今この場で、あなた方の派閥の人間を一人もしくは二人以上始末できるのです。それが、自分が密かに思っていた憎い相手や、目障りな政敵だとしても」



 その瞬間、命を奪われる側と怯えていた貴族達の顔に、明らかな変化が起きたのを俺は見逃さなかった。


 そんな我々の変化を見てか、仮面の男は煽るように言葉を続ける。



「これは例えばの話ですが、大臣が消えれば、席が一つ空きますよね? それに大臣達の上に立つ宰相だって。 このように、平時であれば、暗殺できないような人物だったとしても、この場においては、後日、わけの分からない殺人集団の手によって殺されたことにできますよね? そうなれば、誰も罪に問えない。ああ、誰が誰に入れたのかは分からないようにするので、報復とかの心配はありませんよ」



 俺を含め、仮面の男が何を言いたいのか、貴族達は全員速やかに理解できた顔をしていた。


 これは武器を使わない殺し合いだ。


 誰かを生贄にさせるという選択権を武器に、貴族同士を殺し合わせ、それを仮面の男が楽しむ狂ったゲームだ。


 正直に言って、こいつの手のひらの上で踊るのは癇に障るが、それでも、奴の言うように、普段であれば、排除できないような人物でさえ、この中の何人かが結託すれば排除できるかもしれないメリットは大きい。


 例えそれが、現在、絶対的な権力者として君臨するフランシスコ宰相だったとしても。



 落ち着け俺、これを切り抜ければ、俺は次期宰相になれるんだ。落ち着いてよく考えろ。


 

 俺は、バルツの死を嘆くことよりも、この場をいかに利益を出して切り抜けるかに思考が傾いていた。



「あそこに置かれている大時計の針が、二十時を示すまで、つまり、今から三十分ほど時間を差し上げます。みんなでじっくりと議論を重ね、よく考えて、この中で要らない人を決めてくださいね」



 そして、ゴーンという時計の音とともに、生贄ゲームが始まった。

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