第五十二話 絆
葵の誘導により、臨界を超えたエネルギーで抉り開けた空間の裂け目。
這い出すようにしてたどり着いた嘆きの森は、楓と葵を元の世界へ誘うように、不安定ながらも神々しい輝きを放つ転移ゲートが、別れの時を告げる脈動を静かに繰り返している。
ゲート前の歪んだ空間の縁には、先んじて地下から脱出していたシエルのエアリアル・スカウト改が、静かに翼を休めていた。
機体から降り立ったピピ、ガオ、エルシェラ、そして操縦桿を放したシエルの四人が、アストラル・クロノスの大地を力強く踏み締め、閉ざされようとする世界の境界線を必死に繋ぎ止めようと、各々の内に秘めた全魔力を惜しみなくゲートに注ぎ込み続けている。
刻一刻と迫る別離の予感に、みんなの顔には、引き裂かれるような悲しみと、世界を救った二人を誇らしく送り出そうとする決意が、綯い交ぜになっていた。
その表情は、夜明けの近い森の光に照らされて、美しく切なく揺れている。
ガオは、寂しさを振り払らい、力強く、いつもの太陽の笑みを浮かべて見せた。
「これで本当にお別れなのかぁ。お前たちみたいな最高に愉快な連中とバカ騒ぎできなくなるのは、正直チョッと寂しいけどな!」
ピピは涙ぐんだ瞳で真っ直ぐに双子を見つめると、押し殺してきた純粋な想いを解き放ち、最後で最高の告白を告げた。
「アオイ、カエデ。この過酷な世界で学んだすべてのことを、元の世界へ帰っても決して忘れないで。あなたたちが私たちにくれたこの希望に、心から感謝するわ。……大好きよ……本当に、大好きよ、アオイ」
シエルはかつての貴族としての高圧的な態度など微塵も感じさせない、穏やかな笑顔で二人の背中を押した。
「カエデ、アオイ。君たちは、絶望に沈みかけていたこの世界に、誰にも真似できない新しく熱い風を吹き込んでくれた。さあ、何も恐れることはない。胸を張って、君たちの愛する故郷に帰りなさい」
エルシェラは、全身から溢れ出す純白の魔力を光の粒子を周囲に降り注ぎ、女神のような優しさで語りかけた。
「私たちの愛する世界、アストラル・クロノスに来てくれて、本当にありがとう。……あなたたちと結んだこの魂の絆は、たとえ世界を超えて離れ離れになっても、決して途切れることはないわ。いつか、必ず、またどこかで……」
楓は、溢れ出す涙を堪えることができず、共に地獄を駆け抜け、家族のような絆を育んだ仲間たちに向けて、心からの感謝を込めて叫んだ。
「みんな……本当に、本当にありがとう。あなたたちと出会えて、一緒に笑って、泣いて、闘えて、本当によかった。あたしたちのこと、絶対に忘れないでよね! あたしも、みんなのこと、この世界のこと、絶対に一生忘れないわ! あとは、みんなに任せたからね」
葵もまた、常に保っていた理性的で冷静な心の奥底に、一言では言い尽くせない深い感謝を込め、みんなの顔を一人ずつ見つめた。
「僕たち全員で守れた世界、このアストラル・クロノスを、種族を問わず、平和な世界、平凡が最高だと思える世界に、みんなで守ってくださいね。二度とこんなことが起きないよう、決して、忘れないでください。いつかまた、必ず……」
(……僕も、ピピさんのこと、ずっと大好きですよ)
みんなに手を振り桜庭の双子は、この異世界の戦友であり自分たちの魂の半身でもあった愛機、ルピナス・ツヴァイのコックピットへ決意と共に再び乗り込んだ。
狭いコックピットの中には、硝煙とオイル、そしてアストラル・クロノスの大気の匂いが充満している。
「さあ、姉さん。僕たちの帰るべき場所へ、元の世界へ帰ろう!」
「うん、葵! あたしたちは、どこの世界にいたって、最強で最高の双子、ツインズだったわよね!」
ルピナス・ツヴァイの操縦桿を握りしめ、見守る仲間たちの祈りにも似た視線を背に受けて、光り輝く転移ゲートの中に一気に飛び込んだ。
転移ゲートは火花を散らし、激しい閃光を放ち、一筋の光となり、空間の彼方へ消滅した。
楓と葵は、アストラル・クロノスの世界から、幻であったように静かに姿を消した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
別れの時が迫る嘆きの森。
世界を救い抜いたシュヴァルツ・アインツの面々は、悲しみを乗り越え、最高に熱い絆を胸に刻みます。
ピピの告白、仲間たちの祈り……。
互いに想いを伝え合い、楓と葵はついに元の世界への転移ゲートへと飛び込みました。
異世界アストラル・クロノスでの激闘を終え、二人が帰還した先には何が待っているのでしょうか。
物語の、いよいよ最終局面です!
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