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第四話 非公式戦

 新生した鋼鉄の守護者、ルピナス・ツヴァイの最終調整を兼ねた試運転は、ガレージの裏手に広がる荒涼とした訓練場で行われた。


 楓の天賦とも言える直感的な操縦は、全高十メートルという巨大な質量を操る上でも、遺憾(いかん)なく発揮されている。


 彼女は羽毛に触れるような繊細かつ鋭いタッチで操縦桿(そうじゅうかん)を捌き、鋼鉄の巨体をあたかも己の手足の延長のように、滑らかに躍動させていく。


「いいね、この動き! あのオンボロの練習機とは比べ物にならない。この機体、最高だよぉぉーッ!」


 見上げるような高さで繰り出される、軽快なフットワークを、ガオは眩しそうに目を細めて見上げ、腹の底から響くような声で豪快に笑った。


「へッ、そりゃあ機体がいいだけじゃない。お前ら二人の魂が一つに重なってるからこそ、そんな芸当ができるのさ。カエデ、アオイ、大したもんだよ!」


 ガオは、丸太のような太い腕を組み、満足げに鼻を鳴らして、異界から来た二人の底知れぬ才能を心から称賛(しょうさん)する。


一方、葵はルピナス・ツヴァイの複座シートに深く腰掛け、機体の全駆動データをリアルタイムで分析している。


 彼の瞳は、モニターを流れる情報の濁流を寸分も漏らさず凝視し、現代科学の論理とこの世界のことわりを融合させるべく思考をフル回転させる。


 この世界において、双子は魔力が使えない。


 その代わりに、プラナと呼ばれる生命エネルギーが全身の魔導回路を循環し、鋼の巨人を動かすのだ。


「システムに異常はありません。機体とのシンクロ率も良好……ですが、姉さん、プラナの消費効率が計算と一致しません。無駄な出力が多すぎる」


 葵は刻々と赤く染まっていくグラフを注視し、眉をひそめた。


「姉さん、もう少し丁寧にプラナを供給してください。このままでは実戦で息切れしますよ」


「うるさいわねぇ! あたしのスタイルに口出ししないでっ! 体が動きたいように動かすのが一番なのよ!」


火花を散らすような姉弟の小競り合い(こぜりあい)


 それは二人にとって、元の世界でトップを争っていた頃から続く、これ以上ないほどいつも通りの日常風景だ。


 過酷な試運転を無事に終えた翌日、エルシェラは二人に最初の仕事を提示した。


 それは、公式リーグの予選を兼ねた、無法地帯とも言える非公式バトルへの参戦という、あまりに厳しい内容だった。


「再建のための資金稼ぎ、そこで何より、あなた方の実戦経験を積むためです。今の我がチームには、公式リーグの舞台に立つための最低限の登録料すら残されていませんから」


 エルシェラの言葉に、楓は獲物を見つけた肉食獣のように身を乗り出す。


「勝てば資金も、元の世界へ戻るためのエネルギーも手に入るんだよね! 面白いじゃない。それで、相手はどこのどいつなのさ!」


ピピが手際よく情報端末を操作し、敵機のホログラムデータを投影する。


「相手はアイアン・ブル。主力、機動魔装機(きどうまそうき)、ブルート・フォートレスの弱点である(かく)コアは、機体下部の強固な装甲の内側に隠されているわ! アオイ、貴方の冷静な分析が勝機を左右することになる。頼めるかしら?」


「了解しました、ピピさん。ガオさん、機体の駆動系を最終調整値まで追い込んでください。一撃離脱に賭けます」


「おうよ! 任せておきな。あたいが最高のキレに仕上げてあげるわよ!」


◆◆◆


 バトル当日。


 再建の一歩を踏み出すチーム、シュヴァルツ・アインツは、決戦の地、グラン・コロッセオへと向かった。


 すり鉢状に広がる観客席は、異世界の種族によって埋め尽くされ、肌を焼くような熱狂と、血の匂いを求める渇望(かつぼう)が渦巻いている。


「うわぁっ。すごい熱気だね、葵。空気そのものがビリビリしてる」


「現代のレース場を思い出しますね。ですが、ここにはスポーツとしての爽やかさなど微塵(みじん)もありませんがね。姉さん、気を引き締めてください」


 葵は、モニターに映る複雑な魔導回路の数値を凝視し、姉の無鉄砲な走りをカバーするための安全策を、幾重にも講じていく。


「忘れないでください。勝利条件は核コアの破壊。チャンスは一瞬です。決して深追いはしないで」


「分かってるってば! いよいよアストラル・クロノス中に見せつけてやるんだから。あたしらの、最高のバトルをね!」


 楓は、操縦桿を折れんばかりに握りしめ、己の魂を鼓舞(こぶ)するように短く叫んだ。


 その直後、けたたましい魔導拡声器の音がコロッセオの隅々にまで響き渡った。


「さあ、始まりました! 本日のメインイベント! かつての名門も今はここ! 没落(ぼつらく)のシュヴァルツ・アインツ対、破壊の重戦車アイアン・ブルだぁ!」


「バトル、スタート!」


 大気を引き裂く轟音と共に、合図が鳴り響くと、ブルート・フォートレスが猛然と大地を砕きながら突進を開始する。


 楓は、瞬時に思考をトップギアへ切り替え、ルピナス・ツヴァイをニーラー形態へ鮮やかに変形させると、アリーナの砂塵を巻き上げて疾駆(しっく)した。


「おっそーい! そんなドン亀みたいな動き、当たるわけないじゃんか!」


 コンマ一秒を削り出す圧倒的なライディングテクニックは、敵のパイロットを混乱の極みへと叩き落とす。


「な、なんだと!? あの機体、マギアスではないのか! なんだあの動きは!」


 だが、相手も歴戦の戦士。


 ブルート・フォートレスは、太い前脚を地面へと叩きつけ、全方位へと拡散する破壊の波を解き放つ。


「まずい! 衝撃波が来ます! 敵機固有技、アストラル・クラッシュです。姉さん、マギアス形態へ緊急移行!」


「きゃああっ!?」


 変形こそ間に合ったものの、破壊エネルギーを完全に回避することは不可能だった。


 目に見えるほどの衝撃の波が、ルピナス・ツヴァイの左半身に直撃する。


 巨体は紙屑のように弾き飛ばされ、堅牢(けんろう)な外壁に激しく叩きつけられた。


「姉さん! 左腕の装甲、一部大破! 制御をこちらでカバーします!」


「葵、アンタこそ大丈夫なの!? くっそーッ。やってくれるじゃない!」


 機体を通じて全身を走る衝撃に耐えながらも、楓の瞳には、さらに苛烈(かれつ)で美しい闘志が燃え上がる。


 ブルート・フォートレスが勝利を確信し、その巨大な角を槍のように突き立てて、トドメを刺すべく勢いよく詰め寄る。


 わずかな隙の生じた合間! 楓は電光石火の早業で、機体を再びニーラー形態へと戻し、死神の角を紙一重の差で回避してみせた。


 機体は、そのまま遠心力を無視した鋭い反転を決め、再びマギアス形態へと変形。


 敵の(ふところ)へと吸い込まれるように深くもぐり込む。


「データ通りにいかない相手には、あたしの直感で勝負!」


「今だ! 核コアは下部装甲の接合部! 狙ってください、姉さん!」


「言われなくたって分かってるわよ!」


 楓は機体の右腕、炎模様の鋼の(こぶし)に、全身のプラナを魂が燃え尽きるほどの密度で集中させた。


 赤く熱を帯び、周囲の大気を蒸発させるほどに熱せられた拳を凝視し、一気に勝負をかける。


「くらえぇぇぇっ! 火炎連撃(かえんれんげき)、ファイヤーブロォォォオッ!!」


 絶叫と共に放たれた紅蓮の連撃は、敵の下部装甲を紙細工のように粉砕した。


 内部に隠されていた、青白い核コアが露わになったその時、楓の拳がそれを正面から捉え、核コアは、悲鳴を上げる間もなく粉々に砕け散った。


 一瞬の静寂。


 直後に沸き起こったのは、地鳴りのような大歓声と、勝者を称える狂乱の怒号だった。


「勝負ありだぁー! 勝者、シュヴァルツ・アインツ!!」


 楓は、狭いコクピットの中で、天を突くように拳を突き上げ、弾けるような笑顔で叫んだ。


「よっしゃあぁぁッ! どうよ! あたしの勘、最高に冴えてたでしょ!」


 破損した左腕を抱えながらも、堂々と胸を張って控え室へ戻ると、そこには安堵(あんど)した表情のチームのメンバーが待っていた。


 エルシェラの指に嵌められた転移リングが、僅かながらも神秘的な光を放っている。


「やりましたね、お二人とも。これが、あなたたちの力で掴み取った報酬です」


 葵は、うずくような痛みを感じる左腕をさすりながら、冷徹な瞳で獲得アイテムのリストを見つめて呟く。


「さて、何を奪うべきか? まずは、このボロボロになった左腕を直すための、高品位なパーツが必要ですね」


 傷つき、泥にまみれながらも掴み取った再建への第一歩。


 弱小チームの逆襲と、双子の遥かなる帰還への旅路は、今、この血湧き肉躍るアリーナから本格的に動き出した。

楓の直感と葵の分析が噛み合った、シュヴァルツ・アインツの記念すべき初勝利!

激しい衝撃と火花の中で掴み取ったこの報酬が、二人の帰還への道をどう切り拓くのか……。


バトルの熱量、皆さんに届きましたでしょうか?

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

双子の絆と成長、これからも全力で描いていきます。


続きが気になる方は、ぜひ「ブックマーク」や「評価」での応援をいただけると嬉しいです!

次回もお楽しみに!

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