第三話 再起
異世界、アストラル・クロノスの地に降り立ってから、数日が過ぎた。
楓と葵の二人は、エルシェラが所有するガレージでの生活を始めている。
その建造物は、外観こそ風雨にさらされ、今にも崩れそうなボロ小屋にしか見えなかった。
だが、一歩足を踏み入れれば、そこにはかつての栄華を物語る古代の技術がいくつも残されている。
理知的な赤い瞳を輝かせ、葵は、それら未知の機械群を食い入るように観察していた。
自分たちの知る科学と、この世界の理との共通点を見つけ出すことに、全神経を注いでいる。
「これは驚いたな。姉さん、見てください。この計測器、僕たちのいた世界の最新装置よりも、桁違いに精度が高い。これがあれば、僕たちのレーシングニーラーを、この世界に最適化したマギアスへと作り替えられる」
葵が、興奮を隠しきれない様子で指先を動かす傍らで、楓は不満を爆発させた。
ほこりの舞うガレージの隅々を、ひたすら掃除させられる退屈な日々に耐えられなくなり、激おこだ!
「もうっ! あたしを働かせるより、早く最高のマギアスを作ってよ! 掃除ばかりで、あたしはアストラル・クロノスの掃除屋さんじゃないのよ。せっかくのあたしのライディングテクニックがなまっちゃうじゃんか! ねぇ、聞いてるの、葵!」
「落ち着いてください、姉さん。計画的な準備こそが、僕たちの勝利への最短ルートなんですから」
いつものように言い合う双子の姿を、ピピは眼鏡のブリッジを指先でクイッと押し上げ、どこか微笑ましそうに見守っていた。
◆◆◆
数刻後、ピピが興味深そうに身を乗り出して、葵に尋ねる。
「それで、アオイ。具体的に、このニーラーをどうやってあの巨大なマギアスに変えるつもりなの?」
葵は、待ってましたと言わんばかりに、手元の端末にニーラーの設計図を投影しながら説明を開始した。
「ニーラーは、車体の低さを活かした、高速走行に特化しています。この特性を最大限に活かし、人型の形態は近接格闘戦に特化させる。変形機構は、四つのタイヤを関節に、フレーム全体を骨格として利用する。ニーラー形態は高速移動モード、人型形態は格闘モード、という感じです」
ピピは葵の緻密な説明と、この世界の常識には無い発想に、深く感銘を受けた。
「まさか、自分たちのマシンを核にして、そのまま作り替えるなんてね。変形しながら戦うなんて、信じられない発想だわ!」
「僕たちの技術は、この世界の魔導技術にも引けを取りません。これを核に据えれば、十分に戦える。問題は……感情を力に変えるプラナ炉と魔導炉の融合調整ですかね。ピピさん、手伝ってもらえますか?」
葵の赤い瞳には、未知の領域に挑む者の、静かだが激しい闘志が宿る。
それから数日間、葵とピピは寝る間も惜しみ、愛機の解析と設計に没頭し続けた。
葵は、ガレージに据え付けられている実験制御用のプラナ魔導炉と格闘し、その膨大なエネルギーを制御するための設計図を書き換えていく。
その間、楓もただ手をこまねいていたわけではない。
彼女は、ガオから借りた古い練習用マギアスに乗り込み、仮想空間での訓練に明け暮れていた。
「へっ、こんな古いの、全然あたしのイメージ通りに動かないじゃんか!」
楓は、不満を漏らせながらも、ひとたび操縦桿を握れば、天賦のセンスを開花させた。
型落ちの機体でありながら、彼女は驚異的な機動と圧倒的なパフォーマンスを発揮している。
モニター越しにその姿を見つめるエルシェラは、確信に満ちた微笑を浮かべた。
◆◆◆
数週間後、ガオが採掘の仕事から帰還し、ついに新生マギアスの改造が本格的に始まった。
「おう、戻ったぜ! へッ、これがあんたらの愛機かい。あたいの腕が鳴るねぇ!」
ガオの職人芸とも言える豪快な技術と、ドワーフから取り寄せた珍しい魔導合金。
そして 葵の設計図と魔導科学の融合。
閉ざされたガレージの中では、昼夜を問わず溶接の青白い火花が激しく飛び散り、搭載された魔導炉が、限界を告げるような重低音を響かせて唸りを上げる。
楓と葵は、自分たちの愛機が見たこともないほど巨大なロボットへと姿を変えていく様子を、固唾を飲んで見守り続けた。
そしてついに、新生マギアスがシュヴァルツ・アインツのメンバー全員の手により完成した。
元のレーシングニーラーと比べると、その体積は三倍ほどの大きさに膨れ上がっていた。
葵が、制御装置用のプラナ魔導炉にプラナを注ぎ込むと、駆動音が激しく響き始める。
機体は、流れるようにニーラー形態から変形し、広大なガレージの中で力強く立ち上がった。
全高十メートル。
機体右側は、楓の情熱を象徴する鮮烈なメタリックレッド。
機体左側は、葵の冷静さを象徴するクールなメタリックブルー。
「できたよ、姉さん。僕たちのマギアスだ!」
「すっげえぇー! ガオさん、ピピさん、ありがとう! この子の名前は、ルピナス・ツヴァイに決定だぁー!」
◆◆◆
無事に起動テストも終わり、葵とピピとガオの三人は、起動テストの話をしながらガレージの片付けをしている。
楓は、片付けをしているみんなの目を盗み、そ~っとタラップを上がり、コックピットに乗り込んだ。
葵は、一緒に片付けをしていた楓がいないことに気付き、大きな声で叫ぶ。
「あっ! ちょっと姉さん、まだ試運転です! 勝手に動かさないで下さいよー!」
「うるさいわねぇえ! 今は、この試運転こそが実戦なんだから、問題ないでしょ!」
楓が、かつての愛機と同じ起動スイッチを迷わず押した。
機体に搭載されたプラナ魔導炉が、楓の溢れ出す情熱を吸い込み、その巨体を激しく震わせて目覚める。
ルピナス・ツヴァイはガレージを抜け、アストラル・クロノスの広大な大地へと歩み出した。
「よし! 行くわよッ!あたしたちのマギアス……ルピナス・ツヴァイ、発進だあぁぁッ!」
見上げる空はどこまでも高く、新生した機体の装甲を、異世界の光がまぶしく照らしていた。
ついに二人の愛機、ルピナス・ツヴァイが起動しました!この機体がこれからどんな戦いを見せるのか……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
双子の絆と成長、これからも全力で描いていきます。
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次回もお楽しみに!




