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第四十八話 再会!

 静寂に支配された古い魔導遺跡の廃墟。


 楓たちは、葵から届いた消え入りそうなほど微かな信号の断片を唯一の道標として、帝国の支配を象徴する天空の塔に張り巡らされた、幾重もの重厚な警備システムの解析を必死に続けている。


 ピピの卓越した情報収集能力と、エルシェラの鋭い魔力探知能力を極限まで合わせても、鉄壁の守りを誇る天空の塔への正面突破は、文字通り不可能であるという、残酷な現実が無慈悲な数値となり、モニターに映し出されていく。


「地下の研究施設は、帝国の最新技術を結集した多重魔力シールドによって守られている。通路にも自律型の警備ロボットが隙間なく配置されているわ。正面から堂々と乗り込むのは、もはや戦略とは呼べない、自殺行為としか言わざるを得ない行為ね」


 ピピが険しい表情を浮かべながら報告するその声には、情報分析官としての冷静な判断と、葵を救いたいという熱い感情の間で激しく揺れ動き、その瞳には切迫した緊迫感が滲み出ている。


「じゃあ、一体どうすればいいのよッ!? 今だって、葵がどんなに恐ろしい目に遭っているか分からないのに、ここで指をくわえて見てろって言うの!」


 楓は抑えきれない焦燥に駆られ、今にもルピナス・ツヴァイに飛び乗って出撃しようと全身を震わせる。


 彼女の身体は、魂の片割れである葵の危機を本能で敏感に感じ取り、燃え上がる炎のごとく激しく熱を帯び始めている。


 その熱量は、楓一人の感情の枠を超えて、彼女の周囲の空気を歪ませるほどのプラナの余波となり、廃墟の冷たい壁をチリチリと焦がさんばかりに高まり続けている。


 シエルが冷静な、鋼のような力強い声で楓の肩を掴んで制す。


 その整った顔立ちには、かつてないほどの真剣な決意が刻まれていた。


「落ち着いて、まずは深呼吸をするんだ、カエデ! 闇雲に突っ込んでも、アオイを助け出す前に僕たちが捕まってしまったら、すべてが水の泡になってしまうんだぞ!」


 シエルは、葵から途絶える直前に届いたデータのわずかなノイズを執念で繋ぎ合わせ、一つの確かな希望を見出していた。


「アオイからの最後の信号は、研究施設の最上層にある巨大な換気シャフトの内部から発信されている。間違いない、アオイはみんなが安全に侵入できる唯一のルートを、命懸けで作ってくれているんだ」

 

 葵は、冷酷な研究者たちの監視の目を欺きながら、決して希望を捨てることなく、ピピに向けて微かな信号を送り続けていた。


 自分の正確な位置と、施設の脆弱な急所である換気シャフトの場所を知らせようとしていた。


 楓は、葵の無事を祈りながらも、愛機であるルピナス・ツヴァイの各部を最終点検している。


 心中では、弟を永遠に失うかもしれない底知れない不安と、葵なら必ず生き延びているという燃えるような信頼が、激しく入り交じって渦巻いていた。


◆ ◆ ◆


 作戦決行の準備が整い、夜陰(やいん)に紛れ、ルピナス・ツヴァイが廃墟の瓦礫を力強く蹴り、宙へ舞い上がる。


 シエルのエアリアル・スカウト改も、その影を追うようにしてあとに続く。


 楓とシエルは、帝都の静寂な空へ吸い込まれるように滑り出した。


 ピピが施設の防衛システムへ極秘にハッキングを仕掛け、換気シャフト周辺の警報装置を一時的に無効化することに成功する。


 ピピが魔導通信機を通じて鋭く、弾けるように叫んだ。


「今よッ、システムの死角が生まれたわ! 一気に換気シャフトに突入して、カエデ、シエル、急いでッ!」


 ルピナス・ツヴァイは力強く背後の翼を開き、エアリアル・スカウト改と共に、塔の側面を擦り抜けるギリギリの超高速飛行で滑り込む。


 鋼鉄のファンが不気味に回る巨大なシャフトの内部へと、一筋の光となって鮮やかに突入を開始した。


 そこには、期待していた葵の姿はなかった。


 だが、彼が残したに違いない、自らのプラナを微量に練り込んだ不思議な光を放つ★★のマークが、暗いシャフトの壁に力強く、消えることのない誓いのように刻まれている。


「これは葵の書いた★★の印だ! 葵、あんたはやっぱり、この地下深くにある最終兵器の場所にいるんだね!」


「アオイは無事よ! アオイは監視の隙を突いて、自力で地下の心臓部へ戻ったに違いないわ。急いで追いかけましょう!」


 楓とピピの安堵と興奮の混じった叫びが魔導通信機に響いた直後に、施設内に張り巡らされた警報装置が、狂ったように赤い光を放ちながら鳴り響く。


 無数の警備ロボットが、不気味な機械音を立てて、シャフトの上下から楓たちを包囲するように集まってくる。


 シャフトの巨大な開口部から、すべてを飲み込むような漆黒の装甲を纏ったマギアス、シャドウ・ファントムが姿を現した。


 女騎士ゼクスと共に、深淵から這い出してきた死神のような静かさで、楓たちの前に立ち塞がる。


 まさに、これ以上ないほど最悪のタイミングでの再会だ。


「逃がさないわよッ、桜庭カエデッ。あなたたちがこの世界に持ち込んだ異界の知識は、アストラル・クロノスの平穏な秩序を乱す、世界の異物であり、毒でしかない。ここで私が、根絶やしにしてあげるわ!」


 ゼクスは、感情を一切排した氷のように冷たい声で言い放つ。


 鋭い視線は、楓のルピナス・ツヴァイを逃れられぬ獲物として、完全にロックオンしている。


 楓は、葵が地下へ向かったという確かな希望と、目の前に立ち塞がるゼクスという強大な壁、そして弟を奪われたことへの抑えきれない憤怒によって、その胸が今にも張り裂けそうな衝撃に包まれた。


「ゼクスっ! よくも葵を、あたしたちの唯一無二の絆を引き裂いてくれたネッ! 今度こそあんたとの決着をつけて、何があっても葵をあんたたちの手から取り戻してみせるッ!」


 楓の瞳には、かつてないほど激しく、すべてを焼き尽くさんばかりに紅蓮の炎が立ち上がる。


 その怒りに応えるように、ルピナス・ツヴァイのプラナ魔導炉(まどうろ)は、帝都の深い闇を粉々に焼き払うような、凄まじい唸りを上げる。


 運命の再会は、火花散る戦場という名の最悪の形で、ついにその幕を開けた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


仲間たちの絆と執念で、ついに天空の塔への潜入を果たしたシュヴァルツ・アインツ。

換気シャフトに残された葵の印を見つけたのも束の間、そこには冷酷な女騎士ゼクスと新たな敵が待ち受けていました。

かつてない激しい怒りを宿した楓と、葵を取り戻さんとするシュヴァルツ・アインツ。

運命が交錯する中で、ついに避けられない戦いの火蓋が切って落とされます!


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次回もお楽しみに!

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