第四十一話 断絶、裏切りの漆黒
アストラル・クロノス全土に、双子の秘匿された出自が、ついに暴露されてしまった。
楓と葵が積み上げてきたすべては、乾いた音を立てて無残に崩れ去っていく。
マギアスパイロットとして手にした栄光も、仲間たちと育んできた束の間の温かな日常も、吹き荒れる負の連鎖により、一夜にして跡形もなく消え去った。
彼らは今や、アストラル・クロノスの理を脅かす忌むべき異物として、帝国、エルフ国、さらに自由都市国家群のすべてから指名手配される身となった。
逃げ場のない絶体絶命の窮地へ彼らは追い詰められている。
「ガレージはもう終わりだ。残された時間は、あとわずかしかない、すぐにここを脱出する」
葵の声は、事態の深刻さに反して、凍てつく大気のように冷徹な響きを帯びている。
だがその瞳の奥には、すべてを計算し尽くした静かな覚悟だけが宿っていた。
「シエル様、あなたの領地へ向かいます。そこなら、一時的に追っ手の目を眩ませ、身を隠せる可能性があるはずだ」
シエルは焦燥感を露わにしながらも、エルフ国の貴族としてのプライドよりも、共に戦ったこの双子を絶対に守り抜くという熱い思いを優先し、即座に決断を下す。
「分かった。急ごう。僕の領地に張り巡らされた古代の結界なら、たとえ帝国軍といえども容易には、手出しできないはずだ」
チームは最低限の装備と、分解され物言わぬ機械の塊となったルピナス・ツヴァイを輸送車両に積み込み、かつての憩いの場であったガレージを静かにあとにした。
◆ ◆ ◆
ガレージから離れた深い森の奥。
漆黒の粒子を纏い闇に溶け込むシャドウ・ファントムが、冷徹な女機士ゼクスに率いられて、突如として双子の行く手を遮った。
「逃がさないわよ、桜庭ツインズ。あなたたちの存在そのものが、この世界の秩序を根底から乱す毒となる」
ゼクスが魔導無線越しに言い放つ、感情を排除した機械的な声。
その言葉は、双子の心に冷たい鉛玉を撃ち込まれたような激痛を与える。
「ゼクス! あんたたちは、やっぱりあたしたちに真っ赤な嘘を吐いていたんだな!」
楓は、裏切りの事実に激しい怒りで震え、思わず輸送車両の窓を力任せに叩いた。
その激情が、彼女の内に眠る炎のプラナを激しく波打たせる。
「嘘ではありません。これは、アストラル・クロノスの平穏な未来を賭けた、唯一にして正しき選択です。あなた方の持つ無秩序な力は、ヴァイス公爵の描く完璧な秩序には、もはや不要なのです」
シャドウ・ファントムから放たれた無数の魔力弾が、逃走を続ける車両の周囲を無慈悲に抉る。
爆音と土煙の中、ガオは必死にハンドルを切り、極限の回避を試みる。
「くそッ、このままじゃ全員まとめて捕まるどころか、塵も残らず全滅しちまうぞッ! 何とかしてくれ、アオイ!」
ガオの悲痛な叫びが響き渡る中、葵は、装甲が限界を迎えることを悟る。
「ガオさん、僕が囮になります! 姉さんとみんなを連れて、今すぐこの場から逃げてください!」
葵が叫んだその決断は、あまりにも速く、あまりにも冷酷な、自己犠牲の計算に基づいたものだった。
「葵ッ!? 何を言ってるの、一人で残るなんて絶対に許さない!」
楓が驚愕し、走行中のドアノブに手をかけて止めようとする。
大きく見開かれた青い瞳からは、堪えきれない涙が一筋、ポロリとこぼれ落ちた。
「僕の分析によれば、ゼクスは僕の頭脳という情報源に興味を持っています。僕が身をさし出せば、彼女は僕の確保を最優先し、姉さんたちを見逃す確率は極めて高くなります。これは、僕が導き出し得る、チームを救うための唯一の最善の戦略です」
葵は躊躇することなく輸送車両から飛び降りると、一人静かに歩みを進めていく。
「葵を信じて、楓! ……彼の命懸けの犠牲を、ここで無駄にしないで! 私たちは生き延びて、必ず、葵を助け出す。それが、私たちに託された最後の使命なのよ!」
ピピの必死の制止に、ガオは唇を噛み締めながらアクセルを全力で踏み込む。舞い上がる砂埃が、楓の悲痛な叫びを無情にもかき消した。
たった一人、巨兵の前に立ちはだかる葵。
氷のような赤い瞳は恐怖に曇ることなく、静かな覚悟に満ちている。
絶望的な闇の中で、双子の運命は、非情にも二つに分かたれた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
仲間を守るため、一人で追っ手に立ち向かう決断をした葵。
楓たちを逃がすための究極の選択は、二人の運命を分かつ、あまりにも残酷な断絶となりました。
帝国に捕らわれた葵の身に、一体何が待ち受けているのでしょうか。
引き裂かれたシュヴァルツ・アインツは、再び巡り会うことができるのでしょうか。
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