第四十話 暴露
嘆きの森に眠る第三のゲート。
元の世界への帰還を予感させる、確かな足掛かりを掴み取った。
チーム、シュヴァルツ・アインツのガレージは、次なるバトルを見据え、張り詰めた緊張感が漂う。
だがそれは、どこか心地よく、前向きな希望に満ちたものだ。
葵とピピは、遺跡から持ち帰った膨大なログを解析し、まだ見ぬゲートの正確な在処を特定するために不眠不休の分析を続ける。
ガオは、来るべき戦いに備え、ルピナス・ツヴァイの各駆動系にさらなる強化を施すべく、火花を散らしながら整備に余念がない。
シエルもまた、伯爵の失脚によって得た政治的影響力を最大限に活用し、増長する帝国への対抗措置を講じるべく、本国との秘密裏の通信を幾度も重ねる。
迫りくる嵐への準備を、着々と進めていた。
「解析の結果、次なるゲートの所在が判明しました。それは、帝国の支配の象徴である首都アイゼンガルドの地下深く、幾重もの厳重な警備に守られた、最深部に存在している可能性が極めて高いです」
葵が、端末のホログラムを操作しながら、かつてないほど険しい表情で下したその報告は、あまりにも残酷な現実を突きつけるものだった。
耳を傾けていた一同の顔は、敵の懐のど真ん中という絶望的な立地を前にして、一瞬にして青ざめた。
「帝国のどまん中かぁ……あはは、上等じゃない、そこまで分かってるなら行くしかないでしょ! だってあたしたちは、いつだって不可能を可能にしてきた、最強のチームなんだもん!」
楓は、いつものように自信まんまんに胸を張って言い放った。
だが、その震える指先を隠すような振る舞いは、自分たちを奮い立たせるために必死に紡ぎ出した、精一杯の強がりだった。
しかし、彼らが結束を固めようとする決意を嘲笑うように、帝国のヴァイス公爵は、すでに世界の歴史を根底から塗り替える最悪の一手を、冷徹かつ確実に打つ。
◆ ◆ ◆
その日の夕暮れ時、空が毒々しいほどの茜色に染まり、街を歩く人々の影が長く伸びる頃、全主要都市の街頭ビジョンや人々の情報端末に、突如として不気味なノイズを伴う緊急ニュースが流れ始める。
そこに映し出されたのは、ゼクスがアリーナでのバトル中に、密かに仕掛けていたセンサーにより撮影された、双子とエルシェラの極秘の会話シーンだった。
本来ならば、決して表に出ることのないはずの、映像と音声が、そこにはあった。
映像は、帝国独自の高度な情報処理技術によって、巧妙に編集され、文脈を悪意を持って繋ぎ合わせている。
まるで双子が、自らの帰還と引き換えに、帝国の陰謀に加担しているような、救いようのない印象操作が施されていた。
『あなた方の目的はあくまで元の世界への帰還ですね?』
『……ええ。……ためなら、どんな条件でも……』
無機質な電子音と共に、切り刻まれた真実が、逃げ場のない毒となってアストラル・クロノス中に降り注ぐ。
平穏を享受していた街の空気は、一瞬にして冷え切った殺意へと塗り替わる。
街頭ビジョンを見上げる群衆の瞳から光が消え、代わりに濁った不信と、未知なる侵略者へのどろりとした憎悪が波紋のように広がっていく。
「馬鹿なッ! ゼクス、貴様は最初からこの瞬間を!!」
葵は、手に持っていた精密工具を、レンガの地面に叩きつけた。
ガキィィンッ、と耳を劈く激しい音がガレージに響き渡り、火花が散る。
普段なら知的な赤い瞳は、激しく見開かれ、いつも冷静沈着な表情が、内側からわき上がる煮え繰り返るような怒りによって、見る影もなく激しくゆがむ。
「あたしたちの秘密が……。誰にも言わずに、ずっと隠しておきたかった、あたしたちの正体が……ッ!!」
楓の声は、冬の枯れ葉のように、カサカサと力なく震える。
大きく見開かれた青い瞳から、抑えきれない涙が、熱い塊となってポロリと一筋こぼれ落ちた。
それが、薄暗いガレージの冷たい床を濡らし、彼女の中で、何かが音を立てて崩れる。
「ねぇ、葵! あたしたち……これからどうなっちゃうの? もう、この世界に、笑っていられる場所なんて……どこにはないのかなぁ?」
楓は、堰を切ったように泣きじゃくり、その細い肩を、拭い去れぬ恐怖と絶望に、がたがた震わせる。
信じていた世界から、異物として弾き出される。
唯一の希望であったゲートさえ、自分たちを縛り付ける重い鎖へと変わり、双子とチームは、全世界という名の奈落の底へと、容赦なく突き落とされていく。
逃れられぬ運命の歯車が、かつてない悲劇を飲み込み、轟音を立てて回り始めた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
突如として全世界へ流された、偽りの映像。
楓と葵の正体は暴かれ、二人は英雄から一転して「侵略者」として追われる身となってしまいました。
信じていた世界からの拒絶と、逃げ場のない絶望。
奈落の底へ突き落とされたシュヴァルツ・アインツは、この過酷な運命にどう抗うのでしょうか。
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