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第三十四話 パーティーナイト

 グラハム伯爵の屋敷で開かれる大晩餐会、それは運命を分かつ審判の日である。


 残された時間は、砂時計の最後の一粒が落ちるのを待つかのように、あまりにも短く、残酷なほどの速さで過ぎ去ろうとしている。


 チーム・シュヴァルツ・アインツの面々は、かつて経験したことのない未知の隠密潜入作戦に向けて、一秒を惜しむように急ピッチの準備を進めていく。


 メカニックとしての並々ならぬプライドを持つガオは、愛機の装甲技術を応用した黒曜石の潜入用スーツを仕立て上げ、満足げな笑みを浮かべた。


「へッ、この特製スーツなら、エルフの鋭い耳さえも欺いて、音もなく影のように潜入し脱出できるはずだぜ! さあ、四の五の言わずに試着してみな、カエデ!」


「うわぁーッ、ガオさん、すごーい! 指先まで吸い付くような感触で、夜の闇そのものを身に纏っているみたいだよ!」


 楓が子供のように瞳を輝かせ、スーツの感触を確かめる一方で、ピピはモニターに向かい合い、伯爵邸の魔導警備システムの綻びを緻密に探り始めた。


 葵は屋敷の見取り図と伯爵の行動パターンを脳内に完璧にたたき込み、シエルは双子が不審に思われないよう、最高級の素材を用いたパーティー衣装を用意して、貴族の立ち居振る舞いを徹底的に指南する。


 楓には、夜空から零れ落ちた星屑を散りばめたような深紅のロングドレス。


 葵には、冷たい月の光をそのまま布地へ閉じ込めたような、純白のタキシードがそれぞれ与えられた。


 衣装を身に纏い、エルシェラの機士に志願したシエルの厳しい指導を、呼吸するように自然にこなしていく双子の姿に、シエルは驚きのあまり呆然とし、一旦指導を止めた。


「君たちは、本当に異世界の、それもただの一般人なのか? 社交儀礼をこれほどまでに完璧に、自然に飲み込んでしまうなんて」


「ふふーん、レーサーっていうのはね、コンマ一秒の状況判断と、周囲のあらゆる変化への対応力が命なんだよ! ねっ、アオイ!」


「シエル様、僕たちのいた世界では、勝利のために必要な人脈を築く社交術は、マシンを操るのと同じくらいに必須なことでしたから」


 楓と葵は、鏡の前で一分の隙もないクールな微笑を決め、口元に確かな自信を滲ませた。


◆ ◆ ◆


 運命のパーティー当日。


 シエルの用意した豪華な馬車が屋敷の正門をくぐると、そこには無数のシャンデリアが放つ、まばゆい光が溢れていた。


 着飾った貴族たちの虚栄と権謀術数が渦巻く、絢爛豪華な異空間が広がっている。


 楓と葵は、シエルにエスコートされる形で人混みの中へ溶け込み、周囲の視線を優雅な会釈で受け流しながら、警備の目が一瞬だけ途切れる隙を突いて、標的であるグラハム伯爵のオフィスへ歩を進めた。


 葵が、周囲の華やかな喧騒に紛れさせるように低い声で囁く。


「屋敷全体の警備システムは、ピピさんが一時的な空白を作ってくれていますが、油断は禁物です。この先の私室には、機械では検知できない、古代の呪術を用いた未知の魔法トラップが潜んでいる可能性があります」


 楓は、迷いのない瞳で短く「了解!」と応じ、二人は影に紛れて伯爵のオフィスへ静かに侵入する。


 重厚な扉の奥で待ち構えていたのは、ただならぬ禍々しい威圧感を放つ、厳重にロックされた巨大な金庫だった。


「大きな金庫だねぇ……これは、遠隔でサポートしてくれるピピたちの腕の見せ所だね! さあ、頼んだよ、葵くん!」


 楓がいたずらっぽく「葵くん」と呼んだその時、冷静だった葵は不意に虚を突かれたように耳の付け根まで赤く染め——しかし、すぐに思考を切り替えてピピとの通信を繋ぎ、解析を開始する。


 葵の理知的な瞳が、モニターと化した金庫の魔導回路を鋭く射抜き、ピピが葵の指先を遠隔で操り、多重魔法障壁の解除を繰り返す。


 伯爵が命を懸けて守る金庫の封印は、想像を絶する強固さで、二人の前に立ち塞がった。


「まずい、術式の構成が数秒おきに書き換えられているわ! ロックが解除できないどころか、強制介入を察知した警備員たちの足音が、オフィスに向かってきている!」


 耳元で響くピピの焦燥に満ちた叫びと、廊下の向こうから近づいてくる複数の重く規則的な足音。


 オフィス内の空気は一気に凍りつき、退路を完全に断たれた二人は、絶体絶命の窮地へと追い詰められていく。


 刻一刻と迫る破滅の足音を前にして、葵の明晰な頭脳は、今までにない激しさで火花を散らすように回転を始める。


 それは、この世界で学んだ魔術の法則と、現代地球の科学的な技術概念を融合させた、奇跡の突破口だった。


 双子は、今やパイロットでもレーサーでもなく、運命を翻弄する最高のスパイとして、加速する渦中へさらに深く身を投じていく。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


豪華絢爛な晩餐会へ潜入した葵と楓。

グラハム伯爵の金庫には想像を絶する警備が敷かれていました。

刻一刻と迫る警備兵の足音を前に、二人は絶体絶命の窮地をどう切り抜けるのでしょうか。


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次回もお楽しみに!


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