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第二十三話 空中戦の果て

 ラファール・ウィングが展開した、絶対防御、絶空の乱盾(ぜっくうのらんじゅん)、エアロ・イージスに攻撃を阻まれたルピナス・ツヴァイ。


 楓は、素早く体勢を立て直すが、相手もまた空の王者としての意地を見せ、負けじと苛烈な反撃に出る。


 アリーナ上空は、二機の魔導巨兵が織りなす、まばゆい光と狂おしい風の渦に包まれていた。


「葵、どうするのっ!? あんな盾、まともにぶつかったらこっちのブレードが砕けちゃう! (かく)コアを狙えないわよ!」


 コックピット内の空気は、葵の思考の純度を反映するかのように、氷点下に達しそうなほど冷たく澄み渡っていく。


 その時だ! ルピナス・ツヴァイの色彩が、静かに、劇的に揺らぎ始めた。


 中央のエメラルドグリーンの小型特級魔導炉を核に、燃え盛っていた紅蓮の光が凪ぐように引き、代わりに葵の冷静な精神に呼応したプラナが、翼を満たしていく。


 瞬く間に、翼は氷の(やいば)のような蒼銀へ姿を変えた。


「落ち着いてください、姉さん。相手の防御装甲は、核コアを完全に覆うことで機動性を削っています。その歪みが、僕たちの勝機です」


 葵の理知を宿した蒼銀の翼が、逆巻く嵐を切り裂き、機体を最小限の動きで安定させる。


「ピピさん、相手のエネルギー消費の推移、リアルタイムで確認できますか?」


「ええ、アオイ。魔力消費が異常に激しいわ! ラファール・ウィングの魔導炉では、長くは持たないはずよ!」


 もはや、一刻を争う時間との勝負だった。


「よし、姉さん! 今は攻め時ではありません。防御に専念してください! 相手のエネルギーが枯渇するその時を待ちます!」


 楓は、葵の言葉を信じ抜き、蒼銀の光を纏ったルピナス・ツヴァイの両腕を交差させ、堅牢な防御姿勢へと戻した。


 ガオが、オーバー・チューニングを施した重厚な装甲は、鉄壁の盾となって、ラファール・ウィングが上空から浴びせかける無数の風の刃を、激しい火花を散らしながら弾き返していく。


 一方、ラファール・ウィングのパイロット、ファルラは焦燥に駆られていた。


「くっ、なんて硬いのッ!? この攻撃を耐え抜くというの!?」


 大気を切り裂いていた風の刃の勢いが、目に見えて弱まっていくのを、葵は見逃さなかった。


「姉さん、相手の魔力がもう限界点に達します! 次の一撃、その唯一の好機ですべてを終わらせます!」


「了解! 葵、あたしの背中はあんたに預けたよ! 指示を!」


 楓が吠えると同時に、翼は再び、爆ぜるような紅蓮へと色を戻した。


 エメラルドグリーンの核から噴き出す莫大な推力が、ルピナス・ツヴァイを弾丸へと変える。


「今です! 最大加速、一気に零距離まで飛び込み、懐を抉ってください!!」


 ファルラは、苦し紛れに防御装甲を解除し、死にもの狂いの反撃に出ようとするが、すでに枯渇した魔導炉は悲鳴を上げ、その動きは鉛のように鈍い。


 ルピナス・ツヴァイの右腕、高振動ブレードが紅のプラナの光を纏い、空間を爆砕するほどの轟音と共に激しく唸りを上げる。


「くらえぇぇぇっ! 紅蓮一閃(ぐれんいっせん)、ルピナス・ストライクゥーーッ!!」


 楓の魂の叫びと共に放たれた一撃は、防御の消えた無防備な背中の核コアへと、ズブリと深く、慈悲もなく突き刺さる。


 激しい破砕音と共に、純白の核コアがまばゆい光を放って砕け散り、ラファール・ウィングは制御を失った糸の切れた人形のように、ゆっくりと落下していった。


「勝負ありだぁあ! 勝者、チーム・シュヴァルツ・アインツ!!」


 静まり返ったアリーナに、まばたきする間の沈黙のあと、地鳴りのような歓声が爆発する。


 楓は、荒い呼吸を繰り返しながら、操縦桿(そうじゅうかん)を握る手の震えをそっと止めた。


 コックピットを満たしていた赤いプラナの光が、穏やかな粒子となって消えていく。


「やった、やったよ葵! あたしたち、空でも勝てたんだね!」


「ええ。お疲れ様です、姉さん。最高のドッグファイトでした」


 通信越しに聞こえる葵の声も、どこか誇らしげに震えていた。


 白銀の翼を広げたルピナス・ツヴァイは、夕陽のような照明を浴びながら、ゆっくりと、勝利者の歩みで大地へと降り立った。


 激戦を終え、チームの面々は満身創痍のルピナス・ツヴァイを回収し、余韻に浸る間もなくガレージへと戻った。


◆ ◆ ◆


 ガオがルピナス・ツヴァイの損傷箇所を愛おしそうに確認しながら、唸り声を上げる。


「うーん、空中戦は地上戦とはまた違うダメージの入り方をするなぁ。こいつは骨の折れる修理になりそうだねぇ」


 ピピが情報端末を操作し、今回のバトルの詳細なログを葵のモニターへ転送した。


「葵、今回の戦闘データよ。すべてがあなたの計算通りだったわ」


 葵は、ピピの賞賛に静かに頷き、その表情をわずかに緩める。


「ええ。シエル様から提供された技術と、チーム全員のおかげです。飛行能力は予想以上の戦果をもたらしました」


 楓が、戦いの高揚を隠しきれない様子で、葵の肩を叩いて尋ねる。


「ねえねえ葵、今のあたしの操縦、どうだった? やっぱりあたしって天才じゃない?」


 葵は呆れたような、しかしどこか誇らしげな顔をして、姉の澄んだ蒼い瞳を見つめ返す。


「姉さん、落ち着いてください。確かに直感は冴えていましたが、ピピさんの精密なデータフォローがなければ、危うく返り討ちでした」


 ピピが葵の言葉に少しだけ頬を染め、視線を逸らしながら付け加える。


「そんなことないわ。葵のあの極限状態での冷静な判断がなければ、今頃私たちは」


 二人の間に、戦場での信頼とはまた異なる、甘酸っぱくも繊細な空気がふわりと流れる。


 ガオがその様子を横目で捉え、豪快に笑い飛ばした。


「あっはっは! まったくだ、若いってのはそれだけで最強のエネルギー源だねぇ!」


 エルシェラもシエルもまた、この不器用で熱いチームの様子を眺め、優雅に微笑んでいた。


 しかし、勝利の余韻が消えぬうちに、葵はすでに次のバトルの戦略を練り始めていた。


 双子とチームは、次なる試練の足音を聞きながら、また一歩、不確かな運命の先へ歩みを進める。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


空中戦の果てに掴み取った、見事な逆転勝利でしたね。

ラファール・ウィングの絶対防御を前に冷徹な判断で好機を待った葵と、その指示を完璧な直感で体現した楓。

二人のコンビネーションが、まさに極致に達した瞬間でした。


勝利の余韻の中で流れた、葵とピピの少し甘酸っぱい空気感……。

戦場という過酷な場所だからこそ、チームの絆が一層温かく感じられる場面だったのではないでしょうか。


続きが気になる方は、ぜひ「ブックマーク」や「評価」での応援をお願いします。

皆さんの応援が何よりの励みです!


次回もお楽しみに!


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