第二十四話 深まる闇
ラファール・ウィング戦の勝利を収めた後も、チーム・シュヴァルツ・アインツに安息の時はなかった。
ガレージは、次なる戦いを見据え、静かなる熱気を孕んだ戦場の様相を呈している。
ガオは、戦利品として得た最新技術データを前にし、ルピナス・ツヴァイの飛行ユニットを抜本的に強化する作業に没頭していた。
巨大なハンマーが火花を散らし、魔導溶接の青白い光が、より洗練されていくルピナス・ツヴァイの白銀の装甲を不気味に照らし出す。
一方、葵とピピは、情報の海を泳ぎ、帝国の動向を読み解くための分析に、文字通り心血を注いでいた。
エルフ国独自の、情報網を駆使していたシエルが、深刻な表情を浮かべて一同に報告を始める。
「帝国は、古の兵器の残骸から抽出される高純度エーテル結晶の独占を目論んでいるようです。彼らは結晶の確保と並行して、失われたはずの兵器の制御プロトコルを強引に掌握しようとしている形跡がある」
ガレージの大型テーブルに投影されたホログラム地図には、帝国軍の不自然な行軍を示す無数の赤い矢印が、世界を侵食する毒のように蠢いている。
「目的は世界征服とか、そういうことなのかなぁー? ねえ、葵」
楓が、隣に座る葵へと視線を向け、隠しきれない不安を滲ませながら問いかけると、葵の表情は、さらに深い思考の海へと沈み込み、見る者の心まで凍てつかせるような、峻烈なものへと変わった。
葵の赤い瞳が冷たく、しかし激しい光を宿してモニターに映り込む。
「いえ、事態はもっと最悪な方向へ向かっている可能性があります。世界の理そのものを書き換え、万物を無にかえすほどのエネルギーを秘めた最終兵器。帝国はこの戦乱を利用して、その禁忌の力を復活させようとしているのかもしれません」
葵の口から紡がれる言葉は、あまりにも重く、ガレージの空気を一気に絶対零度まで冷やす。
自分たちが想像していたよりも、遥かに巨大な陰謀の渦中にいることを、一同は改めて突きつけられた。
張り詰めた空気の中、ピピが意を決して、キーボードを叩き続ける葵の手を、そっと制するように声を掛ける。
「葵、少し休まない? もう何日もまともに横になっていないでしょう?」
モニターの光に照らされ、目の下に深い隈を作り、精神を削り続ける葵の横顔を見るたび、ピピは胸を締め付けられるような切なさを募らせていた。
しかし、葵はピピのほうを見向きもせず、感情を削ぎ落としたような、ぶっきらぼうな声で応じる。
「いえ、大丈夫です。立ち止まっている時間なんて、僕らにはない」
ピピは、今にも折れてしまいそうな葵の寂しげな背中を見つめ、それ以上の言葉を紡ぐことができなかった。
そんな停滞した空気を切り裂くように、楓が葵の冷え切った手をギュッと力強く握りしめた。
「葵、あんた一人が背負う必要なんてないんだよ。あたしたちをもっと頼ってよ! それにピピさんへのあの態度は何? ピピさんは葵のことを心配してくれているんだからね!」
楓の青い瞳が鋭く光り、真っ直ぐな叱責がガレージの静寂に響き渡る。
葵は一瞬、打たれたように目を見開いたが、握られた手の温もりと、隣で顔を赤らめて俯くピピの姿を交互に見やり、やがてその強張っていた頬をゆっくりと緩めた。
「ありがとう、姉さん。心配をしてくれてありがとう、ピピさん。少しだけ、休憩にしましょうか」
◆ ◆ ◆
その頃、帝国の首都アイゼンガルド。
巨大な天蓋に覆われた静寂の会議室において、ヴァイス公爵は、副官ゼクスからの報告を受けている。
「あの双子は、我々の予測を遥かに上回る速度で進化し、技術をその身に取り込んでいます」
報告を聞いたヴァイス公爵は、口の端を歪めて冷酷な笑みを浮かべた。
「ふふ……面白い。奴らが強くなり、プラナが純化されればされるほど、我が悲願たる最終兵器の復活は現実味を帯びる。次なる戦い、奴らにさらなる絶望的な強敵を送り込め。我は奴らの限界……その先にある、魂の爆ぜる瞬間が見てみたいのだよ」
ヴァイス公爵の瞳には、世界を灰に帰すことすら厭わない、底知ぬ狂気の光が宿る。
双子とチームは、背後に迫る死神の鎌の気配を感じながらも、不屈の決意を胸に次なる戦場へとその身を投じていく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
自分たちが予想していたよりも遥かに巨大で、恐ろしい陰謀が渦巻いていることを知ったシュヴァルツ・アインツの面々。
そんな張り詰めた状況の中で、一人で重荷を背負い込もうとする葵を楓が叱責し、チームとしての結束を改めて確認する行動は、さすが楓お姉ちゃんです。
一方で、帝国のヴァイス公爵が描く冷酷な計画。
強くなればなるほど、過酷な試練が待っているという皮肉な運命を前に、楓と葵はどう立ち向かっていくのか。
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