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第二十一話 技術の融合

 シエル・ヴァンクールとの協力関係は、チーム・シュヴァルツ・アインツに劇的な革命をもたらした。


 ガレージは連日連夜、ガオが振るう大型レンチの重厚な駆動音や、装甲を焼き切る火花の音が鳴り響く。


 葵、ピピ、シエルの三者による激しい技術論争は、常に限界を超えた熱を帯びている。


 鼻を突く焦げた油の匂いと、肺を焼くような金属の熱、そしてエルフの魔導回路が放つ神秘的な香りが混ざり、ガレージ全体が異様な高揚感に包まれていた。


「この魔導回路は非効率的すぎます! ルピナス・ツヴァイの核であるプラナ魔導炉の出力を計算に入れれば、ここまでの複雑さは不要です! 僕たちの設計思想に基づけば、もっとシンプルに構成できるはずです」


 葵が青白く発光するホログラムの設計図を指差しながら、シエルに食って掛かる。


 葵の赤い瞳は、自らの世界の合理的設計思想を曲げないという、氷のように冷徹で、燃え盛るような固い決意に染まっていた。


 シエルも負けじと、エルフ国の魔導の誇りを掲げて反論する。


「君の言う設計の鋭さには驚くが、それでは魔力の流れが不安定になる。魔力は繊細だ。君たちの機体のプラナと言う魔力は確かに安定しているが、魔導を扱う上での感性が、僕らエルフと君たちの種族とでは、根本から違うようだな」


 そんな天才二人の一歩も引かない衝突の間を、ピピが苦笑しながら、毅然とした態度で取り持った。


 ピピの冷静な仲裁により、反発し合っていた二人の頭脳が真の意味で噛み合い始め、誰も見たことのない新たなルピナス・ツヴァイの設計図が、魔法陣のような複雑な光の線を描いて空中へ広がっていく。


 しかし、作業が佳境に入るにつれ、シエルの胸中に宿った疑念は、もはやぬぐいようのない確信へと膨らんでいった。


 葵の提示する未知の物理法則や、ルピナス・ツヴァイの内部に秘められた超精密なメカニズムは、この世界の文明とは明らかに異なっている。


 シエルは意を決して、葵の作業の手を力強く掴んで止めた。


「アオイ。君たちの技術は、もはやこの世界の魔導の枠組みを超えている。君たちは、一体何者なんだ」


 葵と楓が、沈黙の中で互いの顔を見合わせる。


 二人の瞳が交差し、もはや偽りの説明で誤魔化せる刻ではないことを悟った。


「シエル、もう隠したままじゃ、本当の意味で最強の機体は造れないよね。あたしたちは、実はこの世界の人間じゃないんだ」


 楓が真っ直ぐにシエルを見つめ、意を決してその重い唇を開いた。


 自分たちは、エルシェラ様の導きにより、別の世界から愛機と一緒に、このアストラル・クロノスへと召喚されてきたという衝撃の事実を。


「あたしたち人間は、シエルやこの世界の住人のような魔法が使えないのよ。魔力を持ってないんだよ。だから、チームのみんなで開発したんだ。あたしたちの生命エネルギーを燃やして、魔力の代わりの力を生み出すプラナ魔導炉っていうやつをね」


 楓は、機体の中心で鼓動を刻むプラナ魔導炉(まどうろ)を、愛おしそうに見つめる。


 シエルは絶句し、ルピナス・ツヴァイの威容と、目の前のあどけない双子の顔を交互に見て考えた。


(生命エネルギーを、燃やす? あの大いなる光は、カエデとアオイの命そのものだと言うのか?)


 おとぎ話の中だけの存在かと思っていた異世界の来訪者が、自らの命を削って戦っていると言う過酷な事実に、シエルは深淵(しんえん)を覗き込んだ衝撃を覚えた。


 ……だがシエルは気付いていない。


 生命エネルギーとは、生きている証であり、感情が力へ変換されているということに。


 彼は、楓と葵が命を削って戦っているのだと、完全に勘違いをしているのだ。


 しかし、お互いが勘違いをしたまま、秘密を完全に共有したと思い込み、彼らの絆は疑念を捨て去った真のチームへと昇華された。


◆ ◆ ◆


 今回の改修における最大の目玉は、シエルから提供された風属性の小型特級魔導炉を応用した、本格的な飛行ユニットの搭載だ。


 ガオの質実剛健な技術と、エルフ国の神秘的な魔導技術、装着された異世界の合理的な工学。


 主人の覚悟に応えるように、ルピナス・ツヴァイはその装甲の端々から青い燐光を漏らし、新たな姿へと変貌を遂げていく。


「まさか、飛行ユニットを外付けの合体オプションにするプランは、最高に刺激的だよな」


 シエルが少年のような笑顔で叫び、自らも工具を手に取り作業に没頭した。


 数週間後、ついに新生ルピナス・ツヴァイが完成の時を迎える。


◆ ◆ ◆


 ガレージ横に広がる広大な訓練場で、飛行ユニット合体の最終模擬テストが執り行われている。


「葵、コンディションは最高だよ! プラナの出力、オールグリーン! いつでも行ける」


 楓がコクピットの中で、高揚した、しかし鋼のように安定した声を上げた。


「データ通りに頼むよ、姉さん! ガオさん、射出シーケンス、スタート」


 葵の合図と共に、ガオが操る巨大な輸送トレーラーが、轟音を立てて加速を開始する。


 荷台のハッチが勢いよく開き、白銀に輝く翼状の飛行ユニットが空へ射出された。


 楓は、ルピナス・ツヴァイをニーラー形態に変形させ、地面を削り、火花を散らし、爆速で訓練場を疾走する。


「今だ! マギアス形態に変形、合体シークエンスへ移行」


 ルピナス・ツヴァイが重力を振り切るように跳躍し、空中で複雑な変形機構を駆動させながら姿を変える。


 まばたきする間に起きた劇的な変化と共に、楓の両手が握っていたハンドルは、二本の操縦桿(そうじゅうかん)に姿を変えていた。


 楓は、一切の迷いなく操縦桿を力強く握りしめ、機体の姿勢を空中で固定する。


 そこへ後方から猛追してきた飛行ユニットが、吸い寄せられるように背部へ連結された。


 ガシャリ、と骨身に響くような重厚な合体音が響き渡る。


 ユニットの中央に据え付けられた、シエル特製の風の小型特級魔導炉が、眠れる獅子が目を覚まし、雄叫びをあげ、透き通るようなエメラルドグリーンの輝きを放ち始めた。


 その神秘的な光は、楓の爆発的な歓喜をプラナとして吸い込み、一気に翼の隅々まで駆け巡る。


 白銀だった装甲は、内側から、焼きつくすような熱量に浮かされ、瞬く間に燃え盛るような紅蓮へその色を塗り替えた。


「キィタアァアーーッ!! はまった、完璧だよ葵!! 見て、ルピナス・ツヴァイが、あたしたちの新しい翼が……本当に、あたしは今、本当に空を掴んでるんだあぁぁーッ!!」


 楓が、コクピットの中で、溢れ出す喜びを抑えきれずに歓喜をあげる。


「すごいわ! 本当に合体した。……それに、あの色……なんて綺麗な光なのかしら」


 ピピが歓声を上げる中、ルピナス・ツヴァイは、エメラルドグリーンの核と紅蓮の翼をひるがえし、風を切り裂いて自由の大空へ舞い上がった。


 地上で見守るシエルが、満足そうに、そして誇らしげに空を見上げて呟く。


「桜庭ツインズ。君たちの命を懸けた知恵と、我らエルフの魔導炉。これなら帝国の野望を打ち砕けるかもしれないな!」


 新たな翼を手に入れた楓と葵は、地平線の彼方に渦巻く帝国の暗雲へ向けて、不退転の決意を新たにした。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ついに完成した飛行ユニットを纏い、紅蓮の翼で大空を駆けるルピナス・ツヴァイ。

シエルとの衝突を乗り越え、自分たちが「異世界からの召喚者である」という真実を明かしたことで、彼らの絆は本当の意味で強固なものになりました。


「命を懸けている」というシエルの勘違いはありましたが・・・・。

二人の熱い想いが機体に宿っているということなのでしょう。


新たな翼を手に入れ、帝国の暗雲へと立ち向かうシュヴァルツ・アインツ。

次回はいよいよ、この新生機体で実戦に挑みます!


続きが気になる方は、ぜひ「ブックマーク」や「評価」での応援をお願いします。皆さんの応援が何よりの励みです!


次回もお楽しみに!


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