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第十九話 深まる謎

輸送車両の窓を赤く染めていた茜色(あかねいろ)残照(ざんしょう)が消え、夜の(とばり)が降りる頃、シュヴァルツ・アインツの一行は、ようやく慣れ親しんだガレージへと辿り着いた。


 停車した輸送車両の重厚な後部ドアが、重々しい金属音を立てて開くと、車内を包んでいた束の間の安らぎは外の冷え切った空気と混ざり、一気に現実へと塗り替えられていく。


 今回のバトルは、ノーゲームで終わった。


 だが、バトル委員会からの連絡があり、死地を共にしたチーム・ストーンウォール側が一方的に勝利を譲るという、リーグの歴史でも類を見ない結末で幕を閉じていた。


 その代償としてルピナス・ツヴァイが負った傷は深く、搬送台(はんそうだい)から慎重に降ろされるその機体は、装甲の至る所(いたるところ)が焼け剥がれ、内部の骨組みがむき出しになったボロボロの姿を、ガレージの明かりの下に晒していた。


 痛々しい姿と引き換えに得た報酬は、これまでの勝利とは比べものにならないほど重く、価値を持つものだった。


 リサから託されたゴーレム・ガードの鉄壁の防御データ。


 地脈の暴走を食い止めた代償として、バトル委員会から受け取った、純度の高い輝きを放つエーテル結晶が、コンテナの中で淡く、不気味なほどに輝きを放つ。


 ルピナス・ツヴァイの無惨(むざん)な姿を目前(もくぜん)にした楓は、輸送車両で見せた穏やかな表情を消し、申し訳なさそうな様子で、ガオに向かって頭を下げる。


「ガオさん、無茶させちゃってごめん。こいつの修理、お願いね!」


「おう、任せておきな! カエデ、お前の無茶ぶりに付き合えるよう、今度は世界一タフな装甲を(おご)ってやるよ!」


 一方、ガレージの隅にあるモニターデスクでは、葵とピピがすでに、休む間もなく情報の海に潜っていた。


 古代兵器。


 本来、世界のエネルギーバランスを保つためのシステムの一部であり、帝国は、それを自分たちの意志で自在に操るための道具として完成させようとしているのではないか? と葵は仮説を立てる。


 葵は、生身でのハッキングによる疲れで、かすかに震える指先を膝の上で握りしめ、青白い顔で分析結果をエルシェラへ報告する。


「帝国は連絡をすると言いましたが、それは嘘で……僕たちのバトルを利用して、古代兵器をうまく操るためのデータを探っている可能性があります。僕たちは、戦うたびに奴らの計画を手助けしてしまっているのかもしれませんね」


 葵の言葉は重く、チームの面々に帝国の本当の目的を探るための、さらなる調査の必要性を感じさせていた。


◆ ◆ ◆


 その夜、ガレージには再び、深く静かな静寂が訪れる。


 葵は一人、メインモニターの冷たい光に照らされながら、終わりのない情報の海に溺れていた。


 無理なハッキングをしたせいか、脳の奥を針で刺すような鈍い痛みが続き、気を引き締めなければキーボードを叩く指が止まりそうになる。


 そこへ、ピピが温かい飲み物のカップを二つ、静かにトレイに乗せて歩み寄り、葵の隣に寄り添うように腰を下ろした。


「まだやってるの? アオイ」


「ピピさん。今は一刻も早く、帝国の考えを突き止めなきゃいけないんです。姉さんや、みんなのために」


 ピピが、透き通った瞳に切なさを浮かべ、祈るような優しさで声をかける。


「アオイは、本当に頑張りすぎよ。たまには、その張り詰めた心を休ませないと……」


 ピピは勇気を振り絞り、キーボードの上でかすかに震えていた葵の手を、そっと自分の両手で包み込むように握りしめた。


 ピピの手から伝わる柔らかな温もりは、緊張のしすぎで氷のように冷たくなっていた葵の心を、ゆっくりと、確実に解きほぐしていく。


 葵もまた、吸い寄せられるようにピピの手を握り返し、その体温に触れることで、ようやく自分が一人の人間であることを思い出す。


「ピピさん。ありがとう。もう少しだけ、こうしていてもいいですか?」


◆ ◆ ◆


 数時間が過ぎ、夜も更けた頃、ガレージの反対側では、楓がエルシェラと共に、モニターに映し出された次のバトルの相手リストをみつめる。


「次はどんな相手が来るのかな? チームのため、あたしたちのために、全力で頑張らないとね!」


 楓が無邪気に笑うと、エルシェラは少しだけ寂しげに、しかし温かく微笑んだ。


「カエデは、本当にどこまでも前向きですね。ですが、次は、機械の性能や戦術だけではない……私たちの『心』そのものを狙い撃つような、底知れぬ悪意がやってくるかもしれません」


 シュヴァルツ・アインツの面々は、束の間の安らぎを終え、次の戦いの不穏(ふおん)な足音を肌で感じ取っていた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


激しい戦いが終わり、ガレージに流れる静かな時間が、かえって次の不穏な予感を強めているように感じられたのではないでしょうか。

葵とピピの、束の間の安らぎ。そして、これからやってくるかもしれない「心」を狙い撃つような悪意……。


シュヴァルツ・アインツのメンバーは、この先に待つ大きな壁を乗り越えられるのか。皆さんも、ぜひ二人の行く末を見守ってください!


続きが気になる!という方は、ぜひ「ブックマーク」や「評価」での応援をよろしくお願いします。

物語を読み進める皆さんの応援が、作者の励みになります!


次回もお楽しみに!

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