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第十八話 データと直感の融合

 混乱の極致(きょくち)にあるバトルアリーナの空気は、古代兵器が放つ赤黒い魔力の粒子と、爆砕された石畳の粉塵(ふんじん)が混ざり、肺を焼くような重苦しい熱気に満ちていた。


 地獄の底から這い出してきた無数の自律型古代兵器の残骸(ざんがい)が、錆びついた駆動音を不気味に(きし)ませながら、死神の群れのようにジリジリと包囲網を狭めてくる。


 その只中(ただなか)で、葵の脳細胞は既に限界を超えた超高速演算(ちょうこうそくえん)を開始しており、彼の赤い瞳の奥には、膨大なデータストリームがそのまま投影されたような鋭い光を宿す。


「ピピさん、ゼクスがハッキングの踏み台にしているこのバトルアリーナの制御システムは、もともと(いにしえ)の兵器の管理・封印にも使われていた上位プロトコルと互換性(ごかんせい)があるはずですよね?」


「ええ。でも防御が厳しくて突破できないのよ」


「僕たちのルピナス・ツヴァイには、レイラ戦の時にデータをインストールし、最適化した風の魔力が最大出力で使えるプラナ魔導炉になっているはずだッ!」


 葵の脳裏には、この絶望的な戦況を一気に塗り替え、帝国の傲慢(ごうまん)を叩き潰すための、唯一にして究極の勝利への道筋が、鮮明に浮かび上がっていた。


「エルシェラ様、僕が今からこのアリーナの制御システムを、帝国から逆に乗っ取ります! ルピナス・ツヴァイのコックピットを一時的に離れ、ピピさんの端末を直接使ってハッキングを試みる。その間、姉さんはもう一つの心臓……インストールされた風のデータに全力でプラナを注ぎ、古代兵器の群れをなぎ払ってください!」


◆ ◆ ◆


 葵は、言い終えるが早いか、素早くルピナス・ツヴァイのハッチを開けて飛び降りた。


 愛機の巨大な脚部の影をすり抜け、控え室へと向かってバトルアリーナの床を全力で走る。


 心臓の鼓動が耳元で鳴り響き、肺が熱を帯びる。


 生身(なまみ)の身体を古代兵器の魔力光線が掠める(かすめる)が、葵は一歩も足を止めない。


 控え室に飛び込んだ葵は、ピピの情報端末を奪い取るように受け取ると、キーボードを叩く指先が残像となるほどの凄まじい速度でコマンドを打ち込んでいく。


 一方、バトルアリーナに残されたルピナス・ツヴァイ.


 ガオが、遠隔操作で風のプラナ魔導炉の安全装置を解除した瞬間、その装甲は摩擦熱で白熱(はくねつ)し、周囲の空気が悲鳴を上げるような巨大な旋風(せんぷう)を巻き起こし始める。


 楓は、敵の猛攻を回避するためにニーラー形態を維持(いじ)し、たった一人でハンドルを力一杯に握りしめた。


「行くよ! やっ、やっちゃうからね! 葵、見てなさいよ!」


 楓は、瞬時に機体をマギアス形態へと変形させ、手元に現れた操縦桿(そうじゅうかん)へ即座に持ち替える。


 その時、楓の意識に言葉が直接流れ込んできた。


 右腕へと凝縮させた超高密度の風の魔力を、大気に向けて一気に解き放つ。


嵐撃一閃(らんげきいっせん)、テンペスト・ストライカァァアアーッ!!」


 轟音(ごうおん)と共に放たれた白銀の光線が、群がる古代兵器の核を次々と貫き、連鎖する爆発の火炎がアリーナの天井を赤く染め上げた。


◆ ◆ ◆


 モニターの向こう側で絶対的な優位を確信していたゼクスは、予期せぬ論理の逆侵食(ぎゃくしんしょく)に、初めてその無機質(むきしつ)な表情を焦燥(しょうそう)に歪ませた。


 彼女は、シャドウ・ファントムを急旋回させ、ハッキングの根源である葵のいる控え室を直接粉砕しようと、漆黒の殺意を剥き出しにして加速する。


 しかし、その(やいば)が葵のいる壁に届く直前、ストーンウォールのリサが操るゴーレム・ガードが、巨岩のような影となって立ちはだかり、激しい火花を撒き散らし、その進路(しんろ)を強引に塞ぎ止めた。


「この勝負、お前たちの負けだ! ゼクス、チェックメイトだぁぁあ!」


 葵が、勝利の宣言と共に最後の一打をキーボードに叩き込むと、アリーナを支配していた赤い警告灯が一斉に、清涼(せいりょう)な泉のような青へと反転した。


 古代兵器たちは、糸が切れた人形のように、その場に次々と沈黙し、機能を停止させていく。


「今だッ、姉さん! 敵の機体反応をシステム側で強制抑制(きょうせいよくせい)しました! 畳み掛けてください!」


 楓は、その声に魂で応え、ルピナス・ツヴァイを再びニーラー形態へと瞬時に変形させ、ハンドルを捌いて突き進む。


 一気にマギアス形態へと戻し、変形と同時にせり上がる操縦桿を楓は両手で掴み、残るすべての力を(こぶし)に込めた。


「一人じゃない……葵の想いも、この拳に乗っているんだぁアー!! もらったぁぁーーッ!! 紅蓮砕裂(ぐれんさいれつ)、クリムゾン・スラあぁぁッシュ!!」


 渾身(こんしん)の必殺技を、反応の鈍ったシャドウ・ファントムの機体の胸部へ、空間を爆砕するほどの勢いで叩き込んだ。


 静まり返っていたアリーナに、実況アナウンスが、再び地鳴りのような響きで鳴り渡ると、避難していた観客たちから、溜まっていた恐怖を吐き出すような大歓声が沸き起こる。


 その後、アリーナには帝国軍の回収部隊が現れ、物々しい(ものものしい)規制が敷かれ始める。


 今回のバトルは、帝国軍の介入(かいにゅう)で、公式にはノーゲームとなり、どこか後味の悪い結末を迎えることとなってしまう。


「フフッ。桜庭ツインズ。今回は帝国にとって、良いデータを取れましたよ」


 ゼクスは、不敵な言葉を吐き、アリーナを去る双子を見送った。


◆ ◆ ◆


 チーム・シュヴァルツ・アインツの一行は、後味の悪いバトルを終え、ガレージへ向かって走る。


 今回のバトル、激戦の熱を冷ますには、異世界の夕風(ゆうかぜ)はあまりに頼りなかった。


 アリーナから遠ざかる輸送車両の中、ボロボロになったルピナス・ツヴァイを乗せて、広大な鉄の箱は低く唸るような重低音(じゅうていおん)を響かせながら、路面の振動を重く伝えてくる。


 硬いシートに深く身を預けた楓と葵は、泥にまみれ、所々が焼け焦げたパイロットスーツのまま、言葉もなく窓の外を眺めていた。


 地平線を焼き尽くすような鮮烈な茜色(あかねいろ)の光が、(すす)に汚れた二人の横顔を縁取り(ふちどり)、運命の過酷さを予感させるように切なく照らし出す。


 楓は、感覚の麻痺(まひ)した指先を、隣に座る葵の手にそっと重ねる。


 震える指から伝ってくるのは、自分と同じ、生きている証としての確かな体温。


 二人は言葉を交わす気力すら残っていなかったが、その温もりだけが、今この瞬間を生き延びた唯一の現実だった。


 不気味な静寂を孕んだ(はらんだ)次なる嵐を予感しながら、二人はただ重なり合う体温を頼りに、茜色の世界の中で静かに目を閉じる。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


葵くんの頭脳と、楓ちゃんの熱い直感が合体した「データと直感の融合」!

ピンチの中で、二人がお互いの力を信じて戦う姿に、手に汗握る展開でしたね。


それと、リサちゃんとの共闘も注目ポイントでした!敵同士だったはずの二人が、帝国のひどい作戦を止めるために協力する展開には、驚いた方も多いのではないでしょうか。

最後にゼクスが言った「良いデータが取れた」という言葉……。

帝国の本当の狙いは一体何なのか。


続きが気になる!という方は、ぜひ「ブックマーク」や「評価」での応援をお願いします!皆さんの応援が、とっても励みになります!


次回もお楽しみに!

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