第十七話 絶体絶命の危機
アリーナの床は、巨大な怪物が地の底で身悶え、悶絶しているような激しい振動を始めた。
地獄の蓋が不気味な音を立てて開いたように隆起し、無残に引き裂かれた地面から、錆びついた金属の異形たちが軋む音を立てて次々と這い出してくる。
それは、かつて世界を破滅の淵へと追い込んだとされる古代文明の遺物、自律型古代兵器の残骸だった。
獲物を逃がさない捕食者のように、古代の殺戮兵器たちが二機のマギアスを冷酷に包囲していく。
「こ、コイツらは一体なんなんだよ!? 葵、こんなの聞いてないよ。あたしたちの戦いに乱入してくるなんて!」
楓は押し寄せる威圧感に喉を鳴らし、操縦桿を握る指が白くなるほど力を込めて、隣に座る弟に尋ねた。
一方、控え室のピピは、モニターに流れる異常なコードを必死に指で弾き飛ばしながら、悲鳴に近い声を上げた。
「まずいわ、カエデ! アオイ! あれは完全に再起動された自律型の殺戮兵器よ! ゼクスがアリーナの全制御システムを掌握し、ハッキングしているんだわ!」
アリーナの中央では、対戦相手であるチーム・ストーンウォールの機体、ゴーレム・ガードが最悪の袋小路に陥っていた。
自慢の防御技によって地面に自らを固定し、不動の城塞と化していたその性質が、皮肉にも逃げ場を失わせる呪いへと変わる。
迫りくる古代兵器の群れを前に、パイロットのリサは、恐怖で顔を引き攣らせた。
「葵、どうするの!? このままじゃ、相手のパイロットも観客のみんなも、全部が巻き込まれちゃうよ!」
楓の焦燥を鎮めるように、葵は努めて冷静な、しかし冷徹なまでの強さを秘めた口調で、思考の深淵から指示を飛ばす。
「姉さん、落ち着いて! 僕たちの目的は、まずこの混乱を収束させ、生存することです。ピピさん、ゼクスのハッキング元を逆探知できますか!?」
「やってみるわ! でも、相手の術式は鉄壁よ、そう簡単には崩せない!」
ピピの返答を待たず、古代兵器の残骸たちが一斉に、呪われた牙を剥いた。
欠損した装甲の隙間から禍々しい赤黒い魔力を放出し、物理的な質量攻撃と光線の雨を四方八方から仕掛けている。
ルピナス・ツヴァイは、ガオが心血を注いだ強化装甲でなんとか致命傷を避けていたが、地脈と一体化していたゴーレム・ガードは、逃げることすら許されなかった。
地面への衝撃吸収に全エネルギーを回していた彼女たちの機体は、多方向からの同時波状攻撃に対しては、驚くほどに脆く、無防備だった。
「いやだッ! 助けて、誰か動かしてよ、ゴーレム・ガードをぉっ!」
装甲が削り取られる激しい金属音と共に、リサの悲鳴が混信した通信回線を通じてアリーナ全体に響き渡る。
「あたしたちの戦いは、タイマンのガチンコバトルでしょ! こんなの、あまりに卑怯すぎるんだぞ! ゼクス、どこで見てるか知らないけど、あんた最低だよ!」
楓は怒りに震え、アリーナのどこかに潜んでいるであろう、帝国の影に向けて絶叫する。
「姉さん、ゼクスは最初からこの展開を狙っていたんです。帝国にとって、公式のルールや公平性なんて、目的を果たすための単なるノイズに過ぎません。いいですね、まずはゴーレム・ガードの固定を強制解除させます。それが最優先です!」
「了解! 引き剥がすのは、あたしの得意分野だよ!」
楓は、ルピナス・ツヴァイをニーラー形態へと瞬時に変形させ、猛攻に晒されるゴーレム・ガードの脚部へと、矢のような速度で突進した。
「地面に縫い付けられてるなら、その杭をブチ切るまでだぁ! 葵、氷のプラナ魔導炉に全エネルギーを注いで……早く!」
「了解、出力最大固定! 行ってください、姉さん!」
葵が、プラナ魔導炉の制御レバーを限界まで押し込み、膨大なエネルギーを機体各部へと分配していく。
楓が狙いに定めたニーラー形態のサイドカウル部分に、葵が生成した絶対零度のプラナが収束し、この世のものとは思えないほどのまばゆい輝きを放った。
「切り裂け! 氷結瞬斬フロスト・ブレイイク!!」
超高速で繰り出された氷の刃は、ゴーレム・ガードの背面から地面へと深々と打ち込まれていた巨大な魔導杭を、凍てついた硝子でも砕くように、鮮やかに断ち切った。
支えを失ったゴーレム・ガードは、激しい土煙を上げながらバランスを崩し、その場に膝を突く。
その巨体は、再び自由という名の力を取り戻していた。
「えっ? あ、ありがとう! 私はチーム・ストーンウォールのリサ。助かったわ!」
「リサさん、覚えたよ! あたしは楓よ。今日は敵同士だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない! 共闘だよ、あたしに背中を預けてね!」
「分かったわ、カエデ! この屈辱、帝国に必ず返してやるんだから! ゴーレム・ガード、これよりシュヴァルツ・アインツを全面的に支援するわ!」
ルピナス・ツヴァイとゴーレム・ガードという、本来なら矛と盾として戦うはずだった二機のマギアスは、皮肉にも帝国の策謀によって最強の共闘関係を結ぶに至った。
しかし、湧き出す古代兵器の数は終わりを知らず、圧倒的な物量で二機のマギアスを圧殺しようと詰め寄ってくる。
「切りがないわ! 本体であるゼクス、あるいはハッキングの元凶をどうにかしないと、感情のエネルギーが先に尽きてしまう!」
控え室で戦況を見つめるエルシェラの、かつてないほど焦燥した声が響く。
「ピピさん、ハッキングの遮断はまだですか!?」
「無理よ、アオイ! 帝国のセキュリティ階層が多重化されすぎていて、外部からの干渉を一切受け付けないわ!」
絶望的な戦況の中、葵の赤い瞳の奥に、一つの細い光、勝利への道筋が閃いた。
「姉さん。このままでは僕たちもリサさんも、バトルアリーナのみんなも、全滅するかもしれません。一か八かの賭けになりますが、僕の指示に従って、最高速で動いてくれますか?」
「ああ、分かったよ。弟のあんたがそこまで言うなら、今回だけは完璧に聞いてやる。策を言いなよ、葵!」
「僕は、この予測不能な混乱を……あえて利用します!」
葵の緻密な逆転の戦略と、楓の野生の直感、およびガオが極限まで磨き上げた機体性能。
すべてが絶望の淵で噛み合い、双子の反撃の狼煙が上がった。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
ゼクスがしかけたハッキングのせいで、平和だった試合会場が、いきなり古代の兵器があふれる「地獄」みたいになっちゃいました……。
動けなくなった対戦相手のリサちゃんを助けて、まさかの共闘! 帝国を倒すために手を組んだ双子だけど、次から次へと出てくる兵器と、閉じられたシステムのせいでピンチは続くばかりです。
そんな絶望的な状況の中、葵が見つけた「一か八かの作戦」って、一体なに!?
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次回もお楽しみに!




