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第十六話 罠

 葵の心の中に重く渦巻く焦りとは裏腹に、シュヴァルツ・アインツのガレージでは着々と次の死闘へ向けて準備が進められていた。


 ボロボロになっていたルピナス・ツヴァイは、技術主任ガオの執念とも言える強化によって、その装甲は以前よりも厚く深い銀の光を放っている。


 さらに、生きているように鋭く動く機動性まで手に入れていた。


 同時にピピの情報網もあらゆる方向に張り巡らされ、公式リーグの動きだけでなく帝国の不穏な動きを常に監視し続ける、一分の隙もない厳戒態勢が敷かれていた。


 ピピが空中にいくつもの画面を展開し、敵機の無骨な図面を示しながら解説を始めた。


「次の公式バトルは、リーグの中堅実力者が揃うチーム・ストーンウォール。名前の通り極端なまでの防御特化型で、落ちない城を自称する手強いチームよ」


 楓が不満げに口を尖らせ、隣で計算に集中する弟の肩を甘えるように小突いた。


「最近、守りが硬い相手ばっかりじゃん! あっちもこっちもガチガチに固められちゃったら、攻撃を叩き込む隙間なんてどこにもないよ。どうするのさ、葵」


「今回の対戦相手も、(かく)コアの位置はいまだに不明です。ですがこれまでのデータから考えると、相手の機体ゴーレム・ガードは、特定の条件で地面と一体化することで本当の力を出すようです。姉さんは、その変形プロセスの合間に生まれるほんの一瞬の隙を突く必要があります」


「地面と一体化? そんなの、どうやってやるわけ?」


 楓は理解が追いつかないといった様子で、燃えるような赤い髪を乱暴に掻きながら尋ねる。


「脚の装甲の中に隠された特殊な杭を直接地面へと打ち込み、魔力で自分の位置を固定するのでしょう。そうなれば動けなくなりますが、反対に物理攻撃も魔法も通さない鉄壁の防御力を得ることになります」


 葵の説明を聞いた楓の蒼い瞳が、獲物を前にした子供のようにギラリと輝いた。


「だったら逆にさぁ、そこを狙い撃つってのはどうよ! 杭を打って動けないなら、無理やり地面から引き剥がしちゃえばいいんでしょ!」


 楓は自信満々に鼻を鳴らし、大きな野菜を引き抜くような大袈裟なジェスチャーをして見せる。


 葵はそれを見て、深く重い溜息をついた。


「くれぐれも無茶な特攻だけはしないでくださいよね、姉さん。まずは情報の精度を高め相手の出方を冷静に分析します。ガオさん、機体の最終調整と新しい装甲のチェックをお願いします」


「ああ、任せておきな、アオイ! あたしが最高の状態に仕上げてやるからよ。お前らは暴れることだけ考えていな!」


◆ ◆ ◆


 バトル当日、会場となるバトルアリーナにはこれまでの数倍もの熱狂に包まれた観客たちが、地鳴りのような歓声を上げて詰めかけている。


「さあ、本日の大注目リーグ戦! 快進撃を続ける双星、シュヴァルツ・アインツ! 対するは、不動の鉄壁を誇るチーム・ストーンウォールだぁー!」


 実況の絶叫が響き渡る中、ついにバトル開始の合図が轟く。


「バトル、スタート!」


 合図と共に、ゴーレム・ガードはアリーナの中央へとゆっくり移動している。


 アリーナの中央にたどり着くと、ルピナス・ツヴァイのほうを向いた。


 ゴーレム・ガードはカメラアイを光らせ、ふくらはぎの部分から杭を出し、そのまま地面に打ち込んで固定された。


 動きは完全に止まったが、その守りは鉄壁に見える。


 あまりに拍子抜けするほど予想通りの動きに、楓はコックピットで呆気にとられ、ポカンと口を開けた。


「予想通りかよ。まったく! 葵、どうするの?」


「まずは様子見です。姉さん、攻撃を仕掛けてみてください」


 楓はマギアス形態で一気に突撃し、高振動ブレードを叩き込む。


 何回も攻撃を仕掛けるが、まったくダメージを与えられずあっさりと弾かれた。


「硬ってえなー!? 全然攻撃が効かないじゃんかよ!」


 お手上げのポーズをして、楓が叫んだ。


「予想通りです。ピピさん、情報収集中に何か気づいたことはありますか?」


「ええ、アオイ。ゴーレム・ガードは地面と一体化することで、外からの衝撃を地面へと逃がしているわ。つまり、地面に固定されている限りこちらの攻撃は効かないわよ」


「なるほど……姉さん、攻撃をやめてください!」


 葵が対策を考えていた時、ピピの情報端末に緊急のアラートが鳴り響いた。


「アオイ、大変! 帝国のゼクスが、このアリーナのシステムにハッキングしているわ!」


「なんだって!? ゼクス、一体何を……っ!」


 突然、アリーナの床が激しい振動を始める。


 ゴーレム・ガードの周りの地面があちこち盛り上がり始めると、地獄の蓋が開いたように無数の(いにしえ)の兵器の残骸(ざんがい)が姿を現した。


「これは罠だわ! ゼクスは最初から、このバトルを混乱させるつもりだったのよ!」


 モニター越しにエルシェラの厳しい表情と声が飛ぶ。


 今回のバトルは、予想もしなかった帝国の罠によって、未知の展開へ無理やり引きずり込まれていく。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


公式リーグの舞台が一変し、シュヴァルツ・アインツは予期せぬ戦場へと放り込まれました。

鉄壁の防御を誇るチーム・ストーンウォールとの対戦は、ゼクスのハッキングにより、古代兵器がうごめく「帝国の罠」へと変貌を遂げます。

ルピナス・ツヴァイを囲む無数の残骸。

葵の冷静な分析をもってしても抗い切れないこの状況で、二人はどう立ち向かうのでしょうか?


続きが気になる方は、ぜひ「ブックマーク」や「評価」での応援をいただけると嬉しいです!

次回もお楽しみに!


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