95 未知のスキル
「――『因果の強奪』!!」
俺は、銀色のスライムに向かってスキルを発動した。
いつもと同じく、スキルを盗む要領で。
当然、それはスキルではなかったが、案外すんなり俺の中へと入ってきた。
不思議なバグエネルギーが、俺の右眼を介してシステムの中へと強制的に引きずり込まれ、格納されていく。
【――『因果の強奪』が成功しました。】
【未知のエネルギーを解析。『観測者』の拡張領域に『深銀(保存状態)』としてインストールします。】
【――観測者:Lv3へ上昇。】
【――深銀の因果構造を統合。固有スキル『因果の解縫』を発現しました。】
にゅるりと銀色のスライムが虚空へ消え、俺の右眼の奥へと吸い込まれていく。
それと同時に、視界の端に不気味なシステムログが浮かび上がった。
(……『因果の解縫』……?)
なんだ、そのスキルは。
『縫合』ではなく、『解縫』……?
今までなかった、世界の綻びを断ち切る鋭利なハサミのような、未知の感覚が確かに俺の中に宿っている。
だが、スキルの詳細は見ることが出来ず、スキルの詳しい効果も、どうやって発動させるのかも皆目見当がつかない。
(思えば、今までのスキルだって土壇場で突然使い方のようなものが閃いただけだからな)
時が来ればわかる、のかもしれない。
「依人さん、感慨に耽っている時間はございませんわ!」
戸惑う俺の肩を、クロニカが強く揺すった。
彼女は短剣を握り直すと、冷ややかな視線を俺たちがやってきた灰白の谷の入口側――王国領側へと向けている。
「……ッ、これは……!」
俺も慌てて右眼の『観測者』を外へと向ける。
白黒に反転した視界の先、谷の岩陰から人の形をした因果が、複数こちらへ向けて急速に接近してきているのが視えた。
(王国の正規兵……!戦闘の音を聞きつけて集まってきやがったか!)
いまの俺たちは、国から追われる身だ。
鉢合わせれば説明の機会すら与えられず、総攻撃を受けるのは目に見えている。
「チッ、今度はそっちの敵かよ!依人、まとめてブチのめして突っ切るか!?」
ベネディクトが凄まじい圧迫感と共に拳を構えるが、クロニカは即座に首を振った。
「愚問ですわね。ここで王国の追手と無益な血を流すことはデメリットしかありませんわ。ここは先を急ぎましょう――半ば強制的にでも、ね」
「クロニカの言う通りよ!依人、動ける!?」
エリナが素早く俺の様子を伺う。
「ああ、大丈夫だ……! 行こう、谷の向こうへ!」
俺たちは倒れたアルマたち帝国の兵士をその場に残し、王国兵の追撃から逃れるようにして、灰白の谷の深部――帝国領側へと足を踏み出していった。




