94 深銀の強奪
俺たちが胸を撫で下ろした、まさにそのときだった。
「俺様、登場ってか?」
緊張感のないベネディクトが、岩をひとっ飛びして、俺たちの前に着地した。
「遅いですわよ、どこぞの脳筋聖職者さん。私の美しい髪が危うく焼け焦げるところでしたわ」
クロニカが額の汗を拭いながらも、いつもの皮肉をぶつける。
「これでも十分早いほうだろうが!?――で、もしかしてもう終わった感じか?」
「ああ。深銀の呪いを使われて危なかったんだが、エリナが倒してくれた」
そう言って、炭素と化した目の前のアルマを指差す。
「へっ、さすがはエリナちゃんだな!一丁上がりってわけだ」
みんなの視線が、その肉塊に集中した、その時だった。
ピチャリ、と湿った不気味な音が響く。
横たわるアルマの口元から、にゅるりと、銀色に怪しく光るスライム状の液体が這い出てきたのだ。
「――っ!依人さん、危険ですわ!」
クロニカが咄嗟に短剣を構えて俺の横に並ぶ。
だが、その銀色の生命体は戦う意志を見せず、ただ宿主を失って弱々しく地面を蠢いているだけだった。
(これが……深銀の呪いの本体……)
口を覆うエリナと、唖然と見つめるベネディクト。
そんな二人をよそに、俺は一歩踏み出し、右眼の全出力をその銀色のスライムへと注ぎ込む。
「『鑑定』――!」
かつて、俺はこれを鑑定したことがあった。
その時は、何も表示されなかった──。
だが、あの時の俺はこの世界に召喚されたばかりで、鑑定士Lv1の駆け出しであった。
今は、違う。
脳内に、今まで見たことのない、不思議な書体の鑑定結果が流れ込んでくる。
【名称:深銀(安定体)】
【状態:休眠中】
【詳細:対象の固有波形に強制介入し、システムに干渉する波動の結晶。適切な出力調整を行うことで、あらゆる魔力術式の変更が可能。】
(……読める。読めるぞ!)
なぜか、その不思議な書体は、ただの文字ではないような気がした。
俺が理解しやすいように、世界の理そのものが顕現しているかのような──。
俺は吸い寄せられるように右手を伸ばし、無意識のうちにスキルを叫んでいた。
「『因果の強奪』」




