93 運命の破綻
アルマが耳障りな咆哮を上げ、俺に向けてその左手をかざした。
直後、地面から巨大な岩塊が噴水のような速度で急速に隆起する。
――スキル『深銀の磐座』。
相変わらず、早い。
懐に潜り込んでいた俺には、避ける術など万に一つもありはしなかった。
「依人さん、下がって!!」
悲鳴のようなクロニカの声が響く。
だが、俺は引き下がらなかった。
――いや、引き下がらなかったのではない。
気づいた時には、まるで生き埋めにされたかのように、四方を巨大な岩壁に閉じ込められていた。
視界は完全に閉ざされ、一寸先も見えない暗黒。
「どうにもなぁ……アイツのスキルは、狙いが読みにくい」
普段であれば、スキルを発動する段階で黄金の糸の繋がりが見えるのだが、どうも深銀のスキルは黄金の糸がうねうねと波打っていて、慣れないのだ。
俺の右目は、新たに発生した、相変わらずうねうねとしたスキルの因果を捉えていた。
とどめを刺すつもりか。
岩に閉じ込められているため直視は出来ないが、アルマが発動する炎柱は確実に俺へと迫っていた。
「……慣れろ、見えろ……。コイツのスキルを見極めるんだ……」
俺は深呼吸し、意識を深く集中させる。
視界が白黒に反転した世界の中で、周囲を取り囲む『深銀の磐座』の因果に意識を集中する。
(どうも、気になるんだよな。この因果、普通じゃない)
そう、普通は黄金の糸が綺麗に伸びているのだが、アルマの使うスキルはそうじゃない。
同じ一本の糸でも、太さがまちまちで、その色合いも濃かったり薄かったり、まるで某ひものグミのようにまばらなのだ。
(クソッ!今の俺じゃ、奴のスキルを読み解くことが出来ないというのか!)
絶望しかけていた、まさにその時だった。
「――依人を、死なせたりしないっ!!」
岩に囲まれた外の世界で響いたのは、切実で力強いエリナの叫びだった。
ズドォォォォォォンッ!!!
天を揺るがす地鳴りと共に、俺を閉じ込めていた『深銀の磐座』が一瞬で木っ端微塵に粉砕された。
視界を埋め尽くしたのは、眩いばかりの紅蓮の劫火。
見れば、エリナが聖杖を両手で固く握りしめ、顔を真っ赤にして極大の範囲魔法を放っていた。
「お待たせ。あっちは一掃してきたわ!」
そして、術者であるアルマに振り向いたエリナが、手加減の一切を捨て、彼女の全魔力を込めた超威力の魔法攻撃を叩き込もうと杖を構える。
その、超威力の魔法は。
アルマが俺に向けて発動中の『深銀の劫火』よりも一歩早く。
そして、俺の静止よりも一歩早く、彼女に命中することとなる。
「おい待て、エリナ!そいつに魔法攻撃は効かない……」
その静止は、彼女の耳に入らなかった。
ブォォォォォォ!!
巨大な炎柱が、アルマを包み込む。
深銀の拒絶殻。
俺の物理無効の魔剣を以てしても攻撃が通らず、そして恐らくは魔法攻撃無効も兼ね備えている。
そんな相手に、いくら最大火力とはいえ魔法攻撃が通用するわけがない……。
そう、思っていた。
バキバキバキ……パリィン!!
「なっ……!?」
炎の渦の中で、アルマを覆っていた銀色の不気味な薄膜――『深銀の拒絶殻』が何の抵抗もなく弾け飛んだのだ。
(あっ、そうか!『不確定未来』のスキルを持つエリナの攻撃なら、通用する……!)
魔法が防がれる、という確定した未来の因果が、『不確定未来』のパッシブスキルによって無理やり捻じ曲げられ、書き換えられていく。
「焼き払えー!!」
エリナは、躊躇なく杖を突き出し続ける。
「あぁぁぁぁぁっ!?」
無敵のはずの薄い膜をぶち破って直撃した極大の炎が、アルマの肉体を丸ごと呑み込む。
絶叫と共に、アルマの肉体が焼かれていく。
全身を焼き焦がされた彼女は、力なく地面へと崩れ落ち、二度と動かなくなった。
「ハァ……ハァ……っ!依人!無事……!?」
俺の攻撃がまったく通用しない相手を、こうも容易く撃破してみせるとは……。
まったく、恐ろしい子だ。
「ああ、助かったよエリナ。凄い威力だったな……」




