92 深銀の変貌
「帝国に栄光あれェッ!!」
女隊長アルマの肉体が、銀色の液体に侵食されていく。
肉体は人間の形を変わらず保ってはいるが、肌が銀色に染まり、目は赤黒く濁り、その瞳からは理性が消えていた。
その異様な変貌を、俺の鑑定士としての右眼が、恐ろしいテキストと共に捉えていた。
【アルマ・フォン・ブラウ】
【種族】人間
【職業】魔導師
【レベル】42
【保有スキル】
『火属性魔法Lv8』『風属性魔法Lv8』『土属性魔法Lv6』『魔力障壁』『指揮Lv6』『状態異常耐性Lv6』
これが、かつての彼女だ。
そのステータスが、俺の目の前で書き換えられていく。
【アルマ・フォン・ブラウ(暴走状態)】
【種族】人間
【職業】魔導師
【レベル】エラー:計測不能
【保有スキル】
『深銀の劫火(侵食)』『深銀の風輪(侵食)』『深銀の磐座(侵食)』『深銀の拒絶殻(侵食)』
侵食後は、ステータスもエラー表示となって見ることができなかった。
スキルは見たこともないものに変化し、『指揮Lv6』や『状態異常耐性Lv6』は消滅したようである。
「暴走状態……それに、スキルもよくわからないものに書き換わってやがる!どんな魔法が飛んでくるかわからない、気をつけろ!」
俺はすぐさま、その鑑定結果をクロニカに伝える。
(……スキルはとても進化したものには見えないな。深銀の呪いは、秘めたる力を引き出すもの、と聞いていたが、これじゃあただの上書きだ)
「よくも!よくも私の仲間たちを!」
理性を失った女隊長が、無造作に魔法を放つ。
早い。
そして、凄まじい威力だ。
身をかわしたクロニカの背後で、凄まじい炎柱があがる。
ドゴォォォォン!ドゴォォォォン!ドゴォォォォン!
大質量の一撃を、あろうことか呼吸をするように連発している。
あっという間に辺り一面が赤黒い火の海になり、周囲の気温が一気に跳ね上がった。
「ちょっと、何なんですかその連射速度は!規格外すぎませんこと?!」
さすがのクロニカも額に汗を浮かべ、死線を踏み越えるように必死に飛び回っている。
どうやら、アルマの狂気的な狙いはクロニカに絞られているらしい。
(今なら、ターゲットは俺から外れている……!)
自由に動けるこの瞬間を逃す手はない。俺は彼女を援護しようと、一歩を踏み出した。
――スキル『突進』。
爆発的な加速で一気に距離を詰め、地を這うようにアルマの懐へと滑り込む。
ガラ空きの胴体へ向けて、俺は『剣術Lv7』のスキルを最大出力で叩き込んだ――。
――キィィィィィン!!!
手応えは最悪だった。
俺の放った渾身の斬撃は、無慈悲に弾かれる。
金属同士が激しくぶつかり合うような、耳を劈く硬質な音が響く。
「なっ……!?直撃したはずなのに……!?」
そこで俺は初めて、彼女の周囲に防御幕が展開されているのを知る。
銀色の薄い膜が、液体のようにドロドロとしながらアルマを覆っていたのだ。
――スキル『深銀の拒絶殻』。
(クソッ!それはチートスキルだろ!俺の魔剣には防御無視の効果があるんだぞ?!これじゃあ恐らくは魔法攻撃だって──)
「ああああああああッ!」




