91 side:ベネディクト
一方その頃、ベネディクトは──。
「なっ、なぜ私の位置が──!?」
潜んでいた暗殺者は、自慢の隠蔽スキルを完璧に見抜かれ、正面から突っ込んでくる大男――ベネディクトの姿に、恐怖で目を見開いた。
「遅ぇんだよ!」
ベネディクトが風を切る凄まじい音を立てて拳で一撃加えた。
暗殺者は咄嗟に煙幕を張る。
「……」
ベネディクトは追うのをやめ、その場で静かに目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。
(――来るな)
シュンッ!
煙幕の向こうから放たれた、音も無き一撃。
暗殺者が放った毒塗りのダガーが、ベネディクトの眉間へと正確に突き刺さる――その刹那だった。
「『金剛・神罰拒絶』」
ベネディクトは、ただ無造作に突き出した左手の、わずか二本の指で、その凶器を華麗にキャッチしてみせた。
とても人間とは思えない神業である。
(馬鹿な……!?避けることすらせず、素手でキャッチしただと……!?)
──ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!
焦れた暗殺者が次々と放つ毒ダガーの嵐。
しかし、それらはすべてベネディクトの指の間に綺麗に収まった。
カランカラン、と指先のダガーが地面に無造作に落とされる。
「いい腕だが、居場所がバレバレだな。次は俺からいくぜ──」
ベネディクトは姿の見えない砂塵の向こうにむけて、両腕を前に突き出す。
「『発勁・爆裂拳』」
凄まじい衝撃音と共に、見えない衝撃波が岩を崩しながら繰り出された。
「ガハッ?!」
そのうちの数発をモロに食らった暗殺者が、内臓を揺さぶられて吐血し、たまらず砂塵の向こうから姿を現して地面に膝をついた。
そしてベネディクトは、地面に倒れ込む暗殺者に向けて、言う。
「おいおいそんなもんか?依人が強敵だから注意しろ、なんていうから、少しは骨のあるやつを想像してたんだがよぉ……俺も舐められたもんだぜ」
ベネディクトはトドメを刺すべく、暗殺者の懐へ飛び込んだ。
暗殺者の顔が恐怖に歪む。
「すぐ楽にしてやるよ…… 『金剛・衝破』!」
それは、彼の得意とする技。
威力全振りの、内臓すべてを破壊する一撃のストレートパンチ。
その拳が、暗殺者の胸骨へと深々とめり込む。
ドォン、と肉体を内側から爆破するような衝撃波が岩場に響き渡り、暗殺者は悲鳴を上げる暇すらなく、背後の岩壁へと叩きつけられて白目を剥いた。
「強敵どころか、弱敵じゃねえかよ。依人の野郎、あとで文句の一つでも言ってやらねぇとな。ま、文句を言うのはモンクの本領だからな」
ベネディクトは拳についた汚れを払いながら、豪快に笑って依人たちがいる遠くへと視線を戻すであった。




