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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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90灰白の谷


――国境地帯『灰白の谷』。


 かつて王国と帝国の緩衝地帯だったその場所は、今や草木の枯れ果てた荒涼たる岩場と化していた。


 勇者パーティ【スターライト】が壊滅した戦場の跡地。


 張り詰めた緊張感が漂う崖の陰に、俺たちは身を潜めていた。


「……周囲に王国の兵士の気配はございませんわね。ですが、帝国の手の者と思しき斥候が、あちこちの物陰で嗅ぎ回っておりますわ。全く、品のないことですこと」


 気配もなく俺の隣へと滑り込んできたクロニカが、音もなく短剣を弄びながら冷ややかに告げる。

 その言葉遣いはどこまでも上品なお嬢様のものだが、向けられている視線はプロの隠密のそれだ。


「帝国の斥候か。見つからずに奥まで進めそうか?」


「ふふ、私を誰だと思っていらっしゃいますの?あのような雑な隠蔽、私の目を欺くことなどできはいたしませんわ。……もっとも、鑑定士の依人さんがいれば、私の案内など不要かもしれませんけれど」


 クロニカはそう言って、悪戯っぽく、けれど全幅の信頼を込めた微笑みを俺に向けた。


「いや、助かるよ。いくらステータスが見えても、隠密の技術はクロニカが一番だからな」


 俺は保険として右目で『観測者』を展開し、崖の向こうを見渡す。


 白黒の世界で、色濃い生命体の因果が浮かび上がった。


(……いるな。帝国の偵察部隊が、あちこち巡回している)


「ただし、敵は満遍なく配置されていますから、どこかを突き破らなくてはならなそうですわね……」


「そうだな……。よし、エリナは、右側、あの大きい岩陰の重装兵の集団を殲滅してくれ。ベネディクトは、左の岩場に暗殺者が一人いる、倒してくれ。強敵だから注意してくれよ。クロニカは……」


「ええ、言われずとも。そのさらに奥の、魔導部隊をやりますわ」


 その言葉に、一つ頷く。


「俺は周囲を警戒しつつ、遊撃にまわる」


「戦う気満々なのね……」


 エリナが呆れ気味に言った。


────


「じゃ、お先に失礼ッ」


 先陣を切ったのはベネディクトだ。


「まったく……では、私も行きますから、エリナ、十秒後に最大火力の魔法で焼き払ってくださいな」


 続いてクロニカも消える。


 ──そして、数十秒後。

 カウント通りにエリナが放った巨大な火球が、右側の伏兵を一斉に焼き払った。


「じゃ、俺も行くな」


 エリナの魔法に合わせて、因果の糸を繋ぎ合わせる補助役として残っていた俺もその場から走り去る。


「なっ……!?奇襲だと!?」


 完全に虚を突かれた帝国の部隊は、わずか数秒で壊滅寸前へと追い込まれた。


「生き残ったものは散れ!敵を囲い込むぞ!」


 エリナの魔法に耐えた重装兵の部隊長が、威勢よく吠える。


「悪いな、その優秀なスキルいただくぞ──『因果の強奪(テイクオーバー)』」


 俺は、すれ違いざまにその男のスキルを根こそぎ奪っていく。


(よし、これでここは大丈夫だろう。クロニカの援護に回るか)


 視線を中央の奥へと向ける。

 そこでは、前衛の重装兵が一掃されたのを見て、後方に控えていた本命の魔導部隊が一斉に武器を構えていた。


「敵はあの少女一人だ!皆の者、ひたすら打ちまくれ!」


 魔導部隊の女隊長が、エリナを指差し号令をかける。


「ふふ、そうはさせませんわよ」


 音もなく、まるで死神のように現れたクロニカが、部隊員の背後に現れ、美しい短剣を首筋へと突き立てていく――。


 まさに一撃必殺。

 吸い込まれるような鋭い刺突で次々と五人の魔導兵を仕留め、残るは号令をかけた女性の隊長のみとなった。


 彼女は、執念でクロニカの刃を紙一重でかわし、大きくバックステップした。


「チィッ、援軍か。こうなれば、これを使うしかない……!」


 俺が現場に到着したのと同時に、追い詰められた女隊長が懐から妖しく明滅する銀色の小瓶を取り出した。


「帝国に栄光あれェッ!!」


 女は躊躇なく小瓶を叩き割る。

 中から溢れ出たドロドロとした銀色の液体が、まるで意志を持つ生き物のように彼女の腕を伝い、全身へと急速に広がっていく。


「――っ!?あれは……!」


 援護のために飛び込んできた俺は、そのおぞましい光景を目の当たりにして戦慄した。


 女の肉体が、銀色の液体に侵食されながら、不気味に脈打ち始める。

 その歪な変貌を、俺の『鑑定士』としての右眼が、恐ろしいテキストと共に捉えていた――。

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