87 深銀の呪い
「それでは、本題に戻りましょうか」
クロニカはそう言って、一枚の地図を指差した。
「帝国軍は、かねてより研究を重ねてきた対勇者兵器――あちらでは『深銀の呪い』と呼ばれている技術を、ついに実用段階に移行させたようですわ。先日の辺境での一件は、その初運用だったようですの」
「――『深銀の呪い』、って?」
エリナがすかさず聞き返す。
「その、深銀の呪いっていうのは、具体的にどういう効果なの?」
「詳しい効果まではさすがに掴めませんでしたわ。軍の最上層しか知らない、極秘情報なのでしょう。ただ、断片的な情報を繋ぎ合わせた私の推測ですけれど……あれは、生物の魂に作用して、その力を増幅、あるいは減衰させるものと思われますわ。そして、先の勇者たちについては、その魂を弱められたのでしょうね」
クロニカの言葉を聞いて、俺はずっと引っ掛かっていた。
(深銀……銀色……なんだか、見覚えがあったような)
「おいおい、まじかよ。魂に作用って……それじゃ王国の奴隷の腕輪と同じようなもんってことか?あれも嵌めたら無理やり底力を引き出すんだろ?」
ベネディクトが大げさに手を広げる。
「少し違うのではないかしら。奴隷の腕輪は、あくまで異世界から召喚された者の奥底に眠る力を呼び起こすもの。魂が削れるように見えるのは、副作用に過ぎないはずですの」
「つまり、もっとやべぇってことか」
そして、ざっくりと結論付ける。
「ええ。それに本当に恐ろしいのは……」
「生物とあらば、勇者に限らず何にでもその呪いを付与できるという点ですわ。そう、例えばそれが魔物であってもね」
その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内でバラバラだった記憶のピースがガチリと噛み合った。
「――っ、あっ!」
思わず大声をあげた俺に、全員の視線が集まる。
「思い出した!俺は以前、その深銀の呪いを見ている。エリナ、覚えているか?リーフェルの街外れでのことだ。本来そこにいるはずのない、やたら強い魔物が大量発生していると思ったら、銀色のスライムがうろついていたんだ」
「あっ──」
エリナも、思い出したようだ。
「岩塊竜を倒したら、その内側から銀色のスライムが出てきたんだ」
そこで、興味深そうに話を聞いていたクロニカが口を開く。
「私の知らない情報ですわ。深銀の呪いは、魂を強める効果も持っていますの。恐らく、その魔物は深銀の呪いに侵されていたのでしょうね。しかしまさか、呪いの正体がスライムだとは──いえ、そのときはたまたまスライムの形をしていただけかしら」
「ああ。それで、その直後だ。俺たちの前に、ゾディアスと名乗る不気味な男が突然現れて、奴と戦うハメになった──」
「は?ゾディアスだと!?」
それまで俺たちとは一歩距離を置き、壁際に寄りかかり黙って話を聞いていたテリオットさんが、弾かれたように顔を上げ、驚愕の声をあげた。




