83帰還と、戦慄の確信
眩い光が弾け、次の瞬間には、太陽光に照らし出された大草原が広がっていた。
地下実験室から飛び込んだ次元ゲート。
その出口は、どうやらランダムに書き換わるらしい。
まだ、不完全な術式ということなのだろう。
「――っ、は、あ」
無事に生還した。
その安堵が脳裏をよぎった瞬間、張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れた。
急激な虚脱感が津波のように押し寄せ、視界がぐにゃりと歪む。
「依人!?」
「え?依人様!?」
エリナとエルフィの慌てた声が遠のいていく。
代償の大きいスキルの使用、観測者の連続発動……どうやら俺の肉体と精神は、とっくに限界を迎えていたようだ。
────
次に目を覚ました時、視界に映ったのは見慣れた石造りの天井だった。
「ここは……」
寝台の横では、看病に疲れたのだろう、エリナがベッドの端に突っ伏して小さな寝息を立てている。
「……エリナ」
掠れた声で呟くが、起きる気配はない。
俺はあたりを見回し、ここがスラム街の拠点としていた宿であることを把握した。
そして、これが夢ではないことも。
少し身を起こそうとした瞬間、思わぬ激痛が頭に走り、思わず声が漏れた。
「――っ」
その小さな声に反応して、エリナがハッと肩を揺らして身を起こした。
その目には、色濃い疲労と、それ以上の安堵の涙が浮かんでいる。
「依人……!よかった、目が覚めたのね」
「俺は、どれくらい眠ってた?」
「丸三日よ。意識は戻らないし、熱は下がらないし……本当に、どうにかなっちゃうかと思ったんだから」
彼女は俺の手を強く握りしめた。
(三日か……あ、そうだ。ステータスは――)
ステータスを確認すると、『蛮力の咆哮』を使う前の元の数値に戻っていた。
一時的な弱体化の副作用は解けたようだ。
「みんなは……どうなった?」
「安心して。囚われていた人たちはみんな無事に帰ったわ。クロニカとテリオットさんが周囲を警戒してくれてる。ベネディクトも、まだ本調子じゃないけど、最悪の容態は脱したわ」
「そうか……よかった」
俺は脱力して、再び寝転がり、天井をじっと見つめた。
誰も死なさずに、すべてを救い切った。
その事実に胸を撫で下ろす。
だが、一つだけ胸につっかえているものがあった。
『……あ、が……と……な……』
ハルク――。
彼は、安らかな笑みを浮かべながら光の粒子となって消滅した。
(出来れば救いたかった……が、やはり)
奴隷の腕輪は、対象の肉体と魂にあまりにも深く刻み込まれている。
システムに干渉して無理やり破壊すれば、腕輪の呪いそのものが暴走し、魂もろとも消滅する。
ハルクの最期によって、その最悪の仮説が、確実な事実となってしまった。
(これではっきりした。奴隷の腕輪を力任せに壊したら、その時点で彼らは死ぬ……!)
俺が救いたいと願っている、勇者パーティ『ヘヴンウィングス』。
そして、この世界に共に召喚され、今は王国の都合のいい道具として前線に立たされている、かつての仲間――レゾナンス。
彼らを救うためには、つまり別の方法を探らなければならない。
「何か……方法は、ないのか……」
考えよう。
安全に、宿主の命を繋いだまま、あの呪いの腕輪を外す方法。
「お、ようやくお目覚めか。おい、祝杯をあげるぞ」
ゆっくり思考を巡らせようと思っていた矢先、部屋の扉が勢いよく開いた。
そこには、入り口に立って早くも酒の入った杯を煽っている、ベネディクトの姿があった。




