82 迷宮からの脱出
エルフィが凛とした声を響かせ、俺の前に進み出た。
彼女に続くように、数十人のピクシー族がふわふわと宙に舞い上がる。
「エルフィさん!?でも、これほどの空間干渉は……」
俺は額に汗を滲ませながら声を振り絞る。
「私たちは先ほど、皆様の姿と気配を消すために境界の繭を展開しました。あれも、空間を歪めて別次元を形成する、一種の空間変異魔術なのです。応用すれば、その小さな空間の裂け目を押し広げることができます!」
エルフィの言葉に、ピクシー族が一斉に頷いた。
ピクシー族は魔力に敏感だという。
それは、遠くの魔力を感じ取るとかそういうのではなく、魔力の種類。
悪意のある魔力なのか、そういった類のものだ。
だからこそ彼女たちは直感したのだろう。
この空間の裂け目が、自分たちの操る境界の繭と酷似していること。
そして――今の俺のスキルとなら、共鳴できるということを。
彼女らはお互いに手を繋ぎ合い、歌うような美しい声で一斉に呪文を唱え始める。
シュウゥゥゥゥ……!
ピクシー族の全身から放たれた淡いエメラルドグリーンの魔力光が、俺の『因果の縫合』によって辛うじて繋ぎ止められていた空間の裂け目へと流れ込んでいく。
「――っ!?」
俺の鑑定士としての眼が、その劇的な変化を捉えた。
ピクシー族の魔力増幅を受け、俺の右目に見える因果の糸が、見る見るうちに太く強固な鎖へと補強されていく。
「今です、依人様!一気に固定を!」
「おおおおおっ!!」
エルフィの声に応え、俺はスキルを限界まで引き絞り――プツンとスキルを絶ち、因果を固定させた。
現れたのは、紛れもない、地上へと繋がる次元ゲートの輝きだった。
「やった!!ゲートが復元したわ!」
エリナがパッと表情を輝かせ、歓喜の声を上げる。
「ふぅ……あぶねぇ。一時はどうなるかと思ったぜ」
ベネディクトが冷や汗を拭いながら安堵の笑みを浮かべた。
「これで……この忌々しい場所とはおさらばですわね。魔導院の追手が足止めに気づく前に……急ぎましょう」
クロニカが一同を促すように短剣を収める。
「ああ、全員一歩も遅れるな!さあ、元の世界へ帰るぞ――進もう!」
俺たちは境界の繭に包まれたまま、光り輝くゲートの向こう側へと、一斉に飛び込んだ。
こうして俺たちは、魔導院が行う実験の手がかりを得て、ハルクの魂を救い出し、多くの犠牲者たちを救い出し、ついにあの忌々しい異空間迷宮からの完全な脱出を果たしたのだった。
果たして、異空間ゲートの繋がる先とは──。




