81 次元の残滓
「その境界の繭ってどれくらい使い続けられるんだ?」
扉の前で、エルフィに声をかける。
「あまり魔力を消費しないように練り上げられていますので、一度発動してしまえば一日でも二日でも。ですが、今は弱っていますので……半日くらいでしょうか」
「そんなに持つのか……十分だ。それなら、今から頼めるか?」
「ええ。それでは、参ります」
エルフィたちはお互いに目くばせをし、境界の繭で俺たちを包んだ。
「それじゃあ、進もうか」
俺を先頭にして、来た時に降りてきた階段を、今度は一歩ずつ上っていく。
「ねえ、依人。今の扉はくぐれたけど、地上に戻るゲートはどうやって見つけるつもりなの?」
並んで歩くエリナが、控えめに尋ねてくる。
「……もう一度開ければいい。あの科学者は、必ずどこかのゲートを通って元の世界に戻ったはずだ。それもそう時間が経っていない。必ず、痕跡が残っているはずさ」
階段を上りきり、静まり返った魔導院の通路へと戻る。
先ほどのガーディアンが再び現れたらゲームオーバーだ。
俺に戦う力はもう残っていないし、それは他のみんなも同じだ。
まさに、全員が満身創痍だった。
俺は『観測者』の出力を極限まで絞り込んだ。
白黒に反転した視界のなかで、周囲の空間をじっと見据える。
(どこだ……どこかに、あの科学者が空間をねじ曲げて通り抜けた跡があるはずだ……)
じわじわと残りのMPが削られていく焦燥感の中、通路の突き当たり、何もない空間の一点に目が留まった。
そこだけ、薄い黄金の糸が不自然に集結している場所がある。
まるで、無理やりこじ開けた穴を急いで塞いだかのような、空間の継ぎ目。
そこから、さっきの科学者が放っていた不快な魔力の残滓が、陽炎のようにゆらゆらと立ち上っていた。
「見つけた……あそこだ」
俺はふらつきながら、次元ゲートの前に立った。
「ほんと、微かに魔力の気配を感じる……」
何もない空間だが、フェイも、微かに残る魔力を感じたようだ。
やることは、先ほどと同じだ。
白黒に反転した視界。
科学者が発動した、魔力の残滓がまだ消えずにうっすらと空間に浮遊していた。
「大丈夫だ、因果はまだそこに残ってる……それさえ掴めれば……っ!」
藁をも掴む思いで、散らばった細い糸に意識を集中する。
(消えかける前に、捕まえて――縫合する……ッ!!)
「くっ……『因果の縫合』……ッ!!」
右目の激痛に耐えながら、バラバラになった転移の因果を力任せに手繰り寄せ、一つに繋ぎ合わせる。
確かに手応えはあり、スキル自体は成功した。
――が。
「だめだ……っ!スキルは発動してるのに、空間が固定できない……!?」
なんとか、繋ぎとめているがそれはとても不安定で今にも霧散してしまいそうだ。
目の前には、薄っすらとゲートのような直線が生じているが、それはあまりにも小さい。
フェイたちピクシー族ですら、通り抜けられないだろう。
「残滓が、少なすぎたせいか……!?どうしたらいいんだ!?」
少しでも集中を欠いたら消えてしまいそうなそれを、俺は必死に繋ぎとめる。
ズルズルと裂け目が閉じていく。
万策尽きたか、と絶望が脳裏をよぎったその時。
「――私たちなら、その助けになれるかもしれません!」




