79 囚われ人の解放
ベネディクトに回復魔法はかけたものの、骨は折れたままだし、体力も回復しない。
ただ、傷口だけは内側も外側も塞がったらしく、出血は収まった。
「俺はもう、大丈夫だ。ありがと……な」
薄目をあけ、ベネディクトが弱々しく喋る。
「あぁ。あとはこれを飲んでおけ。俺はクロニカをみにいく」
寝そべる彼のもとにポーションを一本置き、俺は痛みに顔をしかめながらクロニカの元へ移動する。
──が。
さっきまでガラスケースに寄りかかっていたはずの、彼女の姿がない。
慌てて視線を巡らせると、背後から声がした。
「こっちよ」
見れば、クロニカはエリナたちに合流し、捕まった人たちの救助をしていた。
どうやら、自前のポーションか何かで、自力で回復したらしい。
そのタフさには頭が下がる思いだ。
俺がそちらへ向かうと、ようやく救出されたピクシー族やスラムの住人たちが這い出してくるのが見えた。
「みんな、本当に無事でよかった……!」
フェイが涙を拭いながら、救出されたピクシー族の仲間たち、そしてスラムの住人たちの間を忙しなく飛び回る。
繋がれていたチューブから解放された彼らは、まだ顔色こそ悪いものの、自力で立ち上がれる程度には体力が残っているようだった。
どうやら、間に合ったようだ。
俺たちは心の底から安堵の息を漏らした。
「さて、めでたしめでたしと行きたいところだけれど、問題はここからね」
すっかり平常運転に戻ったクロニカが、きっぱりと言い放つ。
「私たち、どこからここを出ればいいのかしら?」
「え?そんなの、来た道を戻れば……」
俺は階段を指差し、くぐってきた入口を見て愕然とする。
「入口が……ない??」
「ええ。さっきの科学者が出て行った時に、ついでに扉を閉めていったようね」
「嘘……だろ」
一難去ってまた一難。
今やこの大部屋は、前も後ろも塞がれた袋の小路だった。
さらに今の俺は、スキルの代償で全ステータスが10%に超低下している。
決して無理はできない。
「――それなら、私にお任せください」
その時、フェイが抱きしめていた大人のピクシーが名乗り出た。
長めの美しい髪を持った、弱々しくも毅然とした声。
「あなたは……?」
「私はエルフィ。フェイの姉にあたる者です。人間の皆様、妹と私たちを救っていただき、本当にありがとうございました」
エルフィは異国の礼をとると、背中の翅をかすかに震わせ、ふわりと宙に浮き上がった。
「私たちピクシー族は、ヒト族の追ってから逃れるため、独自の隠蔽魔術を発達させてきました。これほどの人数を隠ぺいするのは難しいですが、ここにいるピクシー全員の力を使えば、皆さんを境界の繭で包むことは可能です」
「境界の繭?」
「私たちはそう呼んでいます。気配を完全に遮断する、亜空間を作り出す魔法です」
「それ、ひょっとしておとぎ話の妖精の隠れ家ってやつじゃない?」
エリナが目をキラキラさせている。
「……なるほど。それなら、脱出口さえどうにかなれば、魔導院の奴らに見つかることなく先へ進めるというわけだな」
俺の言葉に、エルフィは深く頷いた。
「ええ。ですが……問題は」
「問題は、そもそもどうやってこの部屋から……いえ、この封鎖された空間から出るかってことね」
エルフィの言葉を遮り、クロニカがかぶせるようにして核心を突く。
この部屋の入り口の扉は閉ざされ、そもそもこの空間に入ってきた時の転移ゲートはとっくに閉じている。
「……いや、方法はある。あの科学者の足取りをたどるんだ」
長い沈黙の後、俺は一つの答えにたどり着く。
いや、答えなんていう大層なものじゃない。
もしかしたら、万に一つに、あるいは億に一つの確率でできるかもしれない──。
そんな、一縷の望みに近い解決策だった。




