76 限界突破の300秒
「依人!?何を言って――」
エリナの困惑の声を遮り、俺は全身の細胞に眠る魔力と生命力を一気に沸騰させた。
心臓が爆発しそうなほどの勢いで脈打ち、全身の血管が浮き上がる。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!『蛮力の咆哮』、発動ッ!!!」
魂の底から雄たけびをあげる。
その瞬間、脳内にシステムログが流れ、俺のステータスは書き換えられた。
【スキル『蛮力の咆哮』作動。肉体リミッター解除。300秒のカウントダウンを開始します】
【全ステータスが200%上昇。痛覚を遮断します】
これで、俺のステータスはこのようになった。
【HP】690/3030
【MP】364/1584
【筋力】456
【防御】600
【敏捷】735
【魔力】630
【精神】1026
HPとMPは最大値が増えても、現在値は変わらないようだ。
だが、問題はない。
その瞬間から、俺の持つ固有スキル『生命の加護』が自動的に発動し、HPを徐々に回復し始めていたからだ。
全身を突き抜ける、破滅的なまでの万能感。
ハルクの敏捷値をはるかに上回った俺は、ハッキリとその動きを、遅いと認識できるほどになっていた。
「いくぞ、覇者のナレハテ……ッ!!」
爆発的な加速。
正面から切りかかると見せて神速のステップで真後ろへと回り込み、無防備な背中へ防御無視の魔剣を力任せに叩きつける!
――ギィィィィィンッ!!!
しかし、ハルクは背中に回した魔導斧の長い柄一本で、俺の一撃を完璧に受け止めてみせた。
(チッ、背後の完全な死角からの奇襲を、予備動作なしで防ぎやがった……!)
続けざまに下段に放った一撃が、ハルクの足をかする。
傷は浅い。
「ガ、ア……?」
ハルクが初めて、戸惑ったような声をあげた。
その後も、一進一退の攻防が続くが致命傷には程遠い。
ステータスの数値では俺が上回っているはずだった。
だが、ハルクの持つ『斧聖』のスキルと、長年コロシアムで培われたであろう実戦経験は、ステータスの差を無慈悲に埋めてくる。
──ブォン、と。
大気を切り裂く破砕音。
俺は力任せに無理やり上体を後ろに逸らし、神速の刃を紙一重でかわした。
前髪が数本、風圧だけで千切れて宙に舞う。
だが、怯まない。
間髪入れず、俺は低姿勢から奴の軸足を狙って魔剣を突き出した。
俺の『剣術Lv7』が導き出す最速かつ最短の刺突。
しかし、ハルクも負けていない。
斧の石突きを正確に俺の剣の腹へと叩きつけ、その軌道を数ミリ逸らした。
キィンと高い金属音が響き、俺の突きは虚しく空間を穿つ。
「グルルルルァァ……!」
体勢の崩れた俺の胸元へ、ハルクの巨大な金属ブーツが迫る。
速い。
その軌道、威力がはっきりと見える今だからこそわかる。
(これが……『斧聖』の領域……!技術の練度が凄まじい。俺の即席のステータスでは押されるか──)
両手でブーツを受け止めようとしたが、後ろへ吹き飛ばされてしまった。
お互いの武器が火花を散らし、打撃の風圧が部屋の空気をかき混ぜる。
俺が敏捷を生かして無数の残像を残しながら死角へ、死角へと回り込んで刃を振るえば、ハルクは『斧聖』の絶対的な防御円を維持し、そのすべてを魔導斧の面で弾き返してくる。
互角の勝負。
お互いに小さな一撃は何度も与えているものの、致命傷の一撃をどうしても通せない。
ハルクの斧がかすめるたびに、凄まじい衝撃波が骨の髄まで響き、じりじりとHPを削られていく。
その度に、『生命の加護』が発動し、HPが回復するため問題はないが──。
(まずいな、早く決着をつけないと制限時間が来てしまう)
視界の隅に表示されている秒数は刻一刻とカウントダウンを続けている。
焦りが脳裏をよぎる中、ハルクの魔導斧がさらにその風圧を増していった。




