71 かつての最強
「――ガ、ォォ……オオオオォォォッ!!」
その雄たけびは、人間なのか動物なのか、はたまた魔物なのか、始めはまるで区別がつかなかった。
それほど凶暴で、獰猛な……人間の叫び声だった。
だが、その肉体は人間のそれではない。
まず、筋肉の量が桁違い過ぎてあまりにも不自然。
なにより、皮膚の下を流れる血管には、青い光りが脈打っている。
「何ですの、これは……?人間……?」
クロニカがその圧倒的な威圧感に一歩後退り、顔を引きつらせる。
「形は人間だが、中身は別物だ」
先ほど戦ったガーディアンの事もあるし、ゴーレムに似た何かなのか、あるいは改造された魔物という線も十分に考えられた。
しかし、見た目もさることながら、何よりその男の首には、魔導院特製の隷属の腕輪が不気味な赤色に発光していた。
首に嵌められているから、今回の場合は隷属の首輪、というべきか。
「ば…化け物……っ!」
エリナが恐怖に顔を引きつらせる。
俺は早速それを『鑑定』した。
【プロトアバター(状態:狂乱・使役)】
【種族:元人間】
【レベル】55
基本ステータス
【HP】5621/7400
【MP】2764/3300
【筋力】500
【防御】470
【敏捷】470
【魔力】420
【精神】110
スキル
【斧聖技Lv1】【上級火属性魔法Lv1】【状態異常耐性Lv10】【即死耐性Lv1】【暗器使いLv6】【気配遮断】【気配察知Lv8】【無詠唱】【斧聖】
「レベル48……!しかも、レベルのわりにステータスが異常に高すぎる!改造人間、ってことなのか?」
それに、このスキルの量。
斧聖って、相当強いんじゃないか……?
HPやMPが減少してるのは──ここに来る前に暴れて自傷でもしたか?
まともに戦えば一瞬で粉砕されかねない破壊の化身。
だがその時、俺の隣にいたベネディクトが、その男の顔を見て愕然と目を見開いた。
その身体が、微かに震えている。
「ベネディクト……?」
「嘘だろ……。おい、なんでお前がここにいる……!嘘だと言ってくれよ、金剛のハルク……ッ!!」
ベネディクトの口から漏れたのは、かつてコロシアムの歴史にその名を刻んだ、絶対的な覇者の名前だった。
「ハルク……?ベネディクト、あいつを知っているのか!?」
「数年前、俺がコロシアムで唯一、逆立ちしても勝てなかった男だ……!試合の後、忽然と姿を消したと思ってたら……魔導院の奴ら、こんな化け物に改造してやがったのかよぉッ!!」
ベネディクトの怒号に応じるように、元コロシアム覇者のなれの果て――プロトアバターが、濁った瞳をこちらに向けた。
その声が彼に届いたのかどうかはわからない。
いや、届いていないのだろう。
その証拠に、プロトアバターは特に考えた様子もなくこちらに突っ込んできた。
奴隷の首輪が強く発光し、男は痛覚も自我も奪われた破壊の人形として、その巨大な腕を大きく振り上げた。
「グルァァァァッ!!」
「残念ながら、奴はもう人間ではない。プロトアバターと、名前が書き換わっていた」
俺は前を見据えたまま、ベネディクトに真実を告げた。
空気が爆ぜるほどの速度で、最悪のエリアボスが俺たちに向かって突進してくる。
因果の糸が激しく乱れ狂う中、俺たちは宿命の激闘へと突入する――。




