68 実験室
「フェイ、仲間たちの気配は感じ取れるか?」
走りながら、俺は襟元にしがみついているフェイに問いかける。
フェイは胸元で激しく虹色に明滅する結晶を両手でギュッと抱きしめ、必死に周囲の魔力の波長を感知しようと目を閉じていた。
「うーん……方角まではわからないかも……でも、近づいて行ってるのは間違いないよ!!破片がだんだん熱くなってきてるもん!!」
そのすぐ後だった。
今まで走り抜けてきた一本道の通路の先に、下り階段が見えた。
「下層か。実験室ってのは、やっぱり人目に付かない地下に作るのが定番だからな」
「もう、この場所自体が人目につく心配がないと思いますけれどね」
俺とクロニカのそんなやり取りを挟みながら、俺たちは警戒を怠らずに階段を駆け下りていく。
────
階段を下りるにつれて、それまで青白かった魔導灯の光が、徐々に明るくなっていった。
安心をもたらす光ではなく、どこか神経を逆なでするようなチカチカとした高電圧の光だ。
それと同時に、何かが焦げたような嫌な匂いが大気に混ざり始める。
「――こ……これは……」
階段を下りたところで、俺たちは完全に足を止めた。
そこは、学校の体育館ほどもある、四角形の広大な大部屋だった。
通路はどこにも繋がっておらず、ここで完全に行き止まりのようだ。
部屋の構造は異様の一言に尽きた。
高い天井からは、無数の怪しげなチューブや黒い配線が床へと伸びている。
部屋の奥に設置された大型の魔導ジェネレーターからは、ブーーンという低い重低音が絶え間なく響き、床を微かに揺らしていた。
そして何より目を引いたのは、左右の壁際にずらりと並んだ、巨大な円柱状のガラスカプセルだ。
何十個もあるその容器の中には、不気味な緑色の培養液で満たされている。
「な、何よこれ……気持ち悪い……」
エリナが小さく悲鳴を上げ、口元を押さえた。
カプセルの中には、人間の形にしようとしたと思われる泥の肉塊や、見たこともない仕立ての衣服の切れ端。
さらには、歪んだ奇妙な武器のレプリカなど、さまざまな異質な物品が標本のように浮いていた。
「……何らかの実験施設であることは、まず間違いなさそうですわね」
「それにしても、この見慣れない衣服は何なのでしょう……。それに、この武器の形状……儀式書の『異界伝承』に記されていた特徴と、あまりにも酷似しておりますわ」
クロニカは、カプセルの中を一つ一つのぞき込むようにして、床に散らばるコードを避けながらゆっくりと歩を進める。
「……人体実験が行われていた痕跡もございますわね。一体、魔導院は何を企んで……」
その言葉に合わせ、フェイの顔が恐怖で真っ白に染まる。
仲間たちの絶望的な結果を想像したらしい。
「実験……!?まさか、みんなをそのカプセルの中に……!?いや、いやあああ!みんなどこなの!返事をして!!」
フェイが悲痛な叫び声を上げ、俺の静止も聞かずに、単独で四角い大部屋の奥へと真っ直ぐに飛んでいってしまった。
「おい、フェイ! 一人で突っ走るな!」
俺たちが急いでその後を追うと、部屋の最奥、最も太いチューブが集中している大型の魔導ジェネレーターの裏手でフェイが静止していた。
「……っ、依人、あれを見ろ」




