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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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67 脱出

 しかし、エリナの魔法はそれだけでは終わらなかった。

 彼女は杖を天井の通気口――俺たちの空気を奪い続けていた、真空トラップの吸引口へと向けた。


「そこね。……壊れて!」


 今度は、吸引口の内部に向けて大量の高気圧を送り込む。


 行き場を失った空気がダクトの奥で強烈に逆流し、内側から排気回路を激しく拡張していく。

 空気の逃げ道を塞がれたらどうなるか、結果は火を見るより明らかだった。


 バガァァァンッ!!!


 激しい爆鳴と共に、フロアの天井が内側から派手に吹き飛んだ。

 砂埃を巻き上げ、防衛システムが完全に大破する。


 同時に、閉鎖されていた空間に空気の循環が戻る。


「ぷはっ!……ふぅ、何とか一命をとりとめたわね」


 クロニカが大きく息を吐き、衣服に付いた石の粉をパタパタと手で払う。


「すごい……すごすぎるよエリナ!ひとりで全部やっちゃった!」


 フェイがエリナの周りを嬉しそうに飛び回る。

 エリナは「えへへ、上手くいったわ」と、いつもの少し照れくさそうな笑顔に戻り、緊張の糸が切れたようにへなへなと杖に寄りかかった。


 俺はそっと、彼女を『鑑定』する。

 17000もあったMPが、一気に6000にまで減っていた。


 あの暴力的なまでの威力は、彼女が持つ規格外のMPを湯水のように注ぎ込んだからこそ成せる業だったというわけか。


「よくやったな、エリナ。お前のおかげで命拾いしたよ」


「ううん。でも、まだここは通路の途中。一刻も早く、フェイちゃんの仲間を、助けに行かないと」


「そうだな。だが、急がば回れだ。少し息を整えよう。みんなも喉が渇いただろうし」


 俺は魔法鞄から冷えた飲み物を取り出し、エリナには魔法回復薬をそっと手渡した。


「なあ、ちょっといいか?」


 ん?という顔をするエリナに対し、俺はもう一度、ステータスをまじまじと覗き込んだ。


【名前】 エリナ

【種族】 人間

【職業】 調律師

【レベル】 28

基本ステータス

【HP】710/710

【MP】60/170(6000/17000)

【筋力】103

【防御】87

【敏捷】109

【魔力】250

【精神】174

スキル

『火属性魔法Lv7』『上級風属性魔法Lv1』『水属性魔法Lv5』『並列詠唱Lv5』『魔力障壁Lv5』『不確定未来』


 MP最大値は相変わらず17000のままだ。

 彼女自身の潜在的な最大MPがその値を超えない限り、この莫大な数値は固定値としてこびりついてしまっているのだろう。


 静寂の銀環(サイレントリング)のおかげで表面上は百分の一に見えている。


 ──そして、スキル欄に新たに刻まれた、その文字。


 上級風属性魔法Lv1。


 俺は、上級魔法を持つ人を他に一人しか知らない。

 リーフェルのギルドマスターだ。


 あの歴戦のベネディクトですら習得していない極地。


(どんだけ規格外だったんだ、あのおっさん……)


 何はともあれ、これまではLv9で頭打ちになっていた風属性魔法が、ついに上級へと昇華したのだ。


 まじまじと見つめているのも気まずいので、さりげなく尋ねてみる。


「なあ、どうやってあの状況から上級魔法を発動したんだ?」


「どうって……自分でもよくわからないんだけど、とにかくみんなを死なせたくない、助けなきゃって思いで必死だったわ。そしたら、いつもより繊細に魔力操作ができるようになって……」


「自分でもちょっとびっくりしてるわ。でもね、依人。みんなが居てくれたから、ここまでずっと旅をしてくれたから、限界を超えられたんだと思うの。私ひとりじゃ、きっと恐怖に負けていたわ」


「いや、俺のほうこそ助けられた。……ありがとな、エリナ」


 彼女のまっすぐな言葉に、胸の奥が少し温かくなるのを感じた。


────


 つかの間の休憩を終えた俺たちは、再び通路の奥へと歩みを進める。


「これだけの騒ぎを起こしてしまった以上、私たちの潜入は、もはや完全に露見していると考えるべきですわね。向こうも、次の手を打ってくるはずですわ――その前に、一気に最深部まで進みましょう」


 クロニカが、気合十分と言った様子で進む。


 彼女の言う通りだ。

 これ以上の戦闘は消耗を招くだけだ。できるだけ早く駆け抜けるに越したことはない。


 俺たちは互いに視線を交わし、魔導院の底へと向かって再び走り出した。


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