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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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64 魔導院の罠

『真空吸引、中断──』


 だが、ホッとしたのも束の間。

 それは救いなどではなく、より確実な処刑の始まりを告げる合図だった。


『ミスリルスパイダー、投入──』


 無機質なアナウンスと同時に、天井の通気口からにゅるっと不気味に姿を現したのは、人間ほどの大きさがある、鋼鉄の蜘蛛たちだった。

 さっきまで戦っていた二足歩行型のガーディアンよりも遥かに密度が高く、見るからに強固な造りをしている。


 しかも、その数は一匹や二匹ではない。

 狭いダクトの奥から、まるで黒い泥水のように次から次へと溢れ出してくる。



【名称】ミスリルスパイダー

【種族】魔物

【レベル】32

【基本ステータス】

HP:660 / 660

MP:360 / 360

筋力:180

防御:420

敏捷:210

魔力:130

精神:130

【スキル】

『隠密Lv6』『糸操作Lv4』『神経毒Lv6』『壁面走行』『空中歩行』『ミスリルコート』


 無意識のうちに発動していた鑑定結果が、チカチカと容赦なく視界を埋めていく。


「ひっ、蜘蛛!?依人、なんかキモいのがいっぱい出てきたわよ!」


 俺の顔の前で、フェイが悲鳴をあげる。


(絶体絶命だ……弱り目に祟り目とはこのことか。起きろ、俺の体……動け、俺の脳……!)


 万全の状態ならなんてことのない相手だ。

 だが、呼吸を奪われ、四肢をろくに動かせない今の状況下では迫り来る鉄の死神にしか見えない。


「私が……やるっ……」


 よろよろと立ち上がったのはエリナだ。

 両手でぎゅっと握りしめた杖の先端を、容赦なく這い寄ってくる蜘蛛たちに向けている。


「エリナ……っ!?」


 狙うは群れの中心。

 彼女は仲間を救うため、今使える最大級の攻撃魔術で一網打尽を狙った。


「――吹き荒べ、すべてを巻き込む嵐よ――ウィンドストーム!!」


 エリナの放った魔力が、杖の先端から爆発的に放射された。

 本来なら、対象全体を激しい暴風の渦が満たし、迫り来る魔物の群れをまとめて壁へと叩きつけるはずの強力な一撃。


 ――しかし。


 フッ……と、間の抜けた小さな風切り音が鳴っただけだった。


「え……? なんで……っ!?」


 エリナが驚愕に目を見開く。

 魔力は確かに消費した。術式も完璧に構築できていた。


「ダメよエリナ。ここは、すでに真空状態ですわ!」


 壁に背を預けてへたり込んだクロニカが、苦しい呼吸の合間から絞り出すように叫んだ。


 風属性魔法とは、魔力によってそこにある空気を動かし、凝縮したり真空にしたりして、嵐や風を操る技術だ。

 大気というベースがそもそも存在しないこの部屋では、どれだけ強大な術式を組もうが、動かすべき空気が最初から一滴も残っていないのだ。


「ッ!それなら――燃え盛る業火よ、すべてを貫き爆裂せよ――フレアバースト!!」


 エリナは必死に頭を切り替え、次に得意な火属性の魔法を放つ。


 杖の先端に、一瞬だけ目も眩むような超高熱の火球が出現した。


 よし、いける――と思った次の瞬間。


 ――ボッ。


 まるで、湿気ったマッチに火をつけたときのような、弱々しい音。

 生まれたはずの巨大な火球は、一瞬にしてパッと消え失せてしまった。


「嘘……火属性魔法も使えないの……!?」


 エリナが信じられないというように、自分の杖を見つめる。


「無駄ですわ。ここには酸素がありませんの、いくら魔力を注いでも、火は燃えませんわ」


 クロニカが、苦しそうに顔を歪めながら説明する。


 例え魔法という現象がどんなに超常的なものに見えても、"酸素がなければ物は燃えない"という世界の物理法則には逆らえないのだ。


 頼みの綱だった広域魔術が二重に不発となり、完璧な無防備を晒してしまったエリナ。


 そんな絶望的な状況などお構いなしに、ミスリルスパイダーは壁を這い、空中を歩き、着実に距離を縮めてくる。


 そして次の瞬間、最前列の一匹が、冷酷な鋭い前肢を剥き出しにして、エリナの目の前へと容赦なく飛びかかった――。

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