61 防衛戦
青白い魔導灯に照らされた一本道を、俺たちは周囲を警戒しながら進み始めた。
無機質で、不気味なほどに静まり返った通路だ。
高い天井に、俺たちの足音だけが妙に大きく響く。
「ねえ、この迷宮、さっきから全然分かれ道がないのね」
エリナが杖を構えたまま、不安げに呟く。
「ああ。侵入者を迷わせるための迷宮ってよりは、獲物を決まった場所へ追い込むための道って感じだな」
俺は右目の『観測者Lv2』の視界を維持したまま、床や壁を凝視していた。
レベルが上がったことで、世界の情報がより鮮明に見える。
例えば、壁に施された術式がどんなものなのか説明書きが見えるのだ。
そこに、トラップの術式が組み込まれていれば当然俺にはそれがわかる。
飛び出す矢のトラップや落とし穴を事前にすべて見抜き、先回りして回避しながら、俺たちは慎重に歩みを進めていた。
「この調子なら、トラップは恐れるに足らないな。だが、こんなのは軽い挨拶代わりだろう。本命は、この奥だ」
並んで歩いていたベネディクトが、余裕綽綽といった様子でひょいひょいとトラップをかわしていく。
その時、前方から空気をビリビリと震わせるような、重々しい金属の駆動音が近づいてきた。
床を激しく引っ掻くような、無数の硬い爪の音だ。
「……来るか」
俺が剣を引き抜いた、その直後だった。
『ガガ、グ……侵入者、検知。即時、排除――』
無機質な石造りの通路に、無機質な金属音が鳴り響いた。
青白い魔導灯の光の向こうから現れたのは、硬質な金属で造られた、四足歩行の自律型人形の群れだった。
頭部に当たる部分には、赤く不気味に発光する単眼の魔石が埋め込まれており、それが一斉に俺たちをロックオンする。
「さっそくお出ましだな。挨拶代わりにしちゃ、いささか無骨すぎるが」
俺は魔剣を構え、まずは『鑑定』を発動した。
【魔導院式自律人形(状態:稼働中)】
【説明:痛覚を持たず、動力を破壊されるまで永久に行動を止めない。】
【刻印:『集団連携』『侵入者排除』】
「自律人形だ。集団連携してくるから、みんな注意しろ!」
こいつらには一般の魔物のようなレベルやスキルといった概念が無いため、数値としての正確な強さは不明だ。
だが、やつらの攻撃対象なら俺の右目でしっかりと視認できる。
迫り来る鉄の人形たちから伸びる攻撃の因果が、黄金の糸となって俺たちに軌跡を描いている。
「ひいっ、なにあの硬そうなの!依人、やっちゃいなさい!」
フェイが俺の襟元から顔を出し、羽をパタパタと震わせながら悲鳴を上げる。
「言われなくても、ここで立ち止まる気はないさ」
「へっ、威勢がいいねぇ。俺はもともと、拳闘士なんだ。アンデッド以外が相手でも後れは取らねえよ」
ベネディクトが素手で構える。
なるほど、彼の武器を持たないスタイルは、モンクゆえ、ということか。
「私がやる!『風よ、鋭き刃となりて敵を穿て――ウィンドシザー』!」
後方からエリナの凛とした声が響き、目に見えない大気の刃が俺たちの頭上を越えていった。
刃は突撃してきたガーディアンの関節部に正確に命中し、その姿勢を崩す。
「ダメ、効果が薄いみたい!」
通常なら肉を切り裂くはずの風の刃が、頑丈な金属装甲に弾かれて、ただの打撃技のようになってしまっている。
「硬い敵が相手なら、コイツの出番だなっ!」
俺は地面を強く蹴り、姿勢を崩した先頭のガーディアンへと魔剣を振り下ろした。
この魔剣に付与されているのは【防御無視】の特性だ。
今まであまり日の目を見なかったが、対ガーディアンでは最高特効の能力である。
その効果は絶大だった。
パキィン、と硬質な音が響き、刃がガーディアンの頑丈な足をバターのように易々と切り裂く。
バランスを崩し、鉄の人形が床へ崩れ落ちた。
すかさず、俺は射程圏内に入った額の赤い魔石を狙う。
「そこだっ!」
赤い魔石を真っ二つに叩き割ると、光を失ったガーディアンがぼろぼろと崩れ落ちた。
まずは一体。
ガーディアンの数は多いが、十分に押し通せそうだ!




