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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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58 突入の準備

「どうやらコイツで正解のようだ」


「依人!早く、早く入るわよ!さっさと向こうへ行くわよ!」


 フェイが慌てて俺の髪の毛をグイグイと引っ張る。

 地味に頭皮が痛いのでやめてほしい。


「おい、焦るな。ゲートが開くまでにはまだ29分ある。一度、クロニカと連絡を取って合流するぞ」


「そんなこともわかるの?」


 エリナが驚いたように言う。

 『観測者Lv2』になったことで、見える情報が増えたとは俺も思っていた。


 以前までは、対象を捉えることは出来てもここまで詳細な情報は得られなかっただろう。


 俺は、懐からリス型の通信魔導具を取り出し、魔力を通した。


 数秒のザザッというノイズのあと、お馴染みの感情のこもらない声が返ってくる。


『……依人さん?そちらの様子はいかがですの?』


「ああ、予想通り、ゲートが出現しつつある。完全に開くまで29分の猶予がある。そっちは?」


『こちらもベネディクトの身柄を確保いたしましたわ。北側の雑貨屋で合流いたしましょう』

『……身柄を確保って。俺を犯人みたいに言うなよ』


 通信の向こうから、ベネディクトの不満げな声が聞こえる。


 ひとまず合流の段取りはついた。


 俺は通信を切って、二人に向き直る。


「よし、急いで合流して二人を連れてこよう。最大速度で行くぞ。行けるな?」


「ええ!任せて!」

「あたしの風に遅れないで頂戴よね!」


 幸い、エリナもフェイも風属性魔法の使い手だ。


 追い風を背に受けるような補助魔術のおかげで、俺たちの身体は驚くほど軽くなる。


 文字通り、風のような速さで俺たちは雑貨屋へと急いだ。


────


「……すごい荷物だな」


 クロニカの横に置かれた大量の麻袋を見て、俺は感想を漏らす。


「ええ。あなたの魔法鞄に入れていただこうと思いまして」


 なるほど、そのためにここを指定場所に選んだわけか。抜け目がない。


「多すぎないか?」


「ゲートの向こう側がどうなっているかは未知ですわ。食料に回復薬……備えは、十分にしておくに越したことはございませんでしょう?」


「まあ、それもそうか」


 これだけの準備をしてくれるのはありがたい。

 俺は麻袋を魔法鞄にしまい込む。


「早速、進展があったようだな。というより、向こうから機会を作ってくれたっていう感じか?」


 ベネディクトがぼさぼさの髪をガシガシとかき分けながら、まだ眠そうに話す。


「大気が、妙に禍々しくねじれてやがる。……おい依人、のんびり荷造りしてる場合じゃねぇんじゃねえか?」


「ああ、そうだった。あと二十分くらいで完全にゲートが開く。ここから少し離れた草原だ。こっちへ急いでくれ!」


 今度は俺と、肩に乗ったフェイが先頭に立ち、一同を案内した。


 スラム街を抜けた、北側に大きく広がる草原。

 先ほど確認したその場所に、俺たちは息を切らせて戻ってきた。


 見渡す限りの草原の中に、ポツリと、黒いひび割れがある。


 先ほど確認した時はただの線だったが、今ではその亀裂が左右に大きく広がり、中の様子が透けて見える状態にまでなっていた。

 

 どろどろとした紫色の光の粒子が、大気を削り取るようにして渦巻いている。

 中心からは、時折、現実世界のどこにも存在しないはずの冷たい風がヒョウヒョウと吹き抜けていた。


「これよ……! あたしの仲間たちが消えたときと、おんなじ……!」


 フェイが俺の髪をぎゅっと掴み、悲痛な声を上げる。

 痛いので、髪を引っ張るのはやめてほしい。


 フェイがずっと握りしめている虹色の結晶は相変わらず明滅を繰り返していた。


 ベネディクトは獰猛に口角を上げると、首からぶら下げる水筒を一口あおった。

 戦いの前に喉を潤し、気合を入れるあいつなりのルーティンなのだろう。


「まじかよ……こんな得体の知れねぇ未知の穴に、俺たちは今から飛び込もうってのか?」

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