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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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57 ゲート出現


「ピンチをチャンスに変えて見せるぜ」


 口角を上げて宣言する俺の言葉に、一瞬、場の空気がひりついた。

 いや、決してスベったというわけではない。断じて。


 未知の異空間ゲートに入るという大胆な作戦、そしていよいよ魔導院の懐に潜り込むという決意。

 それらが、みんなの気を引き締めただけに過ぎない……はずだ。


「ピンチを、チャンスに……」


 エリナが驚きに目を見張る。


 しかし、彼女の瞳に迷いはなかった。

 すぐに身支度を整えると、強く頷いた。


「行きましょう!フェイちゃんの仲間を助けるためにも、私たちが前に進むためにも、これ以上のチャンスはないわ!」


「……お待ちなさいな、あなた方」


 部屋の奥で冷めたミルクを啜っていたクロニカが、静かに本を閉じて立ち上がった。


「急を要するのは理解しておりますけれど……だからこそ、準備は怠らないことですわ。不用意に動いて、取り返しのつかない事態になるのが一番厄介ですもの」

「私は外へ出て、ベネディクトを探しますわ。あなた方は、ゲートの捜索をすることね。あとで合流しましょう。──これは、通信機ですわ」


 手渡されたのは、リスの形をした小型のバッジだ。


「二つで一つの魔道具ですわ。もう片方は私が持っておりますから、いつでも連絡が取れますわよ」


「わかった、ありがとう」


────


 外へ出ると、驚くほど気温が低かった。

 まだ日が出たばかりというのもあるだろうが、それにしても肌寒い。


「――っ、くしゅん!なにこれ、急に寒くなった……?」

 エリナが自分の腕をさすりながら声を上げる。


「ここから北の草原が、フェイ、お前が仲間とはぐれた場所で間違いないな?」


「え、ええ……!間違いないわ。あの日とまったく同じ、嫌な魔力の匂いがスラム中に満ちてきてるもの……!」


 フェイは俺の肩の上で、期待と恐怖に身体を小さく震わせていた。


 フェイいわく、ピクシーは魔力の匂いに繊細だという。

 敏感ではなく、繊細。

 微かな魔力でも敏感に感知できるという意味ではなく、その魔力が綺麗か、汚いかという"質"を嗅ぎ分けるのが上手い、ということらしい。


「ベネディクトの奴も、外で寝るなんて言ってたが、この異変に気づいてそうなもんだよな」


 空を見上げれば、昨日の晴天とは一変し、どんよりとした厚い雲が覆いつくしていた。


 俺はフェイのような繊細な魔力感知はできない。

 だが、何かが起きようとしている不気味な気配を、俺の第六感がビンビンと捉えていた。


 何というか、風が死んでいるのだ。


 急ぎ足で北へ向かう道すがら、早い時間から働くスラムの住人たちが噂話をしているのが耳に入ってきた。


「不気味な朝だねえ。たしか、この前鋳造屋の息子が消えたっていうのもこんな日じゃなかったかねえ」

「ああ、そうだ。あの日以来、あの元気な声を聞いていないね」


(昨日、串屋の店主も失踪のことをチラッと話していたよな……)


「依人、あっちよ!できれば怖くて戻りたくないんだけど、そんなことも言ってられないわよね!」


 フェイが頭を抱えるようにして叫ぶ。


「ああ、分かった。急ぐぞ!」


────


 到着したそこは、一見すると何もない、ただの荒れ果てた草原だった。


「このあたりよ!」


 目印になるようなものは何もない。

 下手な魔力の気配もなく、もし言われなければただ素通りしてしまうところだっただろう。


 ただ、一つの特異点を除いては。


「……何、あれ……」


 エリナが息を呑み、歩みを止める。


 空間が、まるで紙を破いたかのように縦に裂けていた。

 何もない空間に、ぽつんと浮かぶ一本の黒い線。


 明らかに、異常だ。ここが某地下通路のゲームの世界だったなら、迷わず引き返していたところだろう。


 俺はその歪みの正体を『観測者』の目で凝視した。


【警告:大規模な因果の断裂を検知】

【空間ゲートを展開中──展開まで残り1740秒──】


 網膜に走る赤いシステムログ。


「どうやらコイツで正解のようだ」

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