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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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53. 消えたピクシー

「何よ、聞きたいことって」


 妖精はさっき食べた木の実の赤い汁を口の周りにつけながら、不機嫌そうに問いかける。

 その姿は、おとぎ話に出てくる妖精というより、お腹を空かせた小動物に近い。


「突然ごめんね。私はエリナ、こっちは依人。ねえ、あなたとっても可愛らしいけど、ピクシーは年を取らないって本当なの?」


 完全に脱線した質問を飛ばすエリナに、俺は「おい」と目配せをする。

 彼女は「あ、いけない」という顔で、気まずそうに咳払いをした。


「えほんっ……じゃなくて、あなた、この辺りの屋台から食べ物を持ち去っているでしょう?」


 エリナが優しく問いかけると、ピクシーは「ギクッ」と肩を揺らし、慌てて背中の翅を震わせた。


「……べ、別に盗んだわけじゃないわ!落ちてたのよ、あれは!誰も見てなかったんだから、落とし物でしょ!」


「誰も見てなきゃ落とし物、か。もっとマシな言い訳はなかったのか?」


 俺は呆れ半分に肩をすくめ、わざとらしくため息をついて見せた。


「あれは立派な売り物だ。食い物屋の親父たちが、明日の生活のために一生懸命に作ったものだ。それが何度も続けば、それはもう立派な事件なんだよ」


 すると、ピクシーは顔を真っ赤にして、小さな拳を振り回した。


「うるさいわね!人間の食べ物は油っこくて、味も濃くて……私だって好きで食べてるわけじゃないわよ!でも、そうでもしないと、もう魔力が足りないのよ!この街の空気は汚れすぎてて、お腹が空いて死んじゃいそうなんだから!」


 彼女の言葉に、俺とエリナは顔を見合わせた。


 本来、ピクシーのような精霊に近い種族は、澄んだ空気や植物に含まれる純粋な魔力を糧にする。

 それがスラムの油っこい揚げ物を掠めるほど追い詰められている。


 それは単なる食糧難というより、彼女たちの住処に異変が起きていることを示唆していた。


「……ねえ。何かあったの?あなたたちの仲間は、どうしたの?」


 エリナの問いに、ピクシーは振り回していた拳をだらんと下げ、悲しげに瞳を伏せた。


「はぐれちゃったのよ。私たちピクシーは、移動しながら生活しているんだけど、この一帯の空気は汚れ切っていて次の住処が中々見つからなかったの。それで、少しだけマシな風が吹く場所を見つけて、みんなでそこへ向かったんだけど……」


 ピクシーはそこで言葉を切り、震える手で(くう)を掻いた。


「……突然、消えたの。前のほうを飛んでいた仲間たちが、まるで見えない壁に吸い込まれるみたいに、音もなく消えちゃった。あたしは一番後ろにいたから、怖くなって、無我夢中で反対側に逃げて……気づいたら、この汚い街に迷い込んでたのよ」


「そんな……」


 エリナが絶句して口を覆う。


「……消えた?攻撃されたんじゃなくてか?」


 俺の問いに、ピクシーは激しく首を振る。


「違うわ!人や魔物の気配は一切しなかった。ただ、そこにあるはずの空間が、急に消えた……そんな感じだったの!」


 どうにもきな臭い話だ。

 魔物の仕業でもなければ、一介の冒険者の手にも負えそうにない。


 となると、背後にあるのは人間が作った大きな組織か……。


 俺は、ここからでは見えない王都の中心、そびえ立つ城壁の向こうを見やった。


「ねえ。私、この子を放っておけないわ。力になってあげましょうよ」


 エリナが依人の袖をぐいと引く。


 出会ったのも何かの縁だろうし、放っておけないのは同感だった。

 それに今の話は、俺たちがこれから探りを入れようとしている王立魔導院の不穏な噂と、関係があるかもしれない。


「まあ、幸い俺たちにはベネディクトもいるしな」


「どうしてここでベネディクトなの?」


「だって、あいつは空気を綺麗にできるんだろ」


 彼なら、このピクシーが楽に呼吸できる綺麗な空間を作ってくれるはずだ。


 俺はニヤリと笑ってみせ、まだ警戒しているピクシーに向けて、そっと手のひらを差し出した。

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