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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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50. スラム街の噂

 状況を確認するため、いったん外の様子を見に出ることにした。

 といっても、メンバーは俺とエリナだけだ。


 クロニカはテリオットと話があると言って残り、ベネディクトは「やりたいことがある」と一人でふらりとどこかへ消えてしまった。


 俺とエリナは、テリオットが貸してくれた黒っぽい外套を深く羽織り、街へ踏み出した。


「……なんだか、こうして二人きりになるのって、久しぶりな気がするわ」


「そうだな。……少し、喉乾かないか?」


 落ち着いて腰を下ろせるようなカフェなんてものは、当然ここにはない。


 俺は近くの屋台を見つけ、果実水を二つ注文した。


「はいよ、鉄銭40枚だ」


「え?」


 思わず聞き返してしまった。

 安い。これなら魔法鞄のストック用に、大量購入してもいいくらいだ。


 お礼をいい受け取ったコップからは、ほんのりと甘いベリーの香りが漂っている。

 俺たちはそれをちびちびと飲みながら、あてもなく歩き始めた。


 スラム街の空気は、今まで見てきた街とは違っていた。


 華やかな香水の匂いや焼きたてパンの香りの代わりに、ここを支配しているのは湿った土、そして至るところで立ち昇る煮炊きの煙だ。


 空を見上げれば無造作に張り巡らされた洗濯物越しに、色とりどりの煙が乱雑に混ざり合いながら舞い上がっていた。


「……ねえ、依人。あそこ、見て」


 エリナが指差した先では、広場に集まった数人の男たちが大きな魔物の甲殻を金槌で叩き割っていた。

 全員、上半身裸だ。


 本来なら廃棄されるような部位でさえ、ここでは貴重な資材として再利用されているのだろう。


 並んでいる屋台も個性的だ。

 トカゲの尻尾や、どろりと濁った色のポーションなど、見たこともないアイテムが並んでいて飽きない。


 残念ながら、鑑定しても大して価値のあるものはなさそうだったが。


 ここでは、人種間の差別や、貧富の差もない。

 ただ、今を生きる者たちが等しく混ざり合っているだけだ。


 俺たちが小汚い外套に身を包んでいても、誰も気に留めない。


(この外套を貸してくれたテリオットには感謝だな)


 余所者は勝手にしろ、だが俺たちの邪魔もするな、という特有の無関心さが、かえって今の俺たちには、どんな歓迎よりも心地よく、街の景色に静かに溶け込ませてくれていた。


────


「ある意味、活気があっておもしろいわ」


 路地裏からは子供たちの笑い声が聞こえ、そのすぐ隣では人相の悪い男たちがサイコロ博打に興じている。


 清濁併せ呑むような、剥き出しの生気。


 俺はベリーの果実水を一口含む。

 甘酸っぱい刺激が体内に行きわたる。


「……エリナ。俺たちが今まで見てきた街は、こういう場所を切り捨てて成り立っていたんだな」


「うん。でも、ここにある空気は、もっとずっと自由な気がする」


 エリナは少しだけ悲しげに目を細めた。


 足元の石畳はガタガタで、時折泥水が跳ねる。

 それでも、俺たちの足取りは不思議と軽かった。


「明るいうちに、もう少し見て回ろうか」


 しばらく歩いていると、広場の片隅で男たちが眉をひそめて話し込んでいるのが聞こえてきた。

 今まで見てきたような、他人に無関心という空気が、そこだけ異様だった。


「……また出たらしいぜ。西の揚げ物屋がやられたらしい」

「ああ、聞いたよ。少し目を離した隙に根こそぎいかれたんだろ?」

「ああ。すぐに周囲を確認したらしいが、痕跡は一つもなかったと。気味が悪りぃ」


 泥棒でも出没しているのだろうか。

 この手の噂は、暇人がでっちあげた作り話か、あるいは──本当にろくでもない事態の予兆だ。


「……ねえ、依人。あそこの人たち、何を話してるのかしら」

 エリナも不安を感じたのか、俺の袖を軽く引いた。


「少し、情報を拾ってみようか」

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