49 地下室
ということで、俺たちはテリオットの店の地下を使わせてもらうこととなった。
石造りの階段を降りると、そこには魔導具の部品や工具が散乱した、少しカビ臭い空間が広がっていた。
テリオットの言葉通り、魔法遮断の効果もしっかり効いているようで、防音性も問題なさそうだ。
「地下にこんな広いスペースがあるなんて……」
エリナが感心したように周囲を見回している。
「助かるよ、テリオットさん。ありがたく使わせてもらう」
「全然、構わないよ。クロニカとは昔からの付き合いだからね。少し散らかっているから、後で片付けておくよ」
俺の言葉に、テリオットは火傷のない方の頬を緩ませた。
「この辺なら、たまに見回りにくる王国騎士の目さえ気を付ければ、好きに歩き回れると思うよ。君たちの噂はここには広まってないみたいだから。ただ、変装はしておいたほうがいいだろうね」
だが、最後まで聞く前に、俺たちはもう一つの驚きと出会う。
階段の下、木箱が詰みあがったところに鎮座している巨大な毛玉がもぞもぞと動き出したのだ。
「ッ!依人、あれ!」
エリナが短く悲鳴を上げ、俺も反射的に振り向く。
「おっと、こんなところにいたのかい、ルナ」
テリオットがルナと呼ばれた白い毛玉に歩み寄り、優しく抱き上げる。
「そ、それは……?」
俺が戸惑いながら問いかける。
「この子は単眼兎。スラムで死にかけていたところを拾って、僕が魔力を分け与えて育てたんだ。名前はルナ。本来は凶暴な魔物なんだけど、この子はとっても大人しいよ」
頭を撫でられているルナは、テリオットに甘えるように「ギュルル……」と喉を鳴らしている。
鑑定してみると、確かに説明通りであった。
【単眼兎(個体名:ルナ)】
【種族】魔物
【レベル】22
【スキル】
『魔力捕食』
「なるほど……魔法を食べるのか」
「おっ、よく知っているね。そう、だから魔力付与を専門にしている僕からしてもありがたい存在なんだ。失敗した術式や、既存の術式を食べて取り除いてくれるからね」
術式を食べる、と聞いてクロニカが不安げに声をあげる。
「えっと、私の魔道具を食べたりはしないわよね?」
「ははっ、大丈夫だよ。積極的に魔力を食べるわけじゃないから。自分に向けられた魔法、あるいは僕が命令したものくらいだよ」
その説明に、彼女は胸をなでおろした。
「ええ……。最初はびっくりしたけど、こうして見ると少し……可愛いかもしれないわね」
エリナがおずおずと手を伸ばし、そのフワフワした毛並みに触れた。
ルナは嬉しそうに瞳を細め、エリナの手に体を擦り寄せている。
「よかった、気に入ってもらえたみたいだ。……それじゃあ、適当に荷物を置いてくつろいでくれ。ルナの隣は暖かいから、寝るには最適だよ」




