45 因果の縫合
周囲から下級アンデッドが群がってくる。
俺は『因果の強奪』を広域に展開し、『アンデッド』を根こそぎ奪い取ってから、水属性魔法で一掃する。
その間にもボーンレクイエムが巨大な腕を掲げ、黒い雷光を凝縮させようとする。
――シュンッ!!
その度に、クロニカの放った魔力遮断の杭が腕の根元に突き刺さり、黒雷は不発に終わる。
「ベネディクトさん!エリナの魔法に合わせて聖属性魔法を打ってくれ!できるだけ、持続時間の長いやつで頼む!」
「どうする気だ、坊主?」
「あんたの攻撃を、エリナの魔法に融合させる!そこから先は……神頼みだ!」
「よくわかんねぇが、あんたらならやり遂げるんだろうな。……面白い、乗ったぜ!」
ベネディクトがこれまでとは質の違う、静かな印を切る。
「エリナ、いつでもいいぞ!」
「うん……!並列詠唱……『ウィンドストーム』二重展開!!」
エリナが放ったのは、広範囲を蹂躙する二つの風の渦だ。
『観測者』である俺の右目には、その風から生じた「因果の糸」が、千々に裂けて明後日の方向へと伸びていくのが見えた。
彼女は、狙いを定めているつもりだろうが、『不確定未来』が、魔法の軌道を絶えず不透明にしている状況だ。
「聖なる光よ、楔となりて仇を穿て。──『パニッシュ・レイ』」
ベネディクトの指先から、眩い光の線が一直線にボーンレクエイムへと伸びる。
それは、窓から注ぐ太陽光のように、安定して浄化の魔力を供給し続ける。
「さあ、小僧。策とやらを見せてもらおうか」
腕を伸ばしたまま、ベネディクトが促す。
俺は右手でエリナの黄金の糸を、左手でベネディクトの黄金の糸をそれぞれ掴み、強引に一つへまとめようとした。
(エリナの魔法に聖属性を乗せる……!二つの糸を融合させるイメージで……ッ!)
しかし、糸は反発し、ただ束になるだけで混ざり合わない。
これではただの、「二つの魔法」のままだ。
(……違う、これじゃない!もっと深く……このバラバラの事象を一つに繋ぎ合わせるんだ……!)
その瞬間、右目の奥が、脳が焼けるような熱を帯びた。
黄金の羅列が脳内を激しく駆け巡り、視界を埋めていたエラーログが、一瞬で整然とした黄金の文字列へと書き換わっていく。
【――観測者:Lv2へ上昇。】
【――固有スキル『因果の縫合』を発現しました。】
霧が晴れるように、脳内が冴え渡った。
今やるべき事が、はっきりとわかる。
(……編む?そうか……無理やり融合するんじゃない、交互に編み込み、繋ぎ合わせるんだ!)
「よし、視えたぞ……『因果の縫合』ッ!!」
一色に見えていた黄金の糸が、今は鮮やかに区別できる。
ベネディクトの聖属性は濃い黄金、エリナの風属性は淡い黄金。
俺は、それらを指先で手繰り寄せ、交互に編み込んでいく。
「行け……ッ!!」
――ギュオォォォォォッ!!
聖なる輝きを纏った風の刃が、空間を切り裂く轟音と共に爆走する。
本来なら、ボーンレクイエムの体表面だけを削る程度の威力。
それが、依人の縫合によってあらゆる可能性を孕んだ一撃へと変化する。
無数のランダム事象──そのうちの一つが、ボーンレクエイムの核へと命中する。
――パキィィィィィィィンッ!!
異形の奥深くで、何かが砕ける高い音が響いた。
「まだだ……!もう一発いくぞ!二人とも、頼む!」
「聖なる光よ、楔となりて仇を穿て。──『パニッシュ・レイ』」
「並列詠唱……『ウィンドストーム』二重展開!」
再装填された光と風。それを、俺の指先が再び編み上げる。
「俺が繋ぐ……『因果の縫合』ッ!!」
放たれた風の刃は、空中で黄金色を纏い、巨大な聖なる暴風へと変貌した。
「ギ、ガ、ガ、アァァァッ!?」
危機を察知した異形が無数の骨腕を盾にするが、そんなものは『不確定未来』の前では無意味だ。
光の嵐は、物理法則を無視するように腕の隙間をすり抜け、最短距離で――。
――ドォォォォォォォン!!!
核にクリティカルヒットした衝撃が、巨躯を内側から爆ぜさせた。
「……ア、ガ……レクイ……エ……ム……」
爆発的な浄化の光が骨の隙間から溢れ出す。
数千の死者の想念を繋ぎ止めていた呪縛が、聖なる奔流によって一気に解かれていく。
――パキィィィィィィィンッ!!!
視界を埋め尽くしていた不快なログが、パッとテレビの電源を切るように一斉に消灯した。
山のような肉体──もとい骨体が、さらさらと崩れ落ち、乾いた灰の山を作る。
「……はぁ、はぁ……やった、のか?」
俺は膝をつき、精神的疲労から荒い息をつく。
後には、静まり返った森。
隠密に徹していたクロニカが、木の上から音もなく舞い降りてきた。
「……工芸品の在庫、ずいぶん使わされましたわ。あとで高くつきましてよ」
「上出来だ、坊主ども。……さて、まずは生き残ったことを祝おうじゃねぇか」
ベネディクトの快活な笑い声が、ようやく戻ってきた平穏な森に響き渡った。




