44 鑑定士は苦戦する
――ズドォォォォォォォン!!
視界が、どす黒く染まった。
轟音が鼓膜を突き破り、巻き上がった土埃と瘴気が視界を奪う。
「エリナ……ッ!!」
叫ぶ俺の声は、空しく風に消えた。
目の前が真っ暗になる。
防御スキルを持たない彼女が、あんなものを食らって無事でいられるはずがない。
「――おい、坊主!気を抜くな!光あれ。闇を灼き、安寧を。――『ホーリー・グレア』!」
ベネディクトは視線を異形に据えたまま叫び、すかさず反撃に転じていた。
俺がエリナの元へ駆け寄るうちに、巻き上がった土埃も晴れていく。
そこには、信じられない光景があった。
エリナは、立っていた。
地面は彼女の足元まで深く抉られ、周囲の木々は消滅している。
だが、彼女の周囲だけがまるで何事もなかったかのように無事なのだ。
「……え、あ……私、生きてる?」
エリナ自身も、呆然としている。
『――対象の固有スキル【不確定未来】の発動を確認』
脳内に響く無機質な声。
(そうか、彼女の固有スキル『不確定未来』によって直撃するという未来が、書き換わったのか……!)
「……ア、ガ、ギィ……ッ!?」
ボーン・レクイエムが困惑したように、無数の頭蓋骨をカタカタと震わせる。
今の一撃は、この化け物にとっても渾身のものだったはずだ。
それをなかったことにされたわけだから、動揺もするだろう。
だが、その動揺は即座に猛烈な怒りへと変わった。
ボーン・レクイエムは、翼の形をした骨で瘴気の波動を飛ばす。
「おっとぉ!?」
聖属性魔法で注意を引いていたベネディクトが吹き飛ばされる。
「キュオォォォォォォォォォオオ!!」
今までとは質の違う、大気を震わせる高周波の咆哮。
(まずいな、今はいったんコイツを止めないと!)
──『鑑定』!
俺は、先ほどの要領で、ボーンレクイエムの体表面にへばりついた骨をそぎ落とした。
だが、怒りに身を任せたボーン・レクイエムは止まらない。
数十本の腕が蛇のように蠢き、再び黒い雷光を一点に収束させ始めた。
(あの攻撃の正体さえわかれば対処も出来るが……今は、避けるしかない!エリナを抱えて跳躍する!)
エリナの元へなんとかたどり着き、彼女を抱えようとしたその時。
──ヒュン!ヒュン!ヒュン!
樹上に隠れていたクロニカが、銀の杭を矢継ぎ早に投擲した。
それは見事に、ボーンレクエイムの腕の付け根に突き刺さっていく。
「助かった!なんだ、あれは?」
「魔力遮断の杭ですわ。時間は稼ぎましたから――あとは、どうにかなさってくださいませ」
声だけを残し、クロニカは別の木に飛び跳ねる。
あっという間に見失ってしまった。
「どうにか、って言ってもなぁ……」
有効打はあるのだが、決定打にかける。
バカ正直に魔法を撃っても、この巨躯の表面を焼くだけで終わってしまう。
要するにベネディクトの聖属性魔法を、最大限に生かす方法があればいいのだ。
俺は、目の前にいるエリナの顔を眺めながら思考を巡らせる。
「?何か私の顔についてる?」
彼女の首元で揺れる、ウサギ型のペンダント。
(そうか!これらを組み合わせれば、上手くいくかもしれない!)
俺は目の前のエリナに、作戦を伝えた。
────
どうやら先ほどの咆哮は、周囲の下級アンデッドを呼び寄せるものだったようで、この戦場に更なる敵がたくさん集まってきていた。
「クソッ!アイツ、どんだけ余力あんだよ!こっちはもうヘトヘトだってのによ!」
ベネディクトは、服のポケットから魔法薬を取り出すとそれを一気に飲み干す。
「最大火力をこんなに連発するのも久々だぜ」
集まってきた小型アンデッドは、俺の『因果の強奪』で比較的楽に狩れている。
アンデッド属性を取り除いてしまえば、物理でも魔法でも一撃で仕留められる。
ボーンレクイエムに関しては、クロニカの援護もあり何とか大きな攻撃は阻止出来ている状況だ。
だが、それも長くは持たない。
「ベネディクト!策があるんだ、聞いてくれ!」




