43. 鑑定士は天敵と遭遇する
「……チッ、詠唱の暇も与えてくれねぇか!」
ベネディクトが指を突き立て、魔力の弾丸で異形の腕一本を打ち抜き、黒い雷光を一つ消し去る。
しかし、数十本あるうちの一つに過ぎない。
ボーン・レクイエムの腕先が眩く光ったかと思うと、黒い雷光が解き放たれる。
「避けろッ!!」
直後、強烈な黒いレーザービームが俺たちに向かって飛んでくる。
――シュパァッ!!……ズ、ズドォォォォン!
各々四方八方に飛びのき、俺たちがいた場所には黒く穿かれた大地が残った。
お互いの安否を確認したいところだったが、間髪入れず次のレーザービームが飛んでくる。
――シュパァッ!!……ズ、ズドォォォォン!
次々と降り注ぐ黒雷のレーザービーム。
「私は隙を見て援護に回りますわ。隠密に徹しますから、私のことは気になさらないで」
いつの間にか俺の真横に来ていたクロニカはそう言い残し、戦線を離脱する。
「光あれ。闇を灼き、安寧を。――『ホーリー・グレア』!!」
回避しながら印を切り、魔力を練り上げていたベネディクトがボーン・レクイエムに向けて聖属性魔法を放つ。
──フォォォォォ……
柔らかな光が、巨大な異形の一部を包み込む。
浄化の光に焼かれ、表面の骨が灰となって崩れ落ちた。
そちらに気を取られたのか、黒い雷光による攻撃が一瞬止まった。
「一応効いている……のか?」
しかし、中から新しい骨が生えてきてすぐに体表面は再生してしまった。
「ダメか!対象がデカすぎる!」
ホーリー・グレアの白光と、黒雷の衝突。
決着のつかない攻防が繰り広げられる。
「チッ、埒が明かねぇ!」
(……俺も、やるしかない!)
俺は、あえて再び情報の洪水へ飛び込んだ。
(全体を見るな、一点に絞れ!『鑑定』!)
対象を全体ではなく、異形の眼にあたる部分にのみ意識を研ぎ澄ます。
視界に、先ほどと同じようなログが大量に表示される。
照準を絞っているとはいえ、その量の膨大さにやはり脳がパンクしそうになる。
【ジャイアントスパイダーの脚】【フォレストウルフの亡骸】【フォレストベアの頭蓋】……
【状態:融合中】 【状態:融合中】 【状態:融合中】……
痛みになんとか耐え、半ば気合気味に声を張り上げる。
「これくらいなら!余裕で制御できるんだよぉッ!」
俺は、鑑定ログを片っ端から掴み取るイメージで右手を突き出した。
ターゲットは、すべての骨に共通して表示されている――【状態:融合中】。
「まとめて引き抜いてやる!『因果の強奪』!」
ベネディクトのホーリーグレアのように表面だけ、削れればいい。
その思いで全力を込める。
『――【状態:融合中】を強奪。――【状態:融合中】を強奪。』
ガガガガッ、と脳内にログが流れる。
【警告:【状態:融合中】を排出しますか?】
もちろん、イエスだ。
俺の決死の一撃は効果があったようで、右手を向けた箇所の骨たちが、バラバラと地面へ崩れ落ちていく。
「へぇ、聖属性魔法なしでそこまで削るか!」
ベネディクトが驚嘆の声を上げる。
だが、ボーン・レクイエムにとって、それは顔にたかる羽虫を払うような苛立ちに過ぎなかった。
「―――ギィイィィイイイイアアアアアアアッ!!」
異形が天を仰ぎ、咆哮する。
「チッ!またさっきの攻撃か!みんな後ろに下がれ!」
皆が散り散りに、後方へ退却する。
瘴気の波動──。
邂逅直後、俺たちを吹っ飛ばしたあの攻撃が来る──。
そう、思った。
異形がその首を地面に向け、いざ攻撃が解き放たれるように見えた、その時。
異形の眼が、不自然なほど滑らかに回った。
その矛先が捉えたのは、俺でもベネディクトでも、ましてや隠密に徹しているクロニカでもない。
後方で機会を伺っていたエリナだった。
「エリナ、気をつけろ!狙いはお前だ!」
「……ぇ?」
俺の声に、エリナが小さく顔を上げる。
俺は遮二無二駆け寄ったが、間に合わない──。
ボーン・レクイエムの口から、黒いレーザーが放たれる。
それは一直線にエリナに向かっていき──。
──ズドォォォォォォォン!!
それは無慈悲に、彼女がいた場所を飲み込んだ。




