閑話② 勇者の迷宮探索
バザルトのダンジョン入り口。
それは、断罪山脈の崖に穿たれた、不気味な黒い穴。
その穴が物理的に山の中へ繋がっているか、あるいは異界の地下へと繋がっているのか。
知る者は誰もいない。
そんな、殺風景な入り口の手前に、その地には不釣り合いな程の豪華なテーブルと椅子が設えられていた。
テーブルの上には最高級の茶葉が香るティーカップ、そして高級なお菓子も完備されている。
その椅子に座る勇者が、五人。
「チッ。せっかく俺たちが来たっていうのに、なんだこのペースの遅さわよォ!」
相変わらず粗野な口調で禍津陽向が毒づく。
「時間はたっぷりあるんだ、急ぐことはあるまい。……もっとも、探索時間が一日二時間というのは、少々短すぎるとは俺も思うがな」
リーダーの九条廻が優雅にカップを置いて禍津陽向を窘めた。
「そうよ、私たちが本気を出せばこんなダンジョン、一日で踏破できるのに」
白縫鏡花が金髪の編み込みを揺らし、退屈そうにお茶菓子を口に運ぶ。
その横で月読灯矢が淡々と事実を語る。
「意図的に間延びさせてるんだろうね。勇者に対する狂信的なファンは多い。彼らに、しっかりと僕らが活動している姿を見せる……僕たちが今やっていることは、世間向けのパフォーマンスに過ぎないよ」
「ええ?じゃあ、ダンジョンに眠る秘宝なんてのは嘘なの?私たちの目的は、深層に眠る聖遺物を持ち帰ることでしょ?」
天音未来が露骨に不満を漏らす。
眉間に寄った皺のせいで、せっかくの美貌が台無しだ。
「今さら、俺たちに聖遺物なんて要らないだろ?天音は相変わらず金目の物が大好きだな」
「当たり前でしょ。他に欲しいものなんてないんだから」
九条廻の茶化しに、天音未来は真顔で応じ、それを見た白縫鏡花が天を仰いだ。
「あーあ、なんか面白い事ないかなー。ここの街の住人でもいじめて遊ぼうかしら」
「何度も言っているが、無闇に民に手を出すな。……俺たちに逆らう者なら、徹底的にいたぶって構わんがな」
「――それで?例の『鑑定士』はどうなったんだ?」
禍津陽向の問いに、九条廻は思い出したように口を開く。
「ふむ……そういえば存在したな、そんなのが。完全に失念していた。さすがに、もう捕まっているだろう。──おい、衛兵!」
心底どうでもよさそうに衛兵を呼びつけ、彼は捕まったかと尋ねる。
そして、「まだ捕らえておりません」という報告に、あからさまに不機嫌になる。
「なん……だと……?あんなハエの子一匹に、何を手こずっている?騎士団は遊んでいるのか?」
「い、いえ!一度は発見し、追跡したのですが見失ってしまい、そこから痕跡がパタリと消え……」
「クソッ、あのゴミムシが!やはり俺が……ふん、まあいい。俺が手を出すまでもない。引き続き、大罪人として追わせろ」
冷静さを取り戻した九条廻は、衛兵を下がらせた。
そこまで深追いしないのは、彼にとって、依人たちの命懸けの逃走劇は、退屈なダンジョン攻略の合間に楽しむ余興に過ぎなかったからだ。
しかし、その傍らで禍津陽向だけは、依人の無事を聞いて密かに胸を撫で下ろしていた。
────
その頃、話の渦中にある依人は、森にてアンデッドに囲まれていた。
実体を持たないゴーストと、カラカラと音を立てるスケルトン。
どちらも、通常の攻撃が効かない厄介な存在である。
ベネディクトには、試したいことがあると伝え、後方に控えてもらっている。
「まずはお前だ──『鑑定』……からの『因果の強奪』」
【名称】スケルトン
【種族】 アンデッド
【レベル】17
【基本ステータス】
HP:101 / 101
MP:70 / 70
筋力:64
防御:62
敏捷:55
魔力:88
精神:72
【スキル】
『剣技Lv1』『盾技Lv1』『アンデッド』『瘴気纏い』
(レベルもステータスもこんなに低い……なのに!)
右目で捉えたログには、『アンデッド』と『瘴気纏い』の詳細も書かれている。
『瘴気纏い』は字のごとく、周囲に瘴気をまき散らすパッシブスキルのようだ。
そして、『アンデッド』こそが根幹で、これこそが物理や魔法を無効化し、自動修復を可能にする要因のようだ。
つまり、このスキルを奪ってしまえば俺にも勝ち目があるというわけか──。
思った通り、スキルを失ったスケルトンは、魔剣で簡単に一刀両断出来た。
再生の兆しは、ない。
続いて、もう一方のゴーストの鑑定結果は──。
【名称】ウィスプ
【種族】アンデッド
【レベル】16
【基本ステータス】
HP:86 / 86
MP:72 / 72
筋力:22
防御:28
敏捷:53
魔力:76
精神:82
【スキル】
『麻痺付与Lv3』『HP吸収Lv2』『アンデッド』『瘴気纏い』
「依人、大丈夫!?」
エリナが叫ぶ。
鑑定しているうちに、ウィスパーが俺の体を通過したのだ。
というより、あえて通過させてみたのだが──。
どうやら、通過する際に『HP吸収』をされたらしく、少しだけ俺のHPが削れている。
(なるほど……攻撃されても大した脅威はなさそうだな。──だが!)
無慈悲にスキルを奪い、今度は水属性魔法の一撃で仕留める。
特に、スケルトンが持つ『剣技』のスキルは、依人にとって絶好の収穫物だった。
最初は薄気味悪いと感じていた魔物すらも、依人の瞳にはスキルの宝庫として映るようになっていた。
「ベネディクトさんに浄化される前に、こっそり奪っておくか……」




